現在:日常
2050年、少年は高校生になった。
そして現在は東京郊外に新しく『追加』された場所である明層市。
その中にある明層高校、その教室にいた。
「つまり『高次層』というのは、別の位相にある次元で、そこから得られるエネルギーは物質に変換することも可能で……」
高校二年に上がったばかりではあるものの、しかし知っていることを聞かされるというのはただでさえ退屈な授業をさらに退屈にさせる。
小学校や中学校の時よりは詳しく説明されてはいるが結局は聞いたことのある話だ。
テレビでも何度も特集が組まれていたし、それしか放送されてないんじゃないかって時期もあった。
なにより自分で詳しく調べていたし、そもそも調べなくたって肌で感じ取れるのだから、そういう事なので授業を聞き流しながら窓の外を流れる雲をぼっーと眺めることにする。
「つまり『
「聞いてますよ、ただ知っている話だったしそれに少し間違っているところもあったし聞く気になれなかったんです」
「……参考までに、間違っていたところとは?」
はぁ、と小さくため息をついて、指示されたわけではないがおもむろに立ち上がり言った。
「俺達、レイヤードは交信機とは違います。あの機械はただ高次層からエネルギーを一方的に受け取るだけの物です。でも俺達は高次層と本当の意味で『交信』出来ます」
先生の目をまっすぐ見て言った。正直、後から考えれば……いや別に考えなくてもこんなこと言う必要はまったくなかったのだが、昔のことを思い出していたら、少しその時の気分まで思い出してしまい、柄にもなく昂ぶってしまっていたのかもしれない。
「そう、ですか、なるほど参考になります。座っていいですよ」
「はい……」
少し反省をしまっすぐ机に向かい授業を聞く、先生は先ほどの話を戒理の言った通りに言いなおし黒板風の電子パネルの文字を書きなおした後、そのまま何事もなかったように授業を続けた。
放課後
「
クラスメイトの少女である
「あんなことって?」
「俺達は機械じゃない! 訂正してもらおうか! みたいなこと言ってたじゃない」
「そんなドラマのワンシーンみたいなこと言った覚えはない」
「とぼけちゃってさ、いつもはあーいうこと言うタイプじゃないくせに」
「……実は言うと少し寝ぼけてたんだよ」
「てっきり窓の外でも見てたのかと思ってたんだけど、寝てたんだ。ふふっ」
来歌は少し笑みをこぼす。
「なんで笑うんだよ……まあだからつまりさ起きても夢の続きみたいな気分だったんだよ、だから今、自分でも反省してるところ」
「ふーん、どんな夢だったの?」
「いや、それが思い出せなくて」
「えー、それじゃ結局、理由になってないよ?」
他愛もない会話をしながら帰る準備をして校舎を出る。
「しっかし……これはやっぱり慣れないなぁ……透けてるし」
来歌は、校門を出て少し歩いたところ、その区画の端から遥か下にある町を覗き込みながら言った。この私立明層高等学校は、高次力を利用した技術によって造られた『浮遊区画』の一つである。
「そもそもなんで浮かせてるんだっけ?」
「授業で習っただろ、人口増加の影響やそれによる都会の土地不足解消、土地開発による自然破壊を防いで環境を保護するために出来たってさ。全部、高次力のおかげ実現した。浮遊区画が出来たのも、この――」
喋りながら戒理は区画の端から外へと歩き出し、そして――
「高次層式エレベータが出来たのもさ」
虚空の上に立って薄野の方に振り向き言った。
「そんなのわかってるけどさ、理解できても納得できないってやつ?」
「納得ね、まあそうかもな、だけど安心しろよ、今日の高次層は安定してる。エレベータが急に消えたりはしないよ。俺が保証する」
「それなら安心だね、うん」
そう言って来歌もぱっと見、透明な高次層エレベータに乗る。
すると乗った部分の足場から白くなっていき壁が出来て天井が現れ、まさしくエレベータの籠の中のようになる。そしてゆっくりと下へ向かって動き出す。
「やっぱりすごいよね、ほんとどうなってんだか」
「理屈としては、高次層からのエネルギーを物質とエネルギーと間くらいの曖昧な状態にして物理法則の影響を受けないようにしたうえで、高次力は呼び寄せたモノ、次元交信機などから離れる事が出来ずくっ付いてまわる性質あるから、それを利用して自転などの問題を解決した上で、乗るときだけ籠の部分は物質に近い状態に、上昇下降させる機構はエネルギーに近い状態にして……」
「ああっ、もういいもういい! 頭痛くなってきた……」
「まあ、俺もそこまで詳しいわけじゃないんだけどさ」
「戒理くんはこういう事を話してる時が一番楽しそうだよね」
「そうかぁ? まあ、こういうの造る仕事に就こうかと思ってるんだ。最近」
半透明というかほとんど透明なエレベータの壁を指して示す。
「……お父さんやお母さんと同じ仕事に就くの?」
「……それもいいかなってやっと思えるようになった。まあさすがに難しくってさ、ちょっと折れそう」
「それなら、良かったけどさ、勉強が難しいなら塾とかいかないの?」
「考え中、てか人の心配する前に、来歌は自分の赤点回避から始めないとな」
「うぐっ」
「はははっ、まあヤバくなったら手伝ってやるよ」
「ばっちり聞いたからね、ちゃーんと手伝ってよね!」
「はいはい」
その後、地上に付いたエレベータから降り、帰る道が反対の薄野と別れ帰路につこうとする。
すると、来歌が振り返り声をかけて来た。
「そういえば最近、大阪の方でで出たってね……『外界落ち(フォーラ―)』」
「……東京の方には来ないさ、それに軍がちゃんと処理してくれたろ」
「でも外界落ちはレイヤードを襲うって言うじゃん、気を付けなよ?」
「それは……まあ、気をつける」
「うん、じゃあ帰ろっか」
「ああ、――っ!?」
突如、後ろ、いや上に振り返る戒理、気付いた来歌が怪訝な目で見つめる。
「どしたの?」
「いや、ちょっと先に帰っててくれないか?忘れ物したから取りに行ってくる」
「? ……わかった、じゃあまた明日ね」
「ああ、また明日」
そう言って戒理は再び高次層式エレベータへと乗り込んだ。
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