脱走劇の真実

あれから何日経ったか、もう分からない。

最初は脱出も考えた。

でもすぐ無理だと悟った。


あまりにも隙がなさすぎたからだ。



この状況を受け入れてからはとても心が安らいだ。


……もう、このままでいいかもしれない。

そう考えるようになったのが、昨日の夜寝る前。


自分一人の広い部屋で、自分一人で寝るとても寝心地のいい布団より、


誰かと少し狭い部屋で寝る、まだ違和感があり、少し寝心地の悪い布団のほうがいいと思った時だ。


外に出ること、外に繋がりを持つことさえ望まなければ、彼女はなんでも望むものを用意してくれるし、


この部屋にいたからといって、何か不自由があるかと言えば、そうではないからだ。


外に出たい理由も、よく考えれば特になかった。

なぜ出たいと思ったのか?

それは多分出るなと言われたから。

やっちゃいけないと思うと逆にやりたくなるあの真理と同じだ。

親は心配どころか、僕がしばらく帰っていないことにすら気づいていないだろう。

そういう人達だ。


これでいい。

いつか、彼女の気が済むまで付き合おう。


僕があきらめて、考えるのをやめようとした時――


彼女が現れた。

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