第24話 助っ人登場
店の前面はガラス張りでよく光が入り、日中店内は明るい。ところがいきなり店内が暗くなった。雲が太陽を遮ったのか?と、俺は思い立ち上がり外を見ようとした。店の入り口は巨壁に遮られていた。
「やーねー。ケント何あなた辛気くさい顔してるのよぉ。せっかくお店を起ち上げたのに、そんな顔してたらお客がに・げ・る・わ・よ」
むちゅぅと言う、ムア先生のキッスの仕草に俺は大きく気力を削られた。
「おやびん、この壁みたいな人は誰ですにゃー?:
「かべっ?あんた、今私のこと壁呼ばわりした?やーねー!人のことイキナリ壁呼ばわりなんて失礼しちゃうわ!ケント。なんなのこのブス!」
トラブルの予感を感じ慌てて間に入って、
「先生、開店準備でしばらくご無沙汰しておりました」
と、頭を下げる俺に、
「貴方が来なくて寂しかったわぁ。わたし。でも仕方が無いわよね。飲食店なんて、お昼時が一番の稼ぎ時。午前中は準備で大忙しよね。貴方も大分、精霊を弄るバリエーションが増えた様だけど、もし補習が必要なら私が個人授業して上げるわ。夜でも良いのよ。うふふ」
ギラリと光った捕食者の眼光に血の気がひく俺。
「そうそう、今日はね、ショウジキヤの広告宣伝塔になるオバチャンを連れてきたのよぉ。ルオバさんていうの。ちょっと騒がしい人だけど、我慢して頂戴」
「あらっ!あらー。あーまぁまぁまぁ。新しいお店は木の香りがよろしいおまんなー。まぁわたしは木の匂い好きじゃありまへんけど。あら!おにいさん、あんたこのお店の店長さんやの?なんやまーかいらしい顔してはってぇ。ムアはんが騒ぐのもわかりますなぁ。そんで、なんだすか。このお店は美容と健康に気を使わはったメニューがありますのん?まぁー。奇遇やわぁ。わたしも最近、肌のお手入れとダイエットに興味がありますんや。磨けば光る玉をほこしておくのはもったいないですやろ?ひゃっひゃっひゃっ」
ラーメンスープ用寸胴鍋の様なデッブリとした巨体がゆさゆさと揺れる。俺は開いた口が塞がらなかった。なぜこの異世界で、コテコテの関西おばちゃんキャラが。ルオバさんなんなの?
「あら!あらー、失礼しちゃいましたわぁ。わたしルオバいいますー。いややわー。礼儀を失ったら人間おしまいやないのぉ。それがわたしのイズムやさかい。これから、よろしくお願いしますぅー。略してオバチャンと呼んでぇな。」
発作的に起こった笑いをこらえようとして、ハナミズを吹き出してしまった。飲食店スタッフにあるまじき行為だ。慌ててポケットからハンカチを取り出して顔をぬぐって手を洗う。ルオバさん、あんた面白すぎです。
「ルオバさん、貴方の話し方は少し違いますよね?どこかの地方の出身ですか?」
「いややわー。ルオバさん。なんて他人行儀な呼び方わて好きませんわぁ。オバチャンってよんでえな。私の話し方でっしゃろ?よく言われますのんや。でもな、これは、わたしのオリジナルだす。私らしさを大事にした結果、こういう話し方になったんでっせ。考えるな。感じろ。やで。そやけどな。不思議と誰にでも通じますのんや。なんでですやろなぁ。ひゃっひゃっひゃ」
脳天気に笑うオバチャン。その時俺は閃いた。この人は、転生者なんじゃないだろうか。俺の様な転移者もあるなら、転生者も居るのかもしれない。前世の記憶を少し持ったまま転生したとしたら、コテコテおばちゃんキャラも説明がつく。バラエティ番組で関西おばちゃんのコミュ力には何度も舌を巻いた覚えがある。オバチャンが味方についたら頼もしいかも知れない。
「ありがとうございます!オバチャン、お願いがあります。今後近くにお寄りの際は是非、店にお越し下さい。そして、店の商品をお試し下さい。味の感想や、食べ続けて頂くことでの体調の変化などをお聞かせ下さい。当店の今後の商品への参考にさせて頂きたいんです。勿論、こちらからお願いしてお越し頂くからには、代金は頂きません。なるべく多くの商品を多くの回数でお試し頂きたいんです。いかがでしょうか?」
「え?ええのぉ?オバチャンのこの研ぎ澄まされたセンスとインスピレーションを信頼してくれるってことやね!よっしゃ!まかせときぃ!やるでぇ!オバチャン本気出したるわぁっ!じゃ、兄さん、まずはここの売り!ってヤツをどんどんもってきてぇな。片っ端からやっつけたるで!」
「ありがとうございます!オバチャンも先生も、ここにおかけ下さい。まずはアマザケを召し上がってみて下さい。お米と水だけで作った飲み物です。肌が綺麗になり、お通じでお悩みの方にも効果があります」
オバチャンと先生が揃ってアマザケを一口含んだ。直後に二人とも目を見開いてお互い向き合いうなずき合った。
「こ、これお米と水だけ?お砂糖とか入ってへんの?ごっつう甘いで?甘いと言っても、なんというか、やさしゅうて、柔らかあて、なにやらホッとする甘さや。美味しいで!これで肌が綺麗になってお通じがよくなるの?良いこと尽くめやないのぉ。おっそろしいわぁ」
「やだなにこれ!これ、私の内面を引き出そうとしてるわ。いやだ、わたし、わたしの半分は優しさで出来てたのよ。わたし知らなかった。これからのわたしはもう少し、周りの人に優しく出来る気がするわ。あめぇぃずぃんぐだわ!」
俺はその後、ヌカヅケ、アジ開き、生姜焼きを一品ずつと、ご飯セットをワンセットずつ二人に提供した。
「ふぅーん。この魚は美味しいけど。ミソシルっていうのは不思議な味ねぇ。なんかこう、慣れたら好きになりそうな味だわ。ヌカヅケはちょっと慣れないとダメだわ、わたし」
「あらぁー。オバチャンは全部イケるで。なんやろ懐かしい感じがするわぁ。不思議やけど」
その言葉にやっぱり転生者かも。と思う俺だった。
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