日常:接近


 戒理が襲われた翌日の朝、とあるクラスのホームルーム

「本日、このクラスに転校生の方が来ています。どうそ」

 担任がそういうとクラスへ一人の少女が入ってきた。

「ファナ・シメールです!よろしくお願いします!」

 もしこの場所に頂戒理がいたのなら彼はきっと「あー!お前は昨日の!」と昔ながらのラブコメのような反応をしていたかもしれないし、してなかったかもしれない。

 だがしかしここは一年生に教室で彼は二年生だった。

「会うのが楽しみです……センパイ♪」

 彼女は小声で呟いた。


 同刻の二年C組教室では戒理が身震いを起こしていた。

「……! 高次層がざわついてる? なんだ外界落ちじゃないみたいだが」

 レイヤードは高次層の存在や異常をを感じ取る力を持つ、戒理の場合は肌でそれをかんじていた。

「頂君? どうかしましたか?」

「あっいえなんでもないです先生、はい」

 レイヤードも万能ではないし、高次層もなんでも出来るというわけではない。

 戒理はまだ、身に迫る危機に気付かずにいた……。


 そして昼の休憩時間がやってくる。

「ねえねえ、聞いた? 一年に転校生! しかも美少女の外国人って噂!」

 来歌が戒理へ向かい話しかけている。

「お前ってホントそういう話好きだよな」

「いや、なんか耳に入ってきちゃうんだよねぇ、別にこっちから聞きにいってるわけでもないのに!」

「その地獄耳と記憶力を勉強にいかせればなぁ……」

「ぐぬぬ」

 いつもと変わらない二人の会話、それを遮るように、教室の扉の方にいる生徒から声がかかる。

「おーい頂~、一年がお前に用だってよ」

「ん? おお分かった今行く。……一年に知り合いなんていないんだけどな」

「もしかして噂の転校生だったりして!」

 まさか、とは思いつつなにかよくない予感を持ちつつ廊下へ出る戒理。

「来たけど……どちらさ……ま、ってお前!」


「昨日はどうもですセンパイ、昨日の今日ではありますが、転入してきましたので早速挨拶にに来ちゃいました♪」

 そう言って愛らしく笑うファナ、昨日の冷たさと狂気はどこにもない。

 あまりの展開に思わず混乱する戒理、彼だって漫画は読むし、降戦者として戦っているという事実は特撮のようであり、この世界も高次層の発見からSFの世界へと入り始めた。

(だからって、いくらなんでもこんな展開は……いやまさか!)

「本気で俺を勧誘しようってことなのか……? わざわざ学校にまで付いてきた!?」

「流石です、センパイ意外と察しがいいですね!ご明察です。これから毎日アピールさせていただきます!」

 あまりの出来事に、戒理が二の句が継げないでいると、来歌が二人の元へと近づいてきた。

「おおっ! まさかほんとに噂の転校生ちゃんだったとは! 戒理くんとはどんな関係? あっ! ちなみにあたしは戒理くんのクラスメイトの薄野来歌! よろしくね」

 来歌は現れて早々、ファナへとぐいぐい詰め寄っていく。

「うぇ!? ああ……は、はい、ファナ・シメールです。よろしくおねがいします」

「ファナちゃんか~うんいい名前だね!でさでさ戒理くんとはどういう付き合い? あたしの予想じゃ生き別れの妹かなぁーっと」

「ちげーから、つーかちょっと落ち着け」

 戒理は来歌を掴んでファナから引き離す。

「えー、だってねぇ、謎の外国美少女転校生が会いに来るとか! しかもその会いに来た相手が戒理くんとか!」

「なんだそれは……人を芸能人かなにかみたいに言うな」

「授業中に先生にあんなドラマチックな反論するくらいだから、将来は役者になれるかも!」

「だからあれは……」

「ふふっ」

 二人の会話を黙って聞いていたファナが突如笑みをこぼした。

「?」

「どしたの?」

「いえ……二人とも仲がいいんですね、羨ましいです!」

「ん~?そうでもないよ?あたしは戒理くんが面白いからくっついてるだけだし、つんつん」

「つつくんじゃねえ!つうかそんなことよりなんか用事があるんじゃなかったのかお前」

「そうですね……今日はとりあえず顔見せみたなものです」

「……そうかよ、じゃあさっさと帰れ」

「えー、じゃあじゃあファナちゃんこんな戒理くんなんかほっといて、この薄野先輩と仲を深めようではないか~」

「……いいですね、深めましょう!」

 最初は困惑していたファナも来歌の勢いで慣れたのか、二人の女子は意気投合しどこかへ言ってしまった……。

「大丈夫、だよな?いやでも、外堀を埋める様に俺をセカンドノアへ勧誘しようてんじゃ……」

 そこまで考え、来歌はああみえて用心深いので、変な勧誘などは逆に言いくるめるような勢いでスルー出来るだろう。

 レイヤードの力で武力行使した場合は俺が感知出来る。

 だがもしも……。

(ちょっと心配になってきた……少し様子を見に行くか……)

