決戦:協力


 戒理と別れ外界落ちの対処に当たっていたファナ・シメールはセカンドノアの元同僚・蟲徒との交戦に入る。

「邪魔しないでください!」

「まあ、そんな邪険にしないでくださいな、軍の方々に歯ごたえが無いものですから、暇を持て余していましたの、あなたなら遊びのお相手にピッタリ♪」

 そう言って、蟲徒は、自らの配下である羽根の生えた愚者級の外界落ちにファナを攻撃させる。

(蟲徒は自分の操る蟲を外界落ちに寄生させてる……そのやり方自体は私が持ってる吊男級を混ぜて操るのといっしょ……だったら蟲徒が操る外界落ち減らしつつ、まだ寄生されていない分はこっちが先に操る! 先に操っておけばアイツの蟲が寄生しても指揮が二つにあって混乱した外界落ちが自滅する……筈、問題はどう実行するか、だ)

 蟲徒が仕掛けてくる外界落ちを爪による攻撃で処理しながら、ファナは方針を決める。

(数じゃ不利すぎる蟲徒本人がいるこのあたりの外界落ちは全部アイツの支配下……なんとか軍の協力を取り付けてこのあたりから処理したいければ外界落ちの数は効率的に減らせるのに……だけど私はセカンドノアの一員だった人間だし話を聞いてもらえるかどうか……)

「なにをそんなにきょろきょろとしていますの? 今は戦闘中ですわよ?」

「……あなたは戦闘中なのに随分と余裕がありますね、ただ指示してるだけの人は楽でいいですよね」

「んなっ!?」

 数で押されていたファナは逆転の糸口を探しているのを悟られまいと安い挑発を放つ、しかしファナ本人が思ってた以上にその効果は出たようだ。

(あれ? この反応……いけるか)

「どうです? そんな汚い蟲なんか使うより、正々堂々、本人同士で戦うというのは?」

(これは、流石に無理か……?)

 言われた蟲徒は、なぜか小刻みに震えていた。そして――

「いいでしょう! 私の真の実力を見せてさしあげますわ!」

 そう言って蟲徒は操っていた外界落ちを寄生させていた自分の蟲ごと、巨大な針を腕から大量に飛ばして一斉に消しとばした。

(うそでしょ……さすがに単純すぎじゃ……)

 だが状況は好転した。ファナはさらに思考を回転させる。

(いまなら蟲徒も撃破しやすくなったはず、いや数の不利が消えた今が一旦逃げるのも……)

 しかしそんな思考を遮るように、蟲徒の攻撃が迫る。

「ハァ!」

 一瞬で目前に現れ、先ほど射出した巨大な針を槍のように構え一気に突こうとしてきた。

「ッ!」

 間一髪で避けるファナしかし、もう一方の腕で二撃目を狙っている蟲徒、ファナはその腕に尻尾を絡ませ動きを封じ、そのまま渾身の蹴りを相手の頭へと繰り出す。

「しまっ……!」

 見事に直撃した蹴りは蟲徒を蹴り飛ばしそのまま大樹へとぶつけ埋め込んだ。

 獣徒の放つ蹴りは、様々な動物の特性を併せ持つその力の中で最も強力な一撃だ。

「よし……次は、どうしよう……よしまずは周りの外界落ちをこの吊男級の核の制御化にいれよう外界落ちで同士討ちにさせて数を減らす!」

 行動の指針を決めたファナは全速力でその場を離れ、手当たり次第にそのあたりにいた外界落ちに対し、吊男級の核から泥を吐き出させ、それを混ぜることで制御化にし、高次力を操り核から外界落ちに他の外界落ちを倒す様に指示を与えていく。

