決戦:殲滅


 大量の蟲は軍の隊員達によって、撃ち落とされ、ほとんどの外界落ちも、既にファナの支配下だ。

「私達の勝ちです……蟲徒」

 その言葉を受け、蟲徒は、その身を震わせて、激昂する。

「まだですわ!樹徒! 『巣』を開放しなさい!」

 その一言で、戦場の中心である大樹が、割れた。

 その二つに割れた幹の中には、巨大なハニカム構造の塊があった。

 まさしく蜂の巣だ。その中には蟲徒の能力で造られた高次力で出来た蟲がぎっちりと詰まっていた。

「まだ、こんな隠し玉を!?」

「そういう事ですわ、数じゃ圧倒的に私の方が上ですわね、獣徒?」

「……だったら本体を直接叩けば!」

 地面を蹴り、空中に浮かぶ蟲徒に向かう。

「甘いですわ!」

 しかし、攻撃が届くその前にファナの蹴りは大量の蟲によって阻まれる。

「っ!」

「怖いですわよねぇ……気持ち悪いですわよねぇ……それがこの力の本当に怖いところ……軍の皆さまも、ファナさんも、御気分の方はよろしくて?」

 目の前に迫る虫、虫、虫、虫虫虫虫蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲…………

 さっきの戦いの倍以上に増えた蟲、それを操る蟲徒本体には届かないほどの圧倒的な量。

 支配下に置いた外界落ちもどんどんと掃討されていってしまう。

 さらに奮戦したはいるものの、軍の汎用型降戦者達は数に圧され、その異様の圧されてしまっている。

「どうすれば……これ以上どうしようも……」

「形勢逆転、ってやつかしら? いえ私が負けるはずありませんもの、予定調和というやつですわ」

 勝利を確信し高笑いする蟲徒、ファナと隊員達は、それに反論も出来ないまま蟲に対し防戦一方だった。

 だが、蟲徒の高笑いを遮るように、上から声が降ってくる。

「いいや、形勢逆転であってるぜ、俺が来たからな!」

 竜徒、頂戒理が光の羽根を大きく広げ、降下してくる。

 しかしそれは天使の降臨のような穏やかなものではなかった。

 身体を回転させなが降下し、光の羽根で数多の蟲を一掃していく、その様はまるで光の竜巻のように豪快だった。

 地面に降りるころには半分以上の蟲は一掃されていた。

「センパイ!」

「悪い待たせたな」

 完全な竜徒の姿で、戒理はファナの前へと降りた。

「そんな……竜徒!? どうして!? 鳥徒の奴が始末するはずではなかったんですの!?」

 蟲徒は半狂乱に叫ぶ。その間にも数が減った蟲達は、軍の隊員達に撃ち落とされていく。

「クライヴは、鳥徒は俺が倒した。後はお前と、そこの樹徒と、そして……ノアだけだ」


「……ッ! ノア様のもとへは、行かせませんわ! 集まれ!わたくしの蟲達!」

 ノアの名前を出された蟲とは様子を変え、もう二桁程度になってしまった蟲達を自分の下へと終結させる。

 そして蟲達は、蟲徒の身体の纏わり、その姿はミツバチが行う熱殺蜂球という状態に似ていたが、その行動は相手を殺すためにする。

 だが、あれは違うだろう。

 人間よりも遙かに大きい甲虫の手足が開き、それよりもさらに大きな超の羽根が開く。

 その姿はまるで昆虫のキメラだった。カブトムシの角に、クワガタのハサミも備え、目に見えない昆虫の力もあることだろう。

「まだ終わりませんわ!」

 ぱっくりと割れた大樹の中にあった巨大な巣が、動き出し蟲徒へと差し出され、そのままそれは、甲虫の鞘翅のようになった。

「これがわたくしの真の力! あなたたちには絶対にまけませんわ!」

