コール オブ ディメンション
亜未田久志
始点:決別
十年前、その出来事を体験したことで自分に何か変化があったのかと聞かれば
それは「無い」と答えるだろう。
確かに六歳だった自分が体験するには十分、衝撃的な出来事だったとは思う。
だけど自分の周りだけで言えば、これもまた特に何も変わりはしなかった。
だからかもしれない。
いまだに世界に渦巻く問題に対していまいち実感や危機感が持てないのは。
いやそれだけじゃない、自分は知っていたからだ。
その「実験」は失敗すると、肌で感じていたからだ。
ピリピリと痛むその感覚がたまらなく嫌だったのを覚えている。
実験開始の合図、様々な機械が作動し、その中心には「歪み」が生じ始めていた。
そして。
実験の中心、虚空から「ソレ」は現れた。
形はまるで人間を造ろうとして失敗した極彩色の粘土の塊の様だった。
怪物は実験に使っていた機械を破壊し、逃げ惑う人々を取り込んでいった。
誰もが混乱していた中で、自分はただこれからどうなるのだろうと考えていた。
ふらふらと進む怪物を眺めながら、自分もそして皆もあの怪物に食べられてしまうのではないかとそんなことを淡々と考えていた。そしてこう思った。
(それは……嫌だな……)
そう思い強く願った、自分の肌で感じている『それ』に。
そこから先のことはよく覚えてはいない。
そして意識がはっきりしたときにはもうあの怪物はいなくなっていた。
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