第23話 ショウジキヤ開店
ー遠い遠い、とても遠い、海を幾つも渡った東の国から、この店の店主はこの国にやってきました。その国の料理やお菓子を紹介するために、このお店を作りました。あなたを健康に、美しくする料理や飲み物を沢山用意しております。ー
と彫り込んだ木版を店の壁に貼りだした。
<お飲み物>
アマザケ (お米で作った飲み物です。お米の甘みをお楽しみ下さい。美肌効果、お通じ、疲労回復に効果あり) 3ギル
コウチャ (当店独自の加工法で、薫り高い紅い色のお茶が出来ました。ミルクやレモンを搾ってどうぞ。美肌効果あり) 2ギル
お茶 (当店ではお茶本来の甘みを楽しむため低温で淹れております。痩身、リラックス効果あり) 1ギル50セル
グラスワイン (契約工房からの、蔵出しワインです。店主も唸るワンクラス上の味わい。痩身、若返り効果あり) 白、赤 各3ギル
<デザート>
ヨーグルト(ほのかな酸味が優しい牛乳の加工品です。ハチミツや樫の蜜を掛けてどうぞ。 お通じ、美肌効果あり) 3ギル
カップケーキ (卵、バター、砂糖、小麦粉だけで作った優しい味わいです。お土産にもどうぞ) 1ギル50セル
<お食事>
ご飯とミソシル(豆を加工して作ったスープと、ふっくらと炊いたごはんのセットです。おかずに合わせてどうぞ) 3ギル
塩焼き鳥(鶏もも肉と長葱を串に刺して焼きました。味付けは人気のシオコショーです。お好みでレモンを搾って) 2本3ギル
タレ焼き鳥(焼き鳥を豆と水飴で作ったタレに漬けて焼きました。葱に染みこんだタレが絶品です) 2本3ギル
豚肉の生姜焼き(豚のスライス肉を生姜と豆で作ったソースで焼きました。生野菜付き 生姜は冷え性に効果あり) 4ギル
アジの開き(アジという銀色の魚を開いて日に干しました。ご飯に合います。) 3ギル
ヌカヅケ(野菜を米のぬかで漬け込みました。醤油を掛けてご飯のお供に) 1ギル
というメニュー札を、町のラーメン屋の様に店の壁に貼りだした。オープンキッチンスタイルで、キッチンに接したカウンター席が五席。4人掛けのテーブル席が二つと、十人掛けの楕円の大きなテーブルが一つ。天気の良い日には店の前に三つテーブルを出す事にした。店内のテーブルには、醤油差しと、砂糖壺、一味唐辛子の小瓶を用意した。一味唐辛子の小瓶には、「辛(痛み)味調味料です。焼き鳥に合います。慣れると美味しいですが、ほんの少し掛けて見てお試し下さい」と書いた紙を貼っておいた。この規模を俺一人で回すのは大変なので、ゴードの紹介で獣人の女の子が働くことになった。この国は獣人国から遠く離れているので、俺は獣人を初めて見たのだが、港町に行くと獣人族はそこそこ暮らしているらしい。
開店までになんとか味噌も醤油も間に合った。味噌は三回目の試作で何とかまとまった。醤油は運良く二度目の試作で良いのが出来た。味噌も醤油も日増しに熟成が進み、味がまとまってきている。少し時間が出来たときに昆布と煮干しの品質がよいので、挨拶を兼ねて子供達を連れて港町まで行ってみた。製造を請け負ってくれた、その村は鉱山で死んでしまった男の未亡人家族達が身を寄せ合って暮らしている村だった。村をまとめている老人に、小舟で少し出たら取れる昆布と、隣の漁村で小さすぎて使いもにならない小魚をもらい受けて、それがお金になるので女でも稼げてとても暮らしが楽になった。大変助かっている。と大層礼を言われた。村にはしばらく滞在して、煮干しと昆布の加工を見学した。子供達と散歩がてら隣の漁村に行ってみたら、アジにそっくりな魚を見つけたので、すぐ購入し開いて塩を振り日に干して焼いてみた。思わず母ちゃん。とつぶやくほどのアジの開きだったので、長老にアジを見せて加工法を教え、製造を依頼した。甘酒、紅茶、カップケーキだけでなく、醤油と味噌製造が上手くいってしまい、ノってしまった俺はアジの開き、ぬか漬けと渇望していた日本食品に次々と手を出した。納豆菌は飛び抜けて熱に強い。他の菌との選別も楽と言う理由で納豆製造にも手を出しかけたが、そこは踏みとどまった。あれは、子供のうちに騙し騙し親しむことでヤバそうなハードルを越えられた者が好きになる食品だ。もっとショウジキヤのブランド力がついてから、常連達を洗脳することで納豆教は布教しようと思う。そもそも調理も仕込みも俺一人だ。余り手を広げて、また倒れたら、子供達にまた心配を掛けるし、リナにも愛想を尽かされる。アイテム数をグッと絞っての開店となった。
「おやびん、だれもきませんねー」
ため息交じりに愚痴る獣人店員 猫少女ウェィリーだ。年は十九歳だという。飽きっぽいのが実にネコらしいが、基本的に人なつっこい性格で気さくな子だ。子供達もすぐにウェイになついた。小柄で身長は140Cmほどだが、均整の取れたしなやかな肢体をしている。筋肉質で動きは敏捷だ。背が低く当然届かないだろう高い棚にある物も、躊躇無く飛び上がり音も無く着地する。この前、余りにも暇で店先に出したテーブルで日向ぼっこをしていたウェイは、飛んで来たチョウチョにじゃれた。衝動的な動作だった。やっぱネコだ(笑) その時、ぱっと見で身長以上は飛び上がってるので、身体能力は人間より遙かに高そうだ。短い赤毛から、よく動くネコ耳が生えている。外見的な違いは、瞳が切れ長で大きめなところと、ネコ耳、尻尾、顔つき的に鼻から顎に掛けて人間族より少し突き出た感じだ。あと、暗がりでは瞳孔が縦長になる。
「まぁ余りにもかけ離れた食習慣を提案してる店だしな。気長に行くしかないだろう」
俺もため息交じりで、カウンター越しにウェイに声を掛けた。本気かふざけたのか、うにゃぁーと相づちを打つウェイだった。
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