第34話 男じゃないと判らないダメージに耐えるのも父として当然のこと
先の頭突きで水月に大ダメージ。その後股間直撃の右ストレート。股間はこめかみと水月とも直結してるのか?しばらくして動けるようにはなったが、鳩尾とこめかみに鈍痛が残り下半身には力が入らずまともに歩けない状態が続いた。リナは良い結論が出たと判断したらしく、俺たち3人をテーブルに座らせると昼食を作り始めた。俺は急に十才と五歳の子供の親になったわけだが、割りと上手くやれてるよなーと感慨を噛みしめながら、子供の他愛ないやり取りを眺めていた。不意に後ろからリナの少し不自然な程大きな声が響いた。
「あのぉ!私はほら、料理は苦手だからさ!この前に作ったのと同じものだけど。我慢して食べて下さい!」
鳩尾の鈍痛をこらえながら振り向くと、リナが顔を赤くして料理の載った皿を突きだし俯いていた。バレンタインのチョコを差し出す乙女のようだった。ばきゅーんですわ。自分の心を生まれてこの方凍らせ続けて生きてきたコミュ障完全体の俺だ。三次元のリアル女子に萌えたのは初めてです。リナと出会った日に、リナが作ってくれたものと寸分違わない料理がテーブルに並んだ。少し心配になって俺は聞いてしまった。
「もしかして、リナはいつも同じものを作って食べてるのか?」
「そうだ。だから言っただろ?私は女として出来損ないなんだ」
しまったぁ!彼女の心情を考えたら、聞いてはいけない失言をしてしまった。俺はクソバカヤロウだ。衝動的に俺は立ち上がった。大きな音がして椅子が倒れる。子供達はビクッとした。やっぱ新米父は駄目だな。でももう後に引けない。
「リナ!リナは出来損ないじゃないよ!さっき森の中でも言ったけど。俺たちが今、こうやって座って仲良くしてるのも、リナがリナだったからだ!俺はリナを尊敬してるよ。リナが強いから、まわりに流されない強さがあるから、俺はリナを尊敬してる。料理が出来ないからなんだよ!リナはリナなんだから良いじゃないか!」
「ケントがそう言ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・私のこのコンプレックスは根強いんだよ。女として出来ることが私には一切出来ない」
力なくつぶやくリナ。
「そんなの出来るヤツがやれば良いんだよ!た、例えばさぁ!例えば俺はとても弱いんだ。だから、そばにリナが居ると、とても安心出来る!もし君が俺たち家族のそばに居てくれるなら、料理は俺が作るよ!針仕事は苦手だけど練習して上手くなるよ!リナには堂々としていて欲しい。俺が尊敬してるリナは、今まで通りのリナなんだよ!」
あれ。俺なんだか勢いに任せてプロポーズ的な事言っちゃってるよね?
「え?ケント。それって?」
「あー、どう取って貰ってもかまわないよ!俺は嘘はつかないし、俺の国では男が一度口にしたことは命がけで守るっていう風潮があるんだ。リナに取ってみれば迷惑な話かも知れないけどね!」
俺の心のダムは全く修復出来ていなかった。さっきからすぐ決壊して衝動的な発言を繰り返してしまう。全く俺らしくない状況だ。不意にバァンと音が鳴った。リミュが立ち上がり、険しい表情をして机を叩いたのだ。
「なんなのな。さっきから聞いてたら、おまいらは付き合ってんのか?あ?リナはケントのことが好きなのか?」
リミュに直球で聞かれてしまい、赤面するリナ。
「どうなのな!黙ってたら判らないのな!ケントはリミュとキトのお父さんなのな!リナがケントと付き合うって事になれば、リナはリミュとキトのお母さんと言うことになるのな!とっっっっっっっっても大事な事なのなっ!はっきりするのな!」
興奮したリミュは机をバンバンと叩きながらリナに詰め寄る。もうとっくに俺のキャパを超えたこの状況に俺はどうすることも出来ない。キトは腹をくくって食事に集中しだした。リナは蚊の鳴くような声で
「よく判らないわ」
と、リミュに答えた。
「きーこーえーなーいーのーなーっ!あれなのな?城の衛兵はそんな小さい声で勤まるのな?」
ここぞと言う時に追い込むテクは五歳児のレベルじゃないぞリミュ。今居る四人の中で、リミュがメンタル一番タフかも知れないな。リナと俺は色々事情を抱えててメンタル弱いから、もう少し優しくして上げて。という俺の願いも届かず、リミュは更にリナに問いかける。
「衛兵がそんなんでいいのな?大人がそんなんでいいのな?な?」
リナは両手で顔を覆ったまま、大きな声で話し出した。
「だって。だって、私だって、よく判らないのよ!ずーっと、ずーっと一人だったんだもん。それが急に家族のように思ってくれてるとか、美しいとか、尊敬してるとか、そばに居てくれとか言われたって!ケントだって私のことよく知らないかも知れないじゃない!頭の中が真っ白でよく判らないのよ!」
「ふーん。リナはな。自分に自信がないのな?」
「そうね。私は女らしくないからな。自信なんてもてるわけない」
「あのなーケントもなー、自分に自信がないのな。リミュは自信が無いというのがよく判らないのな。リナもケントも同じふうに痛い感じのな?そうすると、痛さが判るから、お互い優しく出来ると思うのな-。もう付き合っちゃえば良いのな!」
伝説のお見合いオバチャン並の強引さのリミュにかなわんなーと、俺は心の中で舌を巻いた。
「き、急に言われても・・・・・・・」
リナもキャパ一杯らしく、もう既に萎縮の方向に向かっている空気を、リミュは敏感に感じ取ると、
「まぁ、今日はもういいのな。とりあえずな。今日はもう泊まって行くのな。リミュと一緒に寝るのな。ゆっくりしていけば良いのな」
と、締めくくった。やるなぁリミュ。
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