LINEノベル、参入
みなさまもご存知SNSアプリ・LINE。
そのLINEがWeb小説サイト『LINEノベル』の開設と、文芸新レーベル『LINE文庫』とラノベレーベル『LINE文庫エッジ』を創刊することを発表しました。
電撃文庫の中でも特に人気が高い『ソードアート・オンライン』などをはじめとした多くの作品を世に出したヒットメーカーである三木一馬氏の主催する『ストレートエッジ』さんが大きく関わっているそうです。
サイトオープンに合わせて『令和小説大賞』を開催すること、またクリエイターに直接収益を還元する仕組みの実装や、出版社の垣根を超えて書籍化されることもありえる、といった要素も注目された大きな要因であることと思います。
当コラムでも出版業界・書店業界の厳しい事情を取り上げざるを得ない状況が続いており、多くの方から斜陽産業とも揶揄されています。そんな中出版社さんも時代の変化に対応すべく色々と新しい動きを模索されている、ということなのでしょう。
クリエイターさんへの収益還元、といった話についてはほかの方がすでに書いてくださっているみたいですので……ここでは
「クリエイター保護の方針を打ち出しているのはわかった。じゃあLINEさんと出版社さん側の利点はなに?」
といった方向から書いていきたいと思います。
なぜここで出版関係の方々はLINEさんとタッグを組むのでしょうか?
……と考えた時にまず挙げられるのはLINEさん本体の圧倒的なシェアと知名度の高さでしょう。
そこからユーザーさんを呼び込めれば、既存のWeb小説サイトの勢力図を一変させかねないほどのポテンシャルを持っていることは論をまたないことと思います。
また、先行して電子上で読むという習慣が広がりつつあるコミック部門に目を向けてみると、LINEさん運営の『LINEマンガ』が、『ジャンプ+』などの各種出版社さん運営のアプリを押さえて市場の半分を上回る57%もの売上を記録※しています。※2018年度。Mobile Indexさん調べ
業界2位の『ピッコマ』さんがおよそ15%なので、この数字がいかに圧倒的か、おわかりになるかと思います。
なおピッコマさんの運営元は『カカオトーク』という、韓国ではLINE以上のシェアを誇るSNSアプリを運用しているKAKAO JAPANさんです。
LINEさんからしてみれば電子コミック部門の好調を背景に一気に小説部門でもシェアを広げたい、という狙いがあるでしょう。
また出版社さん側もLINEさんの高い知名度を背景に、書籍化タイトルの認知度を高め、売上につなげたいという狙いがあると思います。
『グランブルーファンタジー』などで有名なゲーム会社であるサイゲームスさんが講談社さんとタッグを組みコミック部門に進出、講談社さんからサイコミレーベルで書籍を出版、という動きがありました。
ソフトウェアの開発が主体の企業さんが実際の『モノ』にも関わっていく、というような流れのうちに今回のLINE文庫、LINE文庫エッジも当てはめることができそうです。
いくら既存のシステムにいくらか無理が出ているとしても依然として1兆円産業であり、産業として大きく、関わっている人も多いわけです。全国にあまねく書籍を行き渡らせることのできる出版業界とタッグを組む意味はLINEさんから見ても決して小さくないはず。
ゲームやコンピューターの雑誌から始まり現在はGA文庫といったライトノベル、サイエンス新書などの分野にも進出するようになったソフトバンクさんのようなモデルを視野に入れているのではないでしょうか。
AmazonさんやNetflixさんなどのいわゆる「サブスクリプション方式」で爆発的にシェアを拡大しているようなところもそうですけど……
外資も含めた現代のシェア獲得競争を生き残るためには、多様なコンテンツを集めた『胴元』として多くの顧客を囲い込み、そして繋ぎ止められるか──にかかっているように見えます。
App StoreさんやGoogle Playさん、日本で言えば楽天さんやDMMさん。
KADOKAWAさんのBOOK☆WALKER、niconico……そしてカクヨムもそうしたユーザー囲い込み競争の延長線上にあると見てよいでしょう。
自分の持ち場に多くの固定客となってくれる層を集められる『場』としてのWebサービスを提供できるか。
ここが企業の生死を分けるようになっているのだと思います。
そうした点から見ると多くのユーザーをすでに獲得済みであるLINEさんはかなりのアドバンテージを持っていると見るべきで、カクヨムさんにとっても非常に大きな脅威と認識されているはず。
だからこそ、なんとしてもLINEノベル発表前に収益化の方針を打ち出さねばならなかったのだと思います。
おそらくKADOKAWAさんとしてはストレージエッジ≒電撃文庫を介してLINEノベルさんとも関わりつつ、他方MF文庫などのレーベルではカクヨム、といった感じで現在より一層カクヨムさんの運営を強化し対抗する二正面作戦を想定していることでしょう。
私としてはカクヨムさんおよびKADOKAWAさんには純日本コンテンツの豊穣な拠点として踏ん張っていただければなあ……という思いでいます。
LINEさんがクリエイター保護を打ち出し収益化・書籍化などの面で魅力的な条件でもって進出してこられた、ということについては全面的に歓迎したいです。
一方で、やっぱりKADOKAWAさんもそうだしほかの出版社さんにも踏ん張っていただきたいです。この数年がほんと大事になってくるでしょうね。
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