「どんなに大きくなろうと、俺の羽根に触れた高次力を変異させたものはただのエネルギーに還る!」

「では……試してみましょうかっ!」

 突進してくる巨大化した蟲徒、竜徒は光の羽根を己の全面に出して防御姿勢をとる。

 だが、蟲徒は戒理にぶつかる直前に、周りのファナや軍の隊員を蹴散らしてしまう。

「きゃああああ!」

「なっ、ぐわああああああ!」

「しまっ……!?」

「あら?人の心配をしてる暇がおありになって?」

 そう言うと地面に激突するように着地する。

 地面が盛大に揺れ、砕ける。

 蟲徒の行動に気を取られ、その着地の衝撃に足場を崩された戒理は光の羽根の制御を誤ってしまう。

 戒理の前面は開かれ、隙が出来る。

 そこを的確に狙いカブトムシの角による刺突が戒理に直撃する。

「ッ……!」

 その強烈の一撃に思わず、息が止まる。

 そのまま吹き飛ばされようとした時、蟲徒が器用に光の羽根を避けながら竜徒を掴み、そのまま地面へと叩きつける。

「降戦者は丈夫ですわ、車に轢かれたって死にません、けどさすがにこれは意識が持たないでしょう? ですが油断は禁物……さっきは小物に煽られて熱くなってしまいましたが、ノア様と同種の竜徒の力、見下してかかるわけにはいきませんものね? さあ行きなさい私の蟲達」

 背中の鞘翅から人ほどの大きさの蟲が数匹放たれ、倒れた竜徒の周りを囲む。

「やりなさい」

 すると、蟲たちは何かしらの煙を吐き出しはじめた。

 紫の煙は戒理を包み込んでいく。

「降戦者にも効く毒ですわ、まずは動きをうばい、それからじわじわと死へと向かわせる。さて、わたくしの仕事はこれで終わり、後は樹徒が高次力変換所に届くにを待つだけですわ。あなたもっと早く成長出来ないの? いつまで時間がかかってるのかしら」

 鳥徒のフォローや、蟲徒の巣を造っていたりしたせいで成長が遅れているのだが、樹徒はひたすら黙りながら指示に従い大樹を伸ばし続ける。

「まだ……終わってませんよ」

 余裕ぶって鼻歌まで歌い始めた蟲徒に声をかけたのは、ファナだ。

 よろよろと起き上がり、身体に力を込め、戦う構えを取る。

「あら、まだそんな力が残っていましたのね、吊男級の核を介した外界落ちのコントロールと戦闘を並行して行ったりして、最後にこのわたくしの強烈な一撃、もう心身共にふらふらなのではなくって? 同じように複数のモノを同時にコントロールする私にはわかりますわ」

「それでも、戦えると! 言っているんです! 蟲徒! あなたを倒し! 樹徒も倒して……ノアの復讐を止めます!」

「……………今、あなたノア様を呼び捨てにしましたわね? いいですわ! 細かく切り刻んだ後、粉々になるまで打ち砕いてさしあげます!」

 怒りの咆哮と共にせまるクワガタのハサミを、思いっきり上に飛んで避けるファナ。

 そこに、蟲徒の巨大な手・・・いや前足が襲いかかる。

 ファナはそれを、ギリギリで避け、そのまま、その前足へ、自らの爪を突き立て張り付くkとに成功する。

(この巨体のどこかに、蟲徒の本体がいるはず……そこさえわかれば……)

 ファナは獣徒の力をフルに活用する。犬の嗅覚を使い、巨大化した蟲徒の中の匂いの違う部分を探す。

「離れて下さいましっ!」

 ファナが摑まる巨大な手を振り回し、ファナを振り落とそうとする。

 爪を深く突き立てて、必死に離れないようにするファナ、そして彼女は蟲徒の本体を見つけ出す。

(よし! 後は本体を引きずり出すだけだ!)

