戦闘:襲来


 放課後になり、そのまま帰路に就く戒理、あの後、ファナとは会わずに学校を出た、来歌は友人とカラオケに行くらしいので一緒では無い。

 そしてもうすぐ家に着こうという時だった。肌を突き刺すような感覚、高次層のざわめき。

「……またか」

 高次層に意識を集中させ唱える。世界を渡るその言葉を。

『二重世界交信』

 色が反転された世界、その中で存在感を放つ、黄金色の獣人。

「てっきり、今日はもう終わりだと思ったんだがな」

「私もそのつもりだったんですが、少し……気が変わりました」

 ファナが腕を振るう。すると虚空からカラフルな泥の塊が現れ、ドロドロと溶けながらなにかを形作ろうとしていて。それは見ようによっては二つの槍を携えた中世の戦車に見えた。

「『戦車チャリオット級』です。センパイ勝てますか?」

 その言葉を聞いた戒理は深く溜息をついた。

「知らないみたいだから教えといてやるがな。俺の竜徒の力、あの光の羽根が当たった外界落ちは問答無用でただのエネルギーに帰るんだよ。だからお前らがどんなのを送り込んできたって無駄だ」

「そうですか……じゃあ私がその翼を押えとけば、いいんですね?」

「やってみろ」

 そう言うと戒理は竜徒へと姿を変え一直線に外界落ちのもとへと向かう。

「ハァッ!」

 真正面からファナの飛び蹴りが来る。これを戒理は避けずに受け止め微動だにせず、ファナの脚を掴み思い切り投げ飛ばす。

「邪魔にもなってないぞ!」

「ナメ……るなぁ!」

 飛ばされた先の民家の屋根に着地、再び戒理へと壁から壁を跳躍して一気に距離を詰める。

 しかし、既に戒理は戦車級の目の前だ。そこで戦車級は歪な車輪を回転させバックで戒理から離れながら、歪んだ槍を射出してくる。

「はあっ!」

 それに対し戒理は光の羽根で応戦、輝く羽を放ち槍を相殺そのまま突進する。しかしそこで戒理の脚になにかが巻きついてくる。

「クソッ! なんだロープ!?」

「尻尾ですよセンパイ!」

 ファナの長く伸びた尻尾に脚を絡めとられファナのもとへと引き寄せられる戒理、さらにそこに戦車級からの槍の追撃が飛んでくる。

 槍はなんとか羽根で迎撃する戒理しかし尻尾は依然として戒理を放さない。

「クソッ、放せ! お前、勧誘する気あるのかよ!? 攻撃してばっかりじゃねえか!」

「そうですね、でもセンパイを戦闘不能にしてからセカンドノアに連れ帰ったほうが手っ取り早いかと思いまして、あと……少し妬ましかったものですから、つい」

「妬ましい!? お前になんかしたか? むしろ俺が襲われた記憶しかないぞ!というか、いい加減放せ!」

 戒理は竜の強靭の爪で尻尾を切り裂こうとする。

「おっと」

 するとファナはあっさり脚を放し尻尾を縮め自分のもとへもどした。

 ファナはもう、戒理のすぐそばまで近づいており、戦車級に向かえば必ずその隙を狙われるだろう。

「わたしの力は主に哺乳類系なので尻尾切られるのはちょっと困りますね」

「もともと生えてねーもん切ったって変わんないだろうが、そんなことより、いい加減やめないか、こんなことしても無駄だぞ」

「……そうですかね、昨日みたいに外界落ちの数を増やしてみたらどうでしょう?」

 挑発するような笑みを浮かべるファナ、しかしその表情はどこか――

「お前、なにを迷ってんだ?」

「……!」

「いや理由はだいたいわかるさ……あいつと、来歌と話したからだろ?」

「そんなこと……迷ってなんか……」

「あいつはレイヤードも一般人も仲良くなれるって本気で考えてるような奴だ。高次層と交信出来るなんて他のやつらにとっちゃ気味が悪いものでしかないのに、あいつは全然そんなこと気にしない、しかも考えてるだけじゃなくて周りも仲良くさせようと行動まで起こして、その上その通りにするようなすごい奴なんだ。あいつのおかげでウチの学校のレイヤード差別は無くなったんだぜ、すごいだろ?そんな来歌と話してお前も自分の考えに自身が持てなくなったんじゃないか?」

「……私は」

 その時、ファナが制御し動きを抑えていた戦車級が突如として爆散した。

「「!?」」

 その残骸が虹色の霧、高次力に変わり空へと登っていく。

『我らセカンドノアの意思が揺るぐ事は許されない』

 高次力が登って行った方向から声が響く、上空を見つめる二人。

 そこに、いたのは……。

「黒い……竜徒……?」

「……ノア様……どうして」

 高次力を吸収した黒い竜徒、ノアと呼ばれたそいつはまず、ファナへと手を向けた。

「っ!危ねぇ!」

 咄嗟に間に入る戒理、ノアは躊躇いなく黒いエネルギー弾を放った。

 戒理も応戦し羽根を展開し蛹の様に丸め防御する。

「ノア……か、お前が胡散臭い集団のリーダーって訳か? 自分の名前を組織名に使うのはどうかと思うぜ?」

『……黙れ』

 ノアが姿を消す。

「なにっ!?」

 そして既に戒理は攻撃を受け吹き飛び民家へと突っ込んでいた。

「――ッ!」

「センパイ!」

 吹き飛んだ方向へ声を掛けるファナしかし返事はない。

「ノア様、私は」

『これは警告だファナ、私の命令通り、その忌々しい者を始末しろ。次はない』

「……はい、我らが先導者、私達はあなたの意思に従います……」

『それでいい、二度と私にこんな真似をさせるな、私は一秒だってアイツを見る事さえ耐えられないのだからな』

 そう言い残してノアは虚空へと消えてしまった。高次層から出たのだろう。

 立ち尽くすファナ、すると戒理が突っ込んだ民家から彼が這い出て来る。既に竜徒ではなく元の姿に戻っている。

「なんだったんだあいつは……俺の姿を見るのが耐えれないってどういうことなんだ?なあお前ならなんか知ってるんじゃないのか?」

 立ち上がり、煤を払いながらファナへと問いかける

「……ごめんなさいセンパイ」

 すると目に涙を滲ませたファナは、ノアと同じように虚空に消え、高次層から出て行ってしまった。

「……ほんとなんなんだ、ったく」

 一人残された戒理も高次層を出る。戒理が突っ込んだ家は元通りになっている。

 そもそも高次層の世界はこちらの世界を模しているだけでそのものではないのでこちら側に影響はない。

 辺りを見回しファナやノアがいないことを確認した後、戒理はその場を後にした。

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