ザ・ヒロイン‼︎……?
最近体に傷が増えた。
たしか、アルバイトを始めた頃からだ。
指は切り傷だらけになるし、腕は火傷だらけ。
中には一生消えない傷もあるかもしれない。
……でも、私の手首についた無数の切り傷は、それらの中でついたものではない。
自分でつけたものだ。
私のうちは、父、母、私の三人家族で、優しい母に、口数は少ないが頼りになる父。
私は一人っ子で、両親にも愛され、普通に、何不自由なく毎日を過ごしてきた。
普通に学校に通って、普通に授業を受けて、
普通に中学を卒業して、高校へ進んで、
高校に入学すると同時に、社会勉強のためにアルバイトをしたいと言っても、反対もされず、あっさりと許可がでた。
まわりのみんなもすると言っていたし、私も興味があったから。
ついでに遊ぶお金が手に入るなら一石二鳥だと思ったし。
みんなは、コンビニや、ファミレスの店員などを、普通のアルバイトと言って、やっていたけど、
今まで普通に育ってきた私は、普通じゃないことをしてみようと考えていたため、少し変わったところに応募した。
こうして、無事、採用された私は、レストランのアルバイトを始めることにした。
レストランのバイトは割と普通かもしれない。
でも、みんなと少し違うのは、料理を出す方でなく、作る方なことだ。
包丁も使うし、火も使う。油や、刃のついた機械なんかも。
体力も使うから、家に帰ったら何もせずに、死んだように寝るなんてよくあること、
みんな知らない人だし、全員が、私よりもずっと年上の、おじさんやおばさんだらけ。
分からないことや、できないことは山ほどあるし。
それをなんの気なくこなしていく周りの人達に押されて焦り、さらに追い込まれていく。
……精神的にもかなり疲れた。
何度もやめようと思った。
いくら社会勉強のためにとか、普通じゃない、少し変わったことがしてみたかったといっても、限界があるし、
お金だって、お小遣いや貯金があるから、そこまで困っていない。
遊ぶための足しにするくらいにしか考えていないのだから、そこまでしんどい思いをしてまで続ける理由がない。
でも、今でもやめることなく続いている。
なぜなら、私にはここをやめられないある理由ができたから。
恥ずかしながら、好きな人ができたのだ。
少し前に一緒に働いていた人なのだけど、同じ部署で働く先輩で、まだ入ったばかりで、分からないことだらけで慌てる私に優しく話しかけてくれて、
失敗した時には笑顔でフォローしてくれた。
怒られて落ち込んだ時は頭を撫でてくれて励ましてくれた。
年の近い仲間がいない中、僕も同じだと、時間があれば話し相手になってくれた。
彼の優しさに、私は次第に惹かれて行った。
こんな人とずっと一緒にいられたら……
なんて思ったこともある。
いつか、告白できたらいいな。
と思って、毎日ヘトヘトになりながらも、彼と少しでも同じ時間を過ごすため、働くことができた。
しかし、
ある日突然何の報告もなく姿を消してしまった。
誰にも何も言わず、居なくなってしまったのだ。
どこへ行ってしまったのか、検討もつかない。
連絡もとれず、家にも誰もいないらしい。
最初は事件も疑われた。
が、誰も何も言わないから、いつしか、彼の話題は無くなった。
もう、2度と会えないかもしれない。
もしかしたら、現実に疲れた私が幻覚を見ていただけかもなんて考えたこともある。
だが、私は、いまだに彼がここへ帰ってくると信じて待っているのだ。
最近では、待つだけではなく、毎日心当たりを探しながら、あらゆる手をつくして彼を探している。
――彼とまた話がしたい。
――彼に触れたい。
――彼のあの笑顔をまた見たい。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。
幸い、最近手がかりがいくつか手に入り出した。
近いうちに見つけられるだろう。
……絶対に彼を見つけ出そう。
見つけ出して、この気持ちを告白しよう。
そしてあわよくば……
――絶対に‼︎彼を取り戻す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます