決戦:激闘
戒理は、旧友クライヴとの交戦に入った。
互いに互いの攻撃パターンは知っている。それゆえに安易に攻めることは出来ない。
「お前はなんでセカンドノアについた!?」
互いに牽制しながら、決定的な一撃を狙っている。
その間の問答すら牽制の一部である。
「理由なんか必要か? 強いていうなら飽きたからだ、人類を守る仕事にな、だから今度は侵略する側だ」
「そっちも飽きたらどうするんだ」
答えを聞かずに戒理は光の羽根を生やし相手の出方を見る。
「さてね、その時考えるよッ!」
光の羽根が開くのを見たクライヴは、距離を取りつつ自らも対抗しるように羽根を広げ、そこから硬化し刃と化した羽毛を飛ばしてくる。
戒理はそれを光の羽根でただの高次力へと還す。しかしそのために羽根を自らの前面に展開した。そのために戒理はクライヴの動きを見逃すことになる。
クライブを探す戒理、しかしどこにも見当たらない。
「どこ見てる? こっちだぜ」
真後ろから声が聞こえる、光の羽根を羽ばたかせ振り払おうとする。
しかし避けられ頭上を取られ、強烈な蹴りが脳天へと振り落とされた。
「ッ!」
戒理は体勢を維持出来ず、落下を始める。
「お前の羽根は高次層の力を使う者に対して強力なのは確かだが、色々と不完全だ。そんな歪な羽根で俺に空中戦を挑むのはナンセンスってもんだぜ?」
地面に落ちる前に、飛行を回復する。
「だったらこれはどうだ……!」
光の羽根を纏う戒理、しかしこの状態だと飛ぶ事が出来ない、だから戒理は近くまで伸びた来ていた樹徒の幹を蹴り、クライヴへと距離を詰める。
蹴られた樹徒の一部は高次力へと還ったが直ぐに下から枝葉が伸びそれを埋めていく。
「はっ、スピードが足りないな! そんなんじゃ欠伸が出るぜ?」
跳躍して来た戒理を余裕を持ってかわそうとするクライヴ。
「それにその形態は長持ちしなんだろ?お前自身の降戦者の力にも影響が出ているはずだッ」
「ああ、だからこうする!」
戒理は跳躍を避けられるそのタイミングで一気に鎧のように凝縮した羽根を開放する。
眩い閃光のように広がる羽根は一斉にクライブへと伸びていく。
「なにっ!?」
クライヴはこれをとっさに回避しようとしたが避けきれず翼が、いや腕自体が降戦者ではなく通常の人間のものへ戻ってしまう。
しかし、戒理も自ら羽根の効力で所々鱗が消え、竜人の身も削れてしまった。
翼をもがれたクライヴは樹徒の巨大な枝へと着地する。
「なかななやるな、流石は最古参ってところか?」
「空を飛べなくなったお前はもう俺には勝てない」
「ハッ! その身体でよく言うぜ、だがな俺には、いや俺達には奥の手ってやつがああるんだなこれが」
そう言うと、クライヴは樹徒の幹へと生身となった方の手を突っ込んだ。
そしてそれを引き抜くとその手は先ほどまであった鳥徒の腕と翼が植物によって再現されているではないか。
「ただのハリボテじゃあないんだぜ?」
枝から飛び降り羽ばたき滑空するクライヴ、飛行能力も回復したらしい。
「それだけじゃねえ!」
クライヴが腕を振るうと、樹徒によって回復して腕が伸び戒理の腕へと絡みつく。
「これはっ!」
「どうだ回復だけじゃなく、樹徒の力も使えるんだ、俺たちはこの大樹があるか限り消耗することはない……がお前はどうだ戒理、いつまで持つ?」
「ぐっ……」
追い詰められた戒理、しかしファナとの約束を想い、力を振り絞る。
(まだノアの奴の前にすら立ってない、ここで負けられるか!)
