第6話 講話か、抗戦か

あの海戦の数日後、ガルシア王国沿岸に大規模艦隊が出現した。その数は分かっているだけでも80隻以上。クロウレア連合の総数に匹敵する大艦隊だ。


「思ったより動きが早いな」


「私としては、大艦隊を直接率いて迎え打ちたい気分ですな」


阿南はそんなことを言っている。阿南は艦隊決戦に向いているようにしたから、思考もそうなっているんだな。


「陸軍の配置は完了しました。新兵部隊も動員し、なんとか敵艦隊の見えるすべての海岸線に防衛拠点を設置できました」


「分かった。クロウレア連合軍は到着したか?」


「あと2時間は掛かるかと」


「そうか」


技術力の差で勝てればいいが、上陸部隊の規模次第では突破される可能性がある。報告によれば味方の艦隊も帆船らしい。


敵艦隊はもはや一国の軍隊レベルであり、とても海賊とは思えない。まさか侵略か?あまりにも早い動きと統率力は驚くばかりだ。


「敵艦隊の国籍が判明しました。土竜群島連合です」


土竜群島連合、たしか四つの島国が集まって構成している連邦国家だったはず。ドワーフ族、人間族、魚人族の国家で、水産業の盛んな国らしいが………。


「陛下、敵の攻勢が始まりました」


「思ったより早いが、大丈夫か?」


「それは、わかりません」


宣戦布告も無しの攻撃だ。国際協定がほとんど無いとはいえ、やりたくない手口だ。駆逐艦隊だけでは不十分だろうが、頑張ってくれよ。


――――――――――――――――――――


「ラシード王、ホルス王子。分かっている通り、土竜群島連合は侵攻してきた、これは事実。今こそクロウレア連合の一員として戦うべきだろう!?」


「しかし、相手は海洋国。我々の海軍では、とても太刀打ちできないのでは?」


「ホルス王子!?」


「全くだ。暁皇国だって、成り上がりの国家で、軍備は乏しいと言うではないか。即刻、講話すべきだ」


「ラシード王まで!?」


ここは内陸部のシルバニア王国の首都『サーバー』。現在ガルシア王ラクセン、シルバニア王子ホルス、ファルシウス王ラシード、リゲル王ゼン、メニディア大公イレーネが集まっている。あとは、谷口が来るだけだ。


「ラクセン王。現状をみたまえ、土竜連合の80隻を越える大艦隊、上陸部隊も未知数。これをどう討つ?」


「ぐっ………」


ゼンの言葉にラクセンは唇を噛んだ。すでに戦闘は始まっているが、敵軍の規模に、皆降伏に傾いていた。早期講話というのはこの時代では要求を減らすことができる。しかし、相手の発言権が高い場合、属国にされることもある。


「遅れて申し訳ありません。谷口です」


「貴方がタニグチか。リゲル王国国王、ゼンだ」


「私はメニディア公国大公のイレーネと申します」


谷口が来たことで、本格的な会議が始まった。まず、谷口は各国の意思を聞いた。各国首脳がどんな考えを持っているかを知るためだ。


結果、抗戦2、反戦2、中立1。


拮抗状態だな。俺としては負けたくはないんだが、反戦グループは連合軍の要だ。抜けられると困るんだが………。


「断固戦うべきだ!」


「いや、講話だ!」


例えばこの戦いに勝ったとして、敵は諦めるだろうか。土竜群島連合、これだけの大艦隊を持つんだ。諦める可能性は低いな。そう全力でない限りは。


解決の糸口は、見えないままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る