 屋上へとやってきた二人。

「ここいいでしょう!浮遊区画だけあって空が近いのなんのって」

「そうですね、雲がすぐそこにあるみたいです……」

「おやぁ?どしたん?さっき戒理くんがいた時はもうちっとテンション高かったしょ……はっもしかして戒理くんといっしょのほうがよかった!?いやそれとも二人きりのが!」

「い、いやそうじゃないです、そのなんていうか、学校ってものに慣れてなくて実はこういうの初めてで戸惑ってるというか……」

「んん? ああ! 日本の学校が初めてってことね! 一瞬、学校に通った事がない的な意味かと」

「え!? そそそ、そんな訳ないじゃないですかやだなもー先輩たら冗談もほどほどにしてくださいよー」

「ごめんごめん、いやしかし屋上まで連れてきちゃったけど実はノープランなんだよね……ファナちゃんお弁当は持って来た?」

「ええと、購買で買おうと思ってて」

「そうなの?でも購買は昼休みになってすぐじゃないと買えないんだよねぇ、みんな必死だから、即売り切れになっちゃうの」

「え!? そうなんですか!? どうしよう……」

「安心しなさい、あたしが、ほらっ!クリームパンちょうど二つ持ってるから!」

「なんかなぜクリームパン、というかどっからだしたんですか今……」

「ふっふっふ、乙女には秘密の引き出しがあるものなのだよ!君も乙女の端くれなら覚えておきたまえ」

「端くれって……でもありがとうございます!いただきます」

「たーんとお食べ! さてとクリームパンの肴に話す事はなにがいいだろうか、出来ればファナちゃんのことをもっと知りたいのね、根掘り葉掘り!ほりほり話してみそ」

「きゅ、急にそんなこと言われてもですね」

 ファナは顔をうつ向かせ少し小声になり、なにか少し言いづらそうになっている。

「えーと、実は私……レイヤード、なんです」

「おお! 戒理くんといっしょだね! だから会いに来たんだね! ……ってどしたの?」

 顔をうつ向かせ少し震えていたファナは薄野の言葉を受けハッと顔を上げる。

「……え? あれ? 私レイヤード、ですよ? なんかその嫌じゃ、ないんですか?」

「ほぇ? なんで? まさか前にいじめられた事でもあるの!? こんなかわいい子を!? そんなやつあたしがこらしめてやる!」


「い、いいですよ、前の学校の話ですし……」

「そう? でも今時いるんだねぇレイヤード差別する人なんて……」

「世界にはまだたくさんいますよ……私達の力を気味悪がってるんです……」

 空を見上げ、なにかを思い出しているファナ、その様子を見ていた来歌は突然、彼女に抱きついたではないか。

「うわあ!? な、なんですかセンパイ!?」

「いやあ、なんかファナちゃんがどっか飛んでっちゃいそうな気がしてさーなんかちっちゃい頃の戒理くんそっくり」

「え……センパイと?」

「うん、戒理くん両親がいつも家にいなくて両親同士が知り合いだった私の家によく預けられてたの、普段は大人しくて冷静で親なんかいなくても全然平気!みたいな感じだったんだけど……」

「違ったんですか?」

「たまにどこか遠くを見てる時があってね、最初は高次層とお話してるのかなーなんて思ってた、戒理くんは高次層を知覚する力が強いから、でもきっと、私達とは違う世界を感じているから寂しくないんだろうなって、レイヤードの子って皆そうなのかなって、そう思ってたんだけど」

「それは……」

 何かを言おうとしてやめるファナ、来歌の次の言葉を待つ。

「ある日突然、戒理くんがいなくなっちゃてさ、ちょっとした騒ぎになってさ、なんとか近所の人が見つけてくれたんだけどさ、どうしていなくなったりしたの?って聞いたらさ……」

「聞いたら、なんて?」

「泣きながらお母さんに会いたい、お父さんに会いたいよ、って……両親のとこに一人で行こうとしてたんだよね、その時分かったんだ。遠くをみてんたじゃなくってきっとお父さんお母さんのことを考えたんだって」

 その言葉を聞いたファナは瞠目し少し動揺していたが、抱きしめている来歌はその顔を見てはいなかった。

「レイヤードだとか、一般人だとかで違いなんてないんだよ。そういうの関係無い……関係無いんだよ」

「…………そう……です、ね」

 そして黙り込んでしまう二人、そこで屋上に人が入って来る。

「……………………お前ら、何してんだ」

「はっ!? 戒理くん!? いやこれは違くて、あっ! そうだファナちゃんもゴメン! 急にこんな馴れ馴れしくしちゃって! あわわどうしよ」

「いえ、気にしないでください、頂センパイの興味深い話も聞けましたし」

「そ、そう? ならよかったー、ちょっと湿っぽくなっちゃたしねーうん良かったなら良かったうんうん」

「おいちょっとまて、なんか変な事話してないだろうな?」

「さぁ? どうだろうね?」

 ひゅーひゅーと無理矢理、口笛を吹こうとして失敗する来歌。

「センパイ方そろそろ昼休み終わっちゃいますよ?」

 ファナが微笑みなが告げる、時刻は昼休みの終わりまで後、3分をきったところだった。

「やば、じゃああたしいくね!」

 駆けで逃げていく来歌を戒理は面倒くさくなり追いかけずに留まりファナの方へと向く。

「お前、来歌に手を出すんじゃねえぞ」

「……約束します。この学校であなた意外にセカンドノアが関わることはありません」

 どこか、真剣で少しさみしそうな表情を浮かべるファナ。

 それを見て、なぜか、その言葉が「嘘ではない」とそう思えてしまった。

「ならいい、行くぞ授業に遅れちまう」

「……ハイ、センパイ!」

 二人はそれぞれの教室へと戻っていく、互いに複雑な感情を抱きながら。

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