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昨日新しく仕入れたブレンドの紅茶を丁寧にいれてカウンター越しの巨体に差し出す。いつもよりカップが小さく見えるのは気のせいだ。
「はぁ・・・美味しい」
「ありがとうございます」
自分のコーヒーに自信がない訳ではないが、さすがに熊谷さんにコーヒーを出すのは躊躇われた。
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ」
乗りかかった船、とも言う。まぁ俺は人の相談事とか、訊くのは好きなのだ。
「それで、どうなりました?」
「あ、の」
熊谷さんの相談とは、ずばり恋について。常連のお客様に初恋をした熊谷さんに、告白をしたいのだと突然相談されていたのだ。しかも相手の名前も知らない。知っているのはカフェラテが好きだと言うことだけ。
正直、それでも告白したいというのだから凄いと思った。俺にはそんなこと、多分考えられないから。
「名前、分かりました?」
「はい、どうにか」
とりあえず、名前を訊くところから始めましょう、と前にアドバイスしていた。って、俺は恋のカリスマとかでもなんでもないんだけど。なんか桐嶋のババァに遊び人だとホラを噴かれているみたいだけど、全然違うし。
「キョウコさんとおっしゃるそうです」
「そうなんですね。よく分かりましたね」
「えへへ」
巨体におしゃれ髭。それでいて恥ずかしがり屋でシャイな熊谷さんが、よく訊くことが出来たなぁ。感心感心。恋の力ってのは凄いなぁ。なんて思ったのは束の間。
「鞄にストラップが」
「訊いてねぇのかよ!」
「すみませんっ」
いや、謝ることじゃない、謝ることはない! 前進はしている、停滞はしてない。成果ではある。でも、これでは次には進めないのは確かだ。
「名前を訊くのは、どちらかと言うとそれよりもコミュニケーションを取れたらなと思っていたので」
「コミュニケーション?」
「熊谷さんは今、カフェの店長とでしか認識されていません」
多分ね。
「だからこそ、気づいてもらうというか、気にしてもらうと言うか、ここにいてるよー! をアピールしないと」
「アピール、ですか?」
「まずは彼女の中に自分の存在をアピールすることです。認識してもらってから、気持ちが向くと思いますから」
そうじゃなきゃ、好きとか嫌いとか、そういう気持ちを持ってもらえないから。
「なるほど、アピールですね」
ふんふん、と頷くその姿に『あ、これまだまだ続くわ』と心の中で呟いた。
いいじゃない、面白いじゃない!
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