第30話 兄妹愛が芽生えた?

「リミュなー。自分がこんなに魔法の才能ありすぎなのなー。知らなかったのなー」


ある朝、リナの非番の日に併せて森の家で目覚めた俺たちは、訪れたリナと朝食を取るため俺は調理に、他の三人はテーブルで朝食を待っているときに、リミュが腕組みに鼻の穴全開の得意満面な顔で自慢をし始めた。俺が調理の手を休めて振り向くと、リナがこっちを見て指示待ちの表情だ。リナにはリミュが環境の変化や、魔法の抑制で相当ストレスを溜めているらしく、この前ヒステリーを起こしたこと。その対策のためショウジキヤに新人を迎え時間を作ったこと。今は手探りでリミュのストレス解消の方法を模索しだしたことを説明してあった。リナはその試みに水を差すような事をすまいと気を遣ってくれているのだ。俺はにこりと笑いかけて、何も問題はないことを伝えた。リナは一つ咳払いをした後、リミュに問いかけた。


「へぇー。そんなに凄かったんだ。なにかあったのぉ?」

「んふー。あのなー。リミュはなー、ケントとキトと三人チームなのなー。でなー、もしもだよ。もしも、魔物が襲ってきたときにトドメを刺すのはリミュなのな-。なにしろな。必殺技だから内緒だからな。リナにも詳しくは話せないのなー。でもなー、内緒にするなら、少しだけ教えるのな」


得意満面なリミュの横顔には、嘘をついて延びたピノキオの鼻もたじろぐほど鼻高々に見える。少しはリミュの精神状態も良い感じになってるのかな。


「りみゅ。私は城の衛兵だよ。大事な秘密は決して漏らさない。じゃないと衛兵は勤まらないからな。誰にも言わないと約束するから、私にも教えて欲しいな」

「そうまで言うなら教えて上げるのな。あのな。耳貸して。えとな。こ・ん・で・ん・え・い・ね・ん・し・ざ・い・ほ・う・・・・・・・な。わかった?」


リナの耳元で、ひそひそ声で囁くリミュ。


「え?なに?リミュなんて言ったの?」


大事な秘密なのに何度も言わせんな。とでも言いたいのか、やれやれと言った表情で肩をすくめるリミュだ。


「だからな。こ・ん・で・ん・え・い・ね・ん・し・ざ・い・ほ・う。な?わかった?」

「んー。それは必殺技の名前?」

「大きい声で聞き返さないのな!魔物に聞かれたら、ワザを避けられちゃうかも知れないのな!」

「あー、ごめんごめん。そうか。秘密の必殺技なのね?」

「そう!そうなのな!ひみつなのな。凄い威力なのなー。いひひひ」


んー。取りあえず、リミュのストレスは減少の方向に向かっていると確信した。ふと目があったリナは、うなずきながら俺に微笑み返した。彼女もきっと俺と同じ事を感じホッとしてくれてるのだと思った。朝食を終えた俺は、リナとキトに目配せをして準備に取りかかった。


俺は大分前からリミュのスキを伺って、キトやリナと打ち合わせをしてきたのだ。俺はキトと裏山の広場にやってきた。準備が出来たので、キトがリミュとリナを呼びに行く。その間に俺が額に青筋を立ててこんもりと盛り上がった布に対して手かざしを続けた。キトも加わり手かざし中に、リナがリミュに説明を始めた。


「リミュ、今あなたはチームワークの練習をしてるわよね。ケントに聞いたんだけど、あなたの一撃が当たるかどうかが、とても重要だと私も思ったわ。だから今日は練習の仕上げをしようとケントとキトが準備をしてくれたの。今日は貴方の魔具を外して訓練をするわ。だからとても危険。本当に気をつけて欲しいの。いい?判った?」

「魔具を外すのか?それはとても危険な。リミュは本当に注意するのな」


コクコクとうなずくリミュ。ほぼほぼ準備も終わった俺は、リナの後に続いた。


「今日の訓練の目的なんだけど、攻撃の威力より、正確さだ。そして、万が一攻撃が外れたとき、複数の魔物に遭遇したときも考えて連射の訓練もする。俺とキトでターゲットを 沢山用意した。上に昇っていくターゲットだ。低いうちに撃ったら人に当たる場合もあるだろ?魔具も外しているので、とても危険だから上に上がったターゲットを狙うように。それだけは守るんだ。わかったか?」

「わかったのな。リミュの魔法は強力すぎるのな。ホントに気をつけるのな」

「よし!じゃ、行くぞ。キトいいか?せーの!」


俺たちは地面に広げてあるこんもりと盛り上がった布を勢いよく取り払った。被せた布に押さえられていた白いものがフワフワと浮き上がり空に昇り出す。


「おぉー!おほぉぉーーー。なんだ!これはぁー!おほぉー」


大喜びのリミュだ。俺とキトは数日前からリミュが寝てしまった時や、寝坊したときなどを利用して、用意して置いた50センチ角の正方形に切った薄紙を貼り合わせてサイコロ型の袋を沢山作っていたのだ。それを膨らませて中の空気を魔法で暖め熱気球の理屈で浮くようにしたというわけだ。


「よし!リミュ。まずは一発目だ。よーく狙って-。そうそう、あれを一発目に狙ってみよう」

「わかったのな!よーし。こんでん・えいねん・しざいほうー!」


ビカッと青白い閃光に続いて、バン!という乾いた破裂音。目標の紙風船はボヒュ!という音を残して消滅した。


「リミュ!ちょっと威力が強すぎるぞ。連射の訓練だから威力より速射を心がけるんだ。冷静によく狙ってどんどん打ち落とせ!」

「おぉ!ちょっとでもこんなに威力がでちゃうのな!魔法使うのがこんなに楽だとは、リミュも忘れていたのなー!」

「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、うひひひひ。ばばばばばば!」


枷のない状態の魔法がとても楽でストレスがないのか、リミュは大喜びで魔法を撃ちまくっている。熟練の事務員が判子を素早く押し続けるような素早さで、紙風船はボヒュ!ボヒュ!と音を残しながら次々と消滅していく。頃合いを見計らって、俺とキトは2番目の布を取り払った。今日は三山紙風船の塊を用意した。ほんの数分で百用意した紙風船は全て消滅した。俺が終了を叫ぶと、リナは迅速にリミュに魔具を装着してやる。リミュは相当気持ちよかったのか、とても良い笑顔だ。


「リミュ。この風船は俺とキトが何日も眠いのを我慢して作ったんだ。今日は百個作った。また俺たちが風船を作ったら、訓練をまたやろうな。リミュはキトにお礼を言いなさい」


上機嫌なリミュは、キトの首っ玉にピョンと跳び上がりしがみつくと、


「キト。今日はありがとうな。リミュはとても気持ちよかったのな。キトもやれば出来るのなー。今度からリミュも手伝うのな!」

「だって、お前は妹だからな。アニキの俺が妹のために頑張るのは当然だしな!」


リミュに首っ玉にしがみつかれて頬ずりされているキトは、いっちょ前に照れてやがる。取りあえず、今のような方向性でリミュと過ごしていってリミュの様子を見守っていこうと俺は思った。

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