「恋人級の核も残っていたらこっちの戦力を増やせたんだけど……いや外界落ちは結局全部消さなきゃいけないし、増やしすぎるのは得策じゃないか……なら」

 ファナはどんどんと外界落ちを制御化に置き大樹の周りを駆けて行く。すると樹の根基で軍と外界落ちの交戦を見つける。

 大量の外界落ちが湧き出ており、軍の汎用型降戦者がそれを必死に食い止めていた。

「よし、外界落ちに命じる、私がいるこの場所に集まり湧き出る外界落ちを倒せ!」

 高次力による命令を核から飛ばすファナ、そして軍と下界落ちの交戦の中へと突入する。

「な、なんだお前は!?」

 一人の汎用型降戦者が上から降りて来たファナに驚きの声を上げる。

「敵じゃありません!私も外界落ちとこの大樹をなんとかするために来た降戦者です!」

 ファナはまっすぐに相手を見つめはっきりと言う。すると他と少し見た目の違う汎用型降戦者がファナの前に出る。

「助かる、私は指揮官の炎天寺だ」

「ファナ・シメールです、今、私が操る外界落ちがこっちに向かってます。その外界落ちは他の外界落ちを倒す様に命令してありますからここの状況も少しはマシに……」

 炎天寺がファナの言葉を手で遮る。

「ちょっとまて、外界落ちを操る? そんな技術は聞いたことがないぞ」

「……私はもともとセカンドノアにいました。そこで手に入れた吊男級の核を利用した力です。

 ですが私はもうセカンドノアの一員ではありません。信じてはもらえないでしょうが……」

「セカンドノア……最近台頭してきたテロ組織か、今回の件もそいつらの仕業だろうというのは確かに上層部の見解だったな。しかしその組織の裏切り者か、敵の敵は味方ってことでいいな?」

「はい!」

 ファナは決意を込めて返事を返す。その様子に満足したように頷いた炎天寺。

 彼は自分の部隊に指示を飛ばしていき発破をかける。

「これから援軍が来るそうだ! 見た目は今戦ってるのと同じどろどろだが、たった今来た勝利の女神が率いる援軍だ! お前らも気合いいれろ! ここで絶対に食い止める!」

「「オオォッーー!!」」

 一気に攻め込む部隊に到着したファナが制御する外界落ちが加わり数での不利が逆転し、見事にこの場の外界落ちを処理することに成功する。

「よし! これで……」

 それを見た炎天寺は思わずガッツポーズをする。

 ファナは操ってきた外界落ちを自滅させ、炎天寺へと話しかける。

「まだです、この樹をなんとかしないと外界落ちをは湧き続けます。それに私のセンパイが、いえもう一人の降戦者がセカンドノアの降戦者と戦っています。その方の援護をしたいんです。どうか力を貸してきただけませんか?」

「センパイ、ね、よし分かった。こうなったらとことん君の指示に従おう。君のが今回の件や敵の情報に詳しいんだろう? んじゃまずはそのセンパイの見た目を教えてくれ間違って攻撃したらいけないからな」

「人の形をした竜の降戦者、竜徒です、その人がいればこの樹もなんとか出来るはずなんです。だけどまだ樹の上の方で戦っていて……」

(竜徒……そうかこの子は頂の後輩なのか、なら尚更、頑張らなくちゃな、アイツには借りがある)

「よし聞いたかお前ら。ヘリに乗り込めこの女神が言う竜の救世主を援護に行くぞ!」

「「了解!!」」

 プロペラを使わず飛行する高次層式武装ヘリに乗り込み発進していく部隊、炎天寺も乗り込もうとしてファナへと向き直る。

「君も乗ってくかい? それとも自力で……」

 その時だった。ヘリの無線から驚くような声が聞こえてくる。

「隊長!大きな蟲がヘリに!うわあああ!」

「蟲如きになにを怯えているんだ!おい!」

「違います!それはきっと――」

 大量に聞こえてくる蟲の羽ばたく音共にファナ達の上空に、巨大な蝶が現れる。

 その羽根は緑色で葉っぱや蔓で出来ていた。

 周りにいる。その蝶に比べればまだ小さいが、普通の蟲よりははるかに巨大な羽蟲も樹木を張り付けたような見た目をしていた。

『ファナ・シメールゥゥゥ! あたくしを虚仮にしたあげくに、勝負を放棄してどこかへいってしまうとはいい度胸ですわ!』

 蟲の鳴き声が人の声に聞こえる様な音が鳴り響く。


「炎天寺さん、私はアレを食い止めます。炎天寺さん達はセンパイをお願いします!」

「だが……」

 炎天寺の言葉も聞かずにファナは巨大化した蟲徒へと突撃しヘリが通れるように羽蟲を蹴散らし空中に道を開ける。

 それを見た炎天寺は部隊へと指示を飛ばす。

「部隊を半分に分ける! 今ここに残っている者であのお嬢ちゃん援護する、先に上空に上がった部隊は今お嬢ちゃんが開けてくれた道を通って竜徒を援護に行け!」

「了解!」

『了解!』

 こうしてヘリはファナの開けた道を通り蟲の群れを抜けていく。

 蟲徒はファナ以外は眼中にない様で、樹の幹や枝を蹴り、羽蟲を蹴って空中を駆け巡るファナに蔓を触手の用に飛ばして攻撃を繰り返していた。

(センパイ、どうか無事でいてください……じゃないと薄野センパイが心配しますよ……)

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