現在:戦闘


 明層高校 校庭


「軍の奴らはなにしてるんだ!?アレを市街地にまで逃がすなんて!」

 深く息を吸い苛立ちを抑えながら。冷静に、力強く世界を渡るための言葉を唱える。

二重世界交信オルタナティブ・コンバート!』

 世界が変わった。普通の人が見ればそう答えるだろう。全てのモノの色が反転された様に変っているのだから。

 しかしこれは世界が変わったわけではない、先ほどまでいた世界とは別の世界に戒理が移動したのだ。なので先ほど例えに出した普通の人にこの世界を見る機会は無いだろう。

 あるのは時空と交信する因子を持つ者、レイヤードだけだ。

 そしてこの世界の名は『高次層』そう現在、世界中のエネルギー源となっているモノだ。

 本来ならばここには、物質に変換できるエネルギーで満たされていて、それ以外は何も存在しないとされている。

 しかし、ここには二つも存在していないはずのものがあった。

 一つは戒理、そしてもう一つは、

外界落ちフォーラー……」

 極彩色の泥人形、外界落ち、それはとある実験の失敗によって生まれた怪物、触れたモノを全てエネルギーへと変換してしまう。

 その姿は現在進行形で溶けているのに輪郭は崩れない。ドロドロと流動しているにもかかわらず外界落ちはそんな状態を維持し続けている。これが奴らの通常の状態なのだ。

 本来、外界落ちが現れるのは、高次力をエネルギーへと変換しこの世界へと供給している「変換所」や高次層を研究するための施設が主で。街中に出現する事は滅多に無い。

 少し様子を見ていた戒理、すると外界落ちが、戒理の存在ににようやく気付いたのか、ゆっくりと近づいてくる。

「まだ生まれたての、しかも『愚者級』みたいだな……さっさと片付ける!」

 愚者級とは外界落ちに付けられた強さのランクである。愚者はランク内で一番弱い。

 戒理が虚空に手を翳すと、その空間が輝きだしそこからまるでSFに出てきそうな未来的なデザインの銃が現れた。この世界に満ちるエネルギーを物質へと変換したのだ。

 高次層に進入出来るクラスのレイヤードだけが使える力である。

「ただのエネルギーに還りやがれ!」

 一瞬のためらいもなくトリガーを引く、しかしその直前、外界落ちが不自然に顫動しそして弾けこちらへと自らの破片、カラフルな泥を放って来た。

 銃より放たれた光弾は泥と相殺されてしまった。

「なに!? こいつ愚者級のくせに!」

「愚者級が反撃、不思議ですよね? 理由をおしえてあげましょうか?」

 突如、斜め後ろから声をかけられる。今ここには戒理と外界落ちしかいないはずなのに。

 思わず声の方向へ振り向く戒理、そこには校門の上に一人の金髪の少女が腰かけていた。

「軍に所属してないレイヤードで、高次層に入れる奴なんて俺以外にはいないはずだが」

「それがいるんですよねぇ」

「ここになんの用だ、外界落ちを消すだけなら俺だけで十分だ」

「私『達』はあなたや軍と違って、むやみやたらに外界落ちを消したりはしませんってことです。むしろアレは『保護対象』ですよ」

「博愛主義者なのか?あの泥の塊を保護しようとは酔狂なことだな」

「あれは高次層の意思そのものです、外界落ちこそが高次層が人間に対して出した答えですよ」

 冷静に見えるのににしかしどこか狂気を感じる様なもの言いに、思わず戒理の身も少し強張った。

「アレは、『アセンション』の失敗のよって起きた高次力の暴走だ。意思なんかじゃない」

「高次層との大規模交信実験、通称『アセンション』……みんなが口をそろえてあれは失敗だっと仰りますが、本当は成功していたとしたら?成功した結果が外界落ちだとしたら?人間は高次層の怒りをかってしまったんじゃないでしょうか、ほらそんなふうに」

 少女は得意げな笑みを浮かべながら、壁の上の少女は戒理の後ろを指差した。

「なにっ!?」

 すぐさま振り返る戒理、するとそこには、先ほど一匹だったはずの外界落ちが道を埋め尽くしているではないか!

