日笹賀日向編 その1

001


日笹賀日向ひささかひなたは、潮海高校に通う一年生だ。

実は、僕はこの子がまだ小学生の時から知っている。

と、いうのも、僕が昔住んでいたマンションの管理人の娘なのだ。

小さい頃から父親がいない僕は、母親が仕事の間、何故か管理人室によく預けられていたのだけれど、

そこで出会ったのが日笹賀日向だった。

初めて会った時。日向は、

管理人さん──つまり、自分の両親の後ろに隠れて恥ずかしそうに目を伏せていた。

そんなモジモジした日向を姉のかなでが「早くー」と言って無理矢理引っ張りだして来た。


姉といっても、誕生日、背格好、顔は殆ど同じ、一卵性双生児、つまり双子である。

その二人の見た目は、両親でさえ間違えてしまうほどに似ている。

お互いに髪型が大体いつも決まっているので、見た目的にはそこが一番分かりやすいだろう。

姉の方は大体ポニーテール、妹は肩までの髪に前髪をカチューシャであげている。


しかし髪型以外にも一つ、寧ろ一番、二人の違いを見分けやすい圧倒的に違うところがある。


そう、彼女達は性格が真逆だった。

分かりやすく言えば、

姉の奏は、超アウトドア派であり、外向的な性格であり、

妹の日向は、またしても超がつくほどのインドア派であり、内向的な性格である。


まるで陰と陽である。

更に分かりやすく言えば、


『実行してから考える』のが姉の奏であり

『考えてから、考えた上で実行しない』のが妹の日向である。


姉の奏はそんな日向の事を幼い時からよく心配していた。

しかし、そんなに心配しなくても大丈夫なのにと、心配性の姉に心配するのが妹だった。


凸凹といえる二人であったが、凸凹が故にぴったりとはまるというやつだろうか。

この姉妹はなんだかんだいっても仲が良い。

姉は妹の事を『ひなちゃん』と呼び、妹は姉の事を『奏姉さん」と呼んでいる。


しかし、奏と違って友達が少ない日向は

僕以外で誰かと遊んでいるのは一度も見た事がない(学校でたまにクラスメイトはいるらしい)。

大体いつも一人で過ごしており、日向という名前に反して、日陰者という印象がある女の子だ。

昔、姉と姿形は似ているのに、性格が全然違うことから姉の偽物だといじめにあっていたこともあった。

その時は僕と奏でいじめを辞めるように日向のクラスに乗り込んで行ったことがあった。

今からすれば考えられないだろうけれど、その時の僕はまだこんな歪んだ性格ではなかったのだ(僕が真っすぐでまわりが歪んでいるのではないか)。


しかし元が内気な性格が故に、それからもいつも周囲に気をはらい、誰かの意見の前では自分の意見をつい引っ込めてしまうところがある。

本人曰く、目立つ事はしたくないのだそうだ。

だから一人で出来るような趣味が多い。

占いだったり、音楽鑑賞だったりーー

それに昔から本が大好きで、中でも特に推理小説を好んでよく読んでいた。

普段は大人しく、口数少ない彼女だったけれど、推理小説の話になると、目をキラキラ輝かせて僕に色々話してくれた事をよく覚えている。


『よくホームズといえば被っている帽子を鹿撃ち帽っていうんだよ?

『でも作中で鹿撃ち帽を被っているなんて事は一度も書かれてなくて、挿絵に描かれたイメージが広まってみんながよく思うホームズになったんだよ。

『でも凄いよね、昔から今もホームズといえば世界中で知らない人はいないってくらいの名探偵だもんね。

『ワトスンもホームズの活躍をみんなに知ってもらえて本当に嬉しかっただろうね。助手としても、語り部としても。ホームズあってのワトスンだもん。


──でも、本当は逆かもしれないけどね。


なんて事を言っていたのを思い出す。

普段は大人しい人間だからこそ余計に印象深く残っている。


しかし中学に上がる前に、僕が隣の街に引っ越して学校も変わって疎遠になっていたので、

はっきり言って本当は最近まで忘れてしまっていたのだけれど。


これが同じ学年の生徒は愚か、同じクラスメイトですら顔と名前が一致しない僕が、この一年生の事を知っている理由だ。

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