第28話 二度目の家族会議

自分の予想通り、マルコとは最初ギクシャクした。とは言っても、自己紹介の時の様な拒絶する様な感じは、マルコにはなかった。マルコにしても、若くして故郷から出てきて自分の基盤を作るため必死だったわけだ。そして、この人についていこうと指標を定めたのに、一時的にせよ違う場所で働けと言われたため、強い焦燥を感じてしまったのだ。俺は若くて経験は無いが、ずっと孤独な時間を過ごしていたから、自分を見つめる時間は充分あった。そのせいか、マルコの中にあったネガティブな感情がどういう感情なのか、理解出来ている自信が俺にはあった。


それとは別の話として、同年代の同性の人間との接触がこの十数年殆ど無かった俺は、マルコが最初からフレンドリーであったとしても、やっぱりギクシャクしたんだろうな。と心の中で苦笑しつつ、マルコと接した。結局俺はマルコとの関係性をより良きものにする。という努力を一切放棄した形で、極力事務的にマルコに接した。


「肉は焼きすぎると締まってきて肉汁が絞り出されてパサパサになる。かと言って生焼けだと生臭かったり食あたりも怖い。肉の表面を軽く指で押した感触で焼き加減を判断出来る。その加減を覚えてくれ。肉を噛みしめたときに肉汁がジュワッと出てきて、外側は少し焦げ目があって皮の端の部分はカリッとしてる。ぐらいが俺は美味いと思う。オーダーに併せて一本余分に焼いて良い焼き加減が身につくまで、途中で食べてみたりして身につけろ」


マルコには最初にドリンクと串焼きを覚えて貰った。熟練の職人はどうしてるのだろう?串焼きは焼き加減が焼き鳥の出来を大きく左右するので、焼き始めたら掛かりっきりになる。ウェイがドリンクを補佐出来るまでになっているので、マルコに串焼きを任せっきりに出来たら相当楽になると判断した。子供達は昼はムア先生の授業を受けに行く。ムア先生は三日開講して一日休みという流れで授業を開いている。俺は最初の1週間でマルコに仕事を覚えて貰って、その後はランチタイムを俺だけ全休にしてしばらくは子供達と過ごすことでケアしようと考えていた。夜は俺がメインで働く様に考えていた。昼と夜の営業の中で、お客さんの反応や、マルコと俺の中の話し合いで生まれた意見などを、夜マルコに工房まで行かせて、頭領と話し合わせる様にした。ショウジキヤで働き始めることで、マルコの中に育っていた職人の自覚がなくなってしまうのは惜しいと思ったからだ。マルコは仕事の飲み込みも早く、調理の仕事は1週間で問題ないレベルまで習得した。


店に集まって貰い試食をした日から三日目には、チューハイもメニュー入りした。一杯3ギル。炭酸とレモンのチューハイの他に、冷やした緑茶で割るお茶割り、炭酸と絞った果汁を入れた葡萄ハイにオレンジハイと四種類でスタートした。試食の日にチューハイにハマったノーズは毎晩やってきてオープンカフェのテーブルで、ウホウホ言いながら飲んだくれるし、三日と空けずにゴードも商売仲間を連れては来る様になり、チューハイは瞬く間に人気ドリンクとしてショウジキヤに定着した。



ショウジキヤをマルコに任せられる時間が増え時間が作れる様になったので、俺は早速、考えていたことを実行に移した。塾へ行くことを決めた日の様に、もっともらしく家族会議を開いた。子供はこういう儀式じみたことが好きだから、そうやってノセると良いと育児に悩む質問者の掲示板での書き込みにそう答えた回答を読んだことがあった。俺は深刻そうな表情を保ちながら、[もし、我々が魔物に出くわしたときに、どうやって身を守るか会議]を始めた。


「もし、俺たちが旅の途中、魔物に遭ったらどうする?幸い俺たちは3人とも魔法が使える。俺たち3人が力を合わせたら多分強いよな?俺たち」

「そりゃリミュが居るからな。相当強いよ俺たち」


キト、ナイスコメント。リミュは自尊心をくすぐられたらしく、ムッハーと鼻から大きく息を吐き出した。


「まぁなー、リミュが本気出したら本当にヤバいからな。ドラゴンが来ても多分大丈夫な!」


というリミュに間髪を入れず俺が口を挟む。良いリズムだ。


「そうだ!リミュの魔法はとてつもない!だからとても危険だ。判るな?」


コクコクとうなずく子供達。


「危険だけど、威力は凄い。当たれば勝てる。だからチームワークが必要だ」


「ちいむわあく?」


声を揃えて聞き返す2人。


「そうだ。3人がそれぞれ役割を決めて、お互いがお互いを助け合う。これがチームワークだ。明日からそのチームワークを練習しようと思うんだがどう思う?」


「うん。良いと思う。何かあったときに役に立つよね!」

「そうなぁ。リミュの魔法は危険だからなぁ。練習した方が良いよな」


少し考えた後、賛成を唱える2人。


「よし決まった!あした、ムア先生の授業が終わったらショウジキヤで待ち合わせだ。明日から3人で秘密の特訓だ」


俺は抜け目なく秘密というワードを混ぜ込むのを忘れなかった。子供は秘密が大好きだからな。

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