 ファナは、蟲徒の手から跳躍し、巨大化した蟲徒の腹部へ向かって、突撃する。

「っ!? させませんわ!」

 蟲徒は鞘翅を開き、そこから、小型の虫を大量に放出しファナを迎撃しにかかる。

 しかし、それをファナの後ろから飛んできた光弾が、撃ち落としていく。

「俺達を忘れんなよ!」

 蟲徒に吹き飛ばされた軍の隊員達が、立ち上がったのだ。

 炎天寺が号令をかける。

「第一班、二班は俺と蟲徒に対応!三班は竜徒を襲ってる虫に対処!」

 一気に統率のとれた動きで行動が開始される。光弾で虫を撃ち落とし、ファナを援護し、他の部隊が、竜徒を囲む毒ガス虫を撃破していく。

「みなさん! ありがとうございます!」

「おう! 俺らが援護してるから思いっきりやるんだ!」

(そういや、戒理ともこんなやりとりしたっけな)

 言葉を受け、ファナの身体に活力が湧く、やっぱり世界は捨てたものじゃない。

 ファナは今も光弾に迎撃されているにも関わらず、数の減らない虫の中から、光弾にあたらないように気を付けながら一匹を選び出し、それを蹴り飛ばして方向転換をし地面へ一度、着地し駆けだした。

 獣徒のもっとも秀でた部分である、脚力を活かし、一気に蟲徒の脚の下を通り過ぎ、そして上に跳躍する。狙いは虫を放出して開いた鞘翅だ。

 その内側に着地、そこに大量に居る虫に、脚を掴まれる前にさらなる、跳躍、飛ぶための内羽を突き破る。

 そして、さらに奥、巨大化蟲徒の背中に着地する。

「な、なにをするつもりですの!?」

「あなたをそこから引きずり出すんですよ!」

 爪による斬撃で、背中を削り取っていく、それを続け、蟲徒の本体が露わとなる。

「しまっ……!」

 そこから有無も言わさずに尻尾で蟲徒の本体を拘束し、脚に目一杯に力を込め跳躍、巨大化した外殻から一気に引き剥がす。

 とたんに、巨大な虫のキメラは霧散するように、大量の虫へと姿を変える。

「やった!これで後は……」

 ここでファナは油断してしまう。蟲徒を無力化すべく攻撃を仕掛けようとした時、大量の虫は再び、あの巨大な状態に戻るべく、蟲徒に殺到する。

 一気に迫る虫は軍の隊員達にも処理しきれず、ファナは虫の奔流を前に、空中で身動きもとれず、目の前の光景に成す術もなく、次の行動も考えれずにいた。

 そして、大量の虫がファナを巻き込み蟲徒を再び融合する、その直前、眩い光が虫を一気に消し去ってしまう。

 何が起きたか分からないまま、光により目が眩んでいたファナは視界が戻ると、そこにいたのは、軍の隊員に支えられながらも、光の羽根を振るった竜徒、戒理の姿だった。

「悪い……ちょっとカッコ悪いとこ見せちまったな」

 ファナはそれに返答する前に、まずは目の前の敵をどうにかしなくてはいけない。

「離しなさい!わたくしに触れていいのはノア様だけ……」

 言葉に耳を貸さず、尻尾を振り回し地面へと叩きつける。

「ガハッ!」

 尻尾に拘束されたままの蟲徒は地面に叩きつけられる。

 しかしまだ終わらない、尻尾は蟲徒を放してはいない。

「これでっ!終わりです!」

 尻尾を引き寄せ蟲徒を射程に収める。

 そして放たれるのは、獣徒自慢の脚から放たれる強力な一撃。

 必殺のサマーソルトキックが炸裂し、蟲徒は意識を失い降戦者状態は解けた、そして現れたのは気絶した、小学生くらいの少女だった。

「こんな幼い子まで巻き込んでいたんですか……」

 セカンドノアはノアを中心に広がり、横の繋がりは薄い、また降戦者の姿は、もとの姿とかけ離れたものになるのも珍しくはない、だから知らなかった。

 そして少女を見て、ファナは憂いそして思う、やはりセカンドノアは間違っていると。

「だけど、とりあえずこの子は今日で日常に帰れるよ」

 竜徒の姿を解き、右手を灰色の竜に変えた戒理が、隊員に支えられながら近づいてきくる。

 そして、蟲徒の降戦者として力を奪い吸収する。

「ふぅ、これでなんとか、毒ガスの効果も無効化出来たかな……後はあの樹徒だ」

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