第29話 墾田永年私財砲

予てから目星をつけていた町外れの原っぱに俺たちはやってきた。見通しのよい草原で、酒樽ほどの大きな岩が一つだけ転がっている。俺はその岩に座り込んで話し始めた。


「出会った魔物が一匹だった場合な。3人が力を合わせて確実に魔物を倒す為にはどうすれば良いと思う?俺は考えたんだけどな。3人の中で一番威力の強いリミュの魔法を確実にその魔物に当てることだ。危ないからな、確実に当てないとならない。それで、3人に役割分担を考えた」


言いながら、不意に子供達の前で手を叩いてみた。パン!となる音に驚いて、ビクッと目をつぶる2人。固まる2人に俺は続けた。


「な?目の前で閃光と破裂音を立てたらビックリするだろ?キトは閃光の魔法使えるか?」

「うん、出来ると思う」

「よし、まずはキトの閃光で魔物の不意を突いてスキを作るだろ?その後俺が、魔物の膝に魔法を当てて動きを封じる。理想なのは転ばせられればいいがな」


キトの膝裏にこっそり手を回し手前に引いてやる。キトはバランスを崩し尻餅をついた。


「これが、必殺技の膝カックンだ。これは俺がやる。それで、身動きが出来ない魔物に、リミュがじっくり狙いを定めてズドーン!な?勝てそうだろ?どうだ?」


キラキラした瞳で俺を見上げる子供達。相当興奮してるわ。


「それで、ワザの形も考えてみた。俺たち3人が道を歩いてるとするだろ?そこに急に魔物があらわれた!そこで俺がキト!と叫ぶ。これが最初の合図だ。合図と同時にキトは右側、リミュは左側に急いで離れる。で、間髪入れずにキトのハヤワザが炸裂だ!フラッシュ!と叫びながらな、狙いを定めて撃て!キトのハヤワザが攻撃成功の鍵を握ってるわけだから、非情に重要だ。キトがキーマンだ。できるかキト?」


両手を拳銃の形にしてフラッシュ!と言ってな。と説明した。意味はわかってないだろうが、カタカナのワザ名が嫌いな男子は居るまい。感入るようにうなずくキト。


「キトのワザが効いてスキが出来る魔物。そこで俺の膝カックンだ。上手く決まった!魔物は身動きが取れない。さぁ、リミュの必殺技の出番だ!俺が考えた必殺技の形だ。こうやってな」


両手首の内側を併せて、子供の頃習った[むすんでひらいて]の、開き掛けぐらいな形にする。そして11時の方向に勢いよく突き出す。俺が子供の頃流行った改造ヒーローの変身アクションの最初をヒントにしたポーズだ。


「こうやってな、こんでん!と呪文を唱える」

「じゅもんなのか?誰に教わったんだ?ムア先生なのか?」


鼻の穴全開でエキサイトしているリミュに


「いや、呪文は今俺が考えた。特に意味は無い」


と、答えながら、つきだした両手を右腰溜めにして


「えいねん!」


腰溜めにした両の手を回転させながら突きだして


「しざいほう!」


と俺は叫んだ。ポーズは俺より十歳ほど年下の世代に爆発的にヒットしたアニメをヒントにした。三段階にしたのは、儀式化することでクールダウンの間が出来て暴発や誤射の予防になると踏んだからだ。決めポーズのまま振り向いてどうだ?と問いかける俺にブンブン首を振ってうなずくリミュ。


「俺の最初の合図の直後に、横に飛びながらリミュはこんでん!だ。で、立ち位置が決まったらえいねん!な。その間に、キトのフラッシュ!俺のカックン!リミュはえいねんで溜めるわけだ。溜めながら魔物が動けないかどうか、危険が無いかどうかをよく考えて、しざいほう!だ。わかるか?」

「わかったわかった!」


声を揃えて叫ぶ二人。


「よし。チームワークはタイミングが大事だ。今日は魔法の威力は抑え気味にして、タイミングの練習をやるぞ。危ないから集中してやるように。わかったか?」


「キト!」


ザザ!


「フラッシュ!」

「こんでん!」

「かっくん!」

「えいねん!」


「しざいほう!」


「よし、良い感じだ。リミュは慌てないで、ミスがないように、もうちょっと溜めても良いぞ。キトは良いぞ上手い。よし、あと二十回練習しよう」


原っぱではしばらく子供達の元気な呪文が何度も響き渡った。

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