戒理は真正面からクライヴと激突する。
鳥徒と激戦を繰り広げる戒理、鱗は剥げ、肉は削がれていく。
光の羽根で相手を削っていこうにも交わされてしまい。
ならばと格闘戦を仕掛けるが、空中戦では相手が圧倒的に有利。
高次力を操り、銃撃をするなど様々攻撃を試すも効果は薄い。
相手の戦闘スキルに圧され、光の羽根に頼ってきた戦い方を後悔することとなる。
鳥徒の蹴りを喰らい、樹へと激突、そのまま枝へと着地する戒理。
「ぐっ……クライヴ、どうしてお前は、お前らセカンドノアはこの変換所を狙ってるんだ……ここにあるのは他と変わらない大型のユニバースコンバータがあるだけだぞ」
苦し紛れに会話を持ちかけてみる。それで隙など生まれはしないだろうがそれでも逆転の可能性を模索する時間を稼ぐ。
「今更そんな事聞くのか戒理、そんなの決まってる。お前も我らがボスから直接聞いたはずだぜ、お前を殺すのが俺らの目的だ。つまりこの変換区画を狙ったのは他でもないこの町がお前がいる町だからだ。我らがボスの望みはお前を肉体的にも精神的にも追い詰めて殺すことの筈さ!この区画を破壊し浮遊区画を落とす!これでお前の日常は木端微塵ってわけだ」
クライヴはどこか芝居がかった口調で言い放つ。
「お前は、どうしてそんなくだらないことに加担する!? お前は言ってたじゃないか!家族に胸を張れる様なかっこいいヒーローになるって! なのにどうしてノアの私怨に加担するんだ!?」
「……やっぱりお前は随分と平和な世界で暮らせたんだな、ボスの気持ちも良く分かる。こんな平和ボケした世界は潰したくもなるさ」
「クライヴ、お前なにが……」
「妹のためだ、差別され迫害され、妹は孤独を強いられた、レイヤードは人間じゃないと侮辱までされた。俺達はそんなやつらを守るために戦ってきたのか!? どうなんだよ戒理!」
「……それ、は」
「お前には答えられないよな、そんな世界、見たこともないんだろう。守られて生きて来たんだろう。だけどな世界は狂ってるんだ。自分が感じられないモノを感じる事の出来る人間がいる、ただそれだけのことを受け入れられずに拒絶し忌避する連中がいっぱいいるんだよ。俺はそんな奴らが許せなくなった。だから全部亡くしてやった。降戦者の力で、妹の学校ごとぶっ壊してやったんだ。そしてそんな俺の前にノアが現れた。迷わず手をとったね、レイヤードだけが住む世界? レイヤード以外の全てを洗い流す? そんなの最高じゃないか! まさに理想郷だ」
クライヴは力を込め、言葉を荒げて話す。自分が正しいと言外に主張する。
戒理は予想をしていても、やはりその答えをきて戸惑い、クライヴの言葉を肯定しそうになる、
しかしそこで、自分に優しくしてくれた一人の少女の事が思い浮かぶ。
そして最近出会った少女の言葉を思い出す。
(まだ、終われない……希望はある、これからの未来を今、決めさせる訳にはいかない……!)
戒理は光の羽根を大きくはためかせ、浮かび上がり、戦意を滾らせる。
「まだやる気か……お前じゃ勝てないよ、俺の言葉に黙り込むようなお前じゃな」
「そうかもしれない、俺は、小さな世界で生きてきて、大きな現実から目を背けてきた、でも例え俺がそうでも、この世界にはお前と同じ経験を辿って違う答えを出せた人間がいる……お前が消した人間達とは違う優しい人々がいる! 俺はその人達を守りたい、そんな人達と世界は変えていけると信じたい! 甘い考えだってのは分かっているさ、だけど! それでも! なにもかも一緒くたにして全てを洗い流すなんてことはしちゃいけないんだ!」
「だったら止めてみろ! 俺を! 樹徒を! ノアを! じゃないとその答えもただの言葉だ!」
やはり空中での応酬はクライヴに分がある。
攻撃を避けられた戒理に、クライヴが死角からの攻撃を振るう。
しかし攻撃を避けられた直後だった。
死角に移動するクライヴに追随し一瞬で振り向いて見せる戒理。
光の羽根を束ね剣のようにして斬りかかる。
「な、にぃ!?」
それを間一髪で避け距離を取ろうとするクライヴ、しかし、それにさえ戒理は付いてくる。
距離を離そうとしても、速度を増し、旋回を追尾し、攻撃を相殺する。
(さっきまでと戦闘のセンスが違う……想いの力でパワーアップしたってのか!?笑えねえ……)
戒理の猛攻は続き、先ほどまで優勢だったクライヴが圧され始め、形勢は逆転する。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおお!!!!」
雄叫びと共に光の羽根を大きく展開しさらに一気に間合いを詰め、その威圧感で心身共にクライヴを圧迫する。拳や蹴りの怒涛の応酬と、迫りくる光の羽根、その効果は大きい。