「その外界落ちには増殖型の恋人ラバーズ級と寄生型の吊男ハングドマン級という二つの種類の外界落ちの一部を混入させているんです。その力によって彼らは今、吊男級の核を持つ私の制御化にある。しかも動きを操れるだけではなく恋人級の力で数だって自由に増やす事が出来ます。絶対絶命ではないでしょうか頂戒理さん?」

「この野郎……! なにが高次層の意思だ! 自分で制御化に置いてるって言ってるじゃないか!」

「制御してるからこそ、だよその意思が明確に伝わるんです」

「チッ! 話にならねえ!」

 戒理はる少女をに背を向け、大量の泥人形と対峙する。

 とてもじゃないが拳銃だけでは対処できそうもない。しかも少女の言う事が本当なら倒しても倒しても、それより早く増え続けることとなる。

「だったら……一瞬で全部消し飛ばせばいいだけだっ!」

 構えていた銃を上に掲げる戒理、すると銃は輝きだし、その光どんどんと大きくなる。

「見せて貰いますよ、最初の外界落ちを倒した英雄の力を」

 少女を警戒しつつも状況を打破するため意識を集中させる戒理の耳にその言葉は届かなかった。

 そして、戒理の体が光に包まれ、シルエットさえ見なくなっていく。

「これが……」

 そして光が弾ける。

 その中から現れたのは……。

 堅牢さを備えその上で美しく煌めく白き鱗に身を包まれ。

 しなやかでいてその強靭さを見せつける四肢を持ち。

 牙と爪は全てを切り裂かんばかりに鋭く研ぎ澄まされていた。

 その姿はまさに人の形をした竜、二足で立つその姿は神々しくさえあった。

「『竜徒ドラグソル』……アセンションの時に外界落ちと共に確認されたもう一つの高次層の意思表示……『降戦者ディセンター』、はぁ綺麗、ですね……」

 降戦者、それは一部のレイヤードだけが持つ形態で、己の力を極限にまで高め、さらにそれぞれのレイヤードにより違う性質の様々な力を得る事が出来る。

 竜人へと変わった戒理は一気に愚者の群れへと飛び込む。

「欠片も残さず吹き飛べ!」

 群れの中心部で竜人は、光で出来た翼を顕現させる。その翼は一瞬で群れを包むほどに大きくなり、そして羽撃いた。

 ただそれだけで、凄まじい衝撃波とともに愚者は消え去った。

 これこそが戒理の、いや竜徒の能力、その光輝く羽根は異変を起こした高次力を正常な状態へと戻すことが出来る。

「……すごいですね、今日はこれを見られただけでも、良しとしましょうか」

「ただで帰すと思ってんのか?」

 戒理は少女の後ろに回り込んでいた。竜徒の武器は羽根だけではない。その身体能力も人間とは比べものにならないほど強化されている。

「うわ!?」

「いいから答えろ、お前らがなにを企んでるか全部!」

「さすが竜の姿ですごまれると、ちょっと怖いですね……仕方ないです、これはとっておきにしときたかったんですが」

「なに!?」

 少女が先ほどの戒理と同じように眩い光に包まれ見えなくなる。そして――

 広い草原を風が渡っていくような雄大さを感じさせる黄金色の毛並み。

 その肢体は紛れもなくそれが何よりも俊敏であろうことを示していた

 愛らしくも猛々しいその姿は獣人。

「『獣徒アニマソル』それが私の降戦者としての名前です、以後、お見知りおきを」

「そうだろうとは思ってたがお前も降戦者か……いったい何人の降戦者が裏切った? 降戦者は外界落ちから人間を守るのが使命だろうが」

「裏切る? それは違いますよセンパイ、私達は生まれた時からレイヤードです。レイヤードの味方です。他の人類を守る使命なんてものはどこかお偉いさんが勝手に決めた事じゃないですか」

「……もういい後は軍のやつらに任せる、大人しく捕まれ」

「残念ながら、そういう訳にはいきません」

 少女は戒理から跳躍して距離を取る。

「これは宣戦布告です。我々の名は『セカンドノア』レイヤードを次の世界へ導く箱舟です。覚えておいて下さい。その目的はレイヤード以外の人間の排除、高次層に従い外界落ちを用いて世界を洗い流すことです。そして良かったら仲間になっていただけるとありがたいのですが」

「レイヤード以外の人間の排除だと?そんな事に加担するつもりは死んでもない」

「では、気が変わったら言って下さい」

 そう言うと少女は区画の端から飛び降りてしまった。

「逃がすと思って……なに!?」

 彼女がいた場所から外界落ちが沸いているではないか。

「クソッ!」

 仕方なく外界落ちを処理する戒理、全て終わったころには少女の姿は見えなくなっていた。

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