「クソッ! 樹徒! 援護しろぉ!」
クライヴの放った怒号と共に大樹から枝が急速に伸び、戒理へと迫りくる。
光の羽根で迎撃しようとする戒理だったが様々な方向から迫る枝や蔓に手足を絡め取られ身動きが取れなくなってしまう。
「惜しかったな戒理……だけど俺の勝ちだ……後はお前をこのまま抑えこんで、浮遊区画を町の上に落とし、絶望したお前の首を取って、ボスに献上してやる」
「他人の力を借りて、なにが『俺の勝ち』だ……俺にはまだ、手が残って……」
「また羽根を纏うつもりか?そんな満身創痍の状態でそんなことすればお前の降戦者としての状態が解けるだけだ」
「だが、それしかないなら、やるしか――」
しかしその時、下から飛んできた光弾により戒理を縛っていた枝が千切られる。
『竜徒!頂戒理さん!ファナ・シメールさんに頼まれて救援に来ました!』
「あれは……軍の……汎用型降戦者!」
ヘリで飛んできた彼らは、数人が樹徒の枝に飛び移り、枝から枝へ移動しながら鳥徒へと接近し光弾で攻撃、ヘリの残った者達も、空中を回り込みながら鳥徒を狙い撃つ。
「こいつら、外界落ちが足止めしてたはずじゃ!?」
思わぬ援軍の登場、クライヴにとっては敵の増援、この機を逃す訳にはいかない。
「お前が樹徒に頼るってんなら……俺も他の人に頼ってみるかな……、攻撃目標はアイツ、鳥徒だ! 素早く捉えにくいが、弾幕をはってやれば全部は避けきれないはずだ!」
『了解!全期、攻撃目標、鳥徒を包囲!し一斉射!』
ヘリはすぐさまその編隊を組み変え、クライヴを取り囲んでいく。
「ふざけんな!汎用型如きが…………グッ!?」
一気に放たれる光弾、汎用型降戦者が使う基本的な攻撃だが、その威力は愚者級程度は一瞬で消し飛ばせるほどであり、その力は天然の降戦者に劣る事はない。
「……俺の両親が開発したんだぜ? すごいだろ……つまりお前らのボスの両親が開発したって意味でもあるけど」
四方八方から飛んでくる光弾を、必死に避けるクライヴしかし、死角から来た一撃がクリーンヒットし、その衝撃に怯んでいる間に別の一撃が、その身体を削っていく。
「ふざっ……けんっ…なァ!」
多数の攻撃を喰らいながら、それでもクライヴは戒理へと突撃する。
強く羽ばたき加速する。
「真正面からなら……負けねぇ!」
両者の一撃が、互いを捉えた。クライヴが放ったのは、強靭な脚の鉤爪による刺突。
戒理が放ったのはなんのひねりもない掌底だった。
「決まりだな、戒理ィ!」
「ああ。これで決まりだ……」
「なに!?」
戒理は、自らに鉤爪を刺したクライヴの脚を掴み、掌低から、身体を掴む。
そして光の羽根で一気に自分ごとクライブを包み込む!
出来あがったのは大きな光の繭だ。
『どう……なったんだ?』
隊員の一人が、ポツリと一言こぼす、するとそれを合図にしたかの様に、繭が、蕾が花弁を開いて行くかのように動き出し、そして……。
「俺の勝ちだ……クライヴ」
「…………くそったれ」
その身を焦がした両者の身が晒される。しかし二人とも、降戦者としての部分などほとんど残っていなかった。
気絶するように倒れる二人……ここはいや空中だ。そのまま落下していく。
『急いで回収しろ!……なに!?どっちもに決まってんだろ!』
間一髪のところで、プロペラのない高次層式ヘリだからこそ出来るラジコンヘリでやるようなアクロバットで回収された二人、クライヴは既に意識がなく、戒理はなんとかギリギリ意識を保っていた。
「大丈夫ですか!?今、医療班の所へ……」
軍の隊員が心配そうに駆けよる。
「いや、大丈夫だ……それより先にやることがある」
そう言うと、戒理は己の右腕を灰色の竜の腕へと変化させ、クライヴへと突き刺す。
「何故トドメを刺すんですか!? もう意識はなくなっていましたよ!?」
「違うんだ、これは……」
腕を引き抜き、結晶体を吸収する。
「一体なにをしたんんです?」
「俺自信にもよくわかってないんだ、だけどこれが俺の能力で、もうこいつは降戦者としての力を失った……それだけだ。いや、ついでに俺の体力とかも少し回復するかな」
「そうですか……あなたは、この後どうするんです?」
「この大樹をどうにかしないといけないし、そういえばファナ……獣型の降戦者がどうなってるかってわかるか?」
「待ってください……」
別の部隊と連絡を取る隊員。
「どうやら、いまだ蟲型降戦者と戦闘中の様です、我々の部隊と協力体制にあるとのことで」
「だったら決まりだ。ファナを援護に向かう」
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