第18話 味噌醤油がないと死ぬかもしらん

リミュ超弩級魔法力事件。も、片がついてかれこれ三ヶ月が経った。リミュ、キト、俺の三人は午前中に魔法塾へ行っておのおの魔法の練習。お昼は町で食べて、午後の授業が終わったら買い物をして帰宅。キトとリミュは二人仲良く遊ぶので、俺は夕飯の準備までは時間が出来た。その時間を使って味噌と醤油造りの研究を始めた。夕方、たまにリナが混ざって食事を取り、入浴。子供達が寝てしまったら、十二時過ぎまで味噌醤油研究や、脳内ブラウジングをして過ごす。という様な感じで生活リズムも決まってきた。


一度、裏の広場で魔具をつけたまま、リミュの最大火力の魔法力がどれくらいか試してみた。離れたところに水を張ったバケツを置いて本気の力でお湯を沸かしてみてと言ったら、ボウン!という爆発音がしてバケツは変形してしまった。水蒸気爆発を起こしたんだろうと思う。やはりリミュの魔法力はとんでもない威力がある様だ。しかし、魔法塾での学習効果か、リミュも力の出し方に慣れてきた様だ。今ではお風呂を沸かすのはもっぱらリミュの役目だ。俺とキトの魔法力も少し上がった。ムア先生の言う事には、俺はまだまだ世界の成り立ちについて、理解力が浅いので持てる力が出きれてないらしい。俺やキトがお風呂を沸かすと青筋立てて5分は優に掛かる。リミュは浴槽の水面に手のひらをかざして三周させるともう沸いている。もっと早くも出来るけど、三回が一番安全で丁度いい温度にしやすくて楽と言っていた。リミュ本人も魔法と事故の怖さを十分理解したのか、魔法力の調整練習に本気で取り組んでいる成果だ。


ゴードのヨーグルト販売は軌道に乗ったらしい。便秘解消とうたった途端、女性達に口コミで広がり、あっという間に定着してしまった。こっちの世界でも便秘で悩む女性は多い様だ。


この世界では昔から食品の冷却保存が慣習化していた事は前に知ったが、単純な作りの冷蔵庫の存在を知る。木製の四角い箱の形をしていて前面に金具で閉める形のドアがある。ドアと匡体の間にはゴムが張ってあり、中の冷気を逃がさない工夫がされている。箱の壁は空洞になっていてコルクが詰めてあって外気温を伝えにくい構造になっている。天井と底に水の入った四角い金属容器が設置してあって、魔法力でその二つの箱を凍らせれば内部温度が低いまま長時間保たれる。という仕組みだ。俺はその冷蔵庫を二台買ってきた。一台はまともな用途で。もう一台は研究用の保温庫として。金属容器の水を魔法力で温めれば発酵研究にうってつけだと思ったのだ。ヨーグルト製造に試してみたら結果は上々だった。こうなってくると、俄然味噌醤油造りの研究に力が入る。


麹菌の入手方法を色々調べてみたら、稲こうじ病という天然コウジカビが稲穂で繁殖する現象を知った。稲穂にパチンコ玉大の黒いカビが発生する現象らしい。リナに近隣で稲作をしている農家知らないか?と聞いてみたら近所に老夫婦が稲作をしているというので、稲こうじ病が実在するかどうか尋ねて貰った。そうすると運がいい事に丁度発生していたらしく、二つ塊をいただけた。早速蒸した米に振りかけ、冷蔵庫改め、保温庫で仕込んでみた。情報を入手したサイトに、天然麹は繁殖力が弱いので発酵後繁殖が旺盛で白く爆ぜてる部分を集めてもう一度仕込むといいと書いてあったのでその通りにしてみた。頂いたときは黒い塊だったので、黒麹菌なのかな?と思っていたが、黄色みがかった白麹が作れた。その白麹で甘酒を造ってみたら、ちゃんと甘くて旨い甘酒ができて、子供達にも好評だった。その後、その麹を種麹として相当量の麹を作った。ネット情報で乾燥させて保存が安心だとあったので、しっかり乾燥させて紙に包み風通しの良い所へ保管した。


いよいよ俺は味噌造りに取りかかった。町で厳選して購入した大豆を炊く作業から始める。味噌蔵が公開しているブログに詳しい造り方が書いてあって、非常に助かった。大事なのがまず浸漬。理想的な浸漬具合を知るのに添付の画像はとても役に立った。この世界には電子秤がない。理想的な煮上がりは、電子秤の上で指で押していき四五〇グラムから六〇〇グラムで潰れる柔らかさ。と書いてあったが、画像が添えられていて親指と小指で潰れる固さ。とあり、その画像を脳内で何度も再生しながら煮上がり具合を推し量った。次に豆を潰す工程。これは挽肉を作るためのミンサーを買ってきた。と言っても、市販されているわけではなく、肉屋に紹介して貰った鍛冶工房で作って貰った。潰した大豆を塩切り麹とよく混ぜる。良い感じになったところでガラス瓶に移す。上から押しながら詰めていく事で空気を逃がしていく。空気に触れた部分にカビが生えてしまって、事故や雑味の原因になるらしい。ここで、なるべく空気に触れない様にする。現代日本ならラップやビニール袋があるので、潰しも袋に入れて足で踏めばオーケーだし、熟成もラップがあれば簡単に空気に触れない状態が作れるが、この世界には石油加工品がないので、それが厄介だった。和紙を蓋にしたり、酒粕を上に敷き詰めて蓋にするといいのだそうだ。ここは魔法の国なので、味噌の上に小さい容器を置き容器の水だけを狙って沸騰させて瓶の蓋に弁をつければ、余白部分の空気が水蒸気で押し出され真空状態になるし、熱殺菌もできるからと考えたが無数にある味噌造りの指南サイトを見ると、ある地域では味噌玉を網に入れて軒に吊し一冬置いてしまうそうだ。その間に乾燥で中までヒビが入りヒビの奥までびっしりと様々なカビが生えそれから仕込みに入るという作り方もあったそうだ。また、味噌は麹菌だけではなく酵母のアルコール発酵も必要と書いてあるサイトもあり、俺はあんまり神経質になる必要は無いと判断した。俺が取った方法は、和紙はないので目の細かい柔らかい紙を上に敷いて密閉度を高める。上辺の部分だけ定期的に水蒸気の熱消毒を施す。毎日観察をして匂いを嗅ぎ不快臭があるかチェックをする。の三つを選んだ。この水蒸気熱消毒だが、工房で取っ手のついたフラスコ型の金属容器を作って貰った。口にサイズのあったゴム栓を填め穴を開けてガラス管を通す。金属容器に水を入れて魔法力で沸騰させればガラス管から水蒸気が出てくる。天然魔法力式スチームクリーナーだ。そのうちビールや、日本酒、蒸留酒も作ってみようと思っている。そうすればアルコール消毒もできる様になる。が、このスチームクリーナー何しろ手軽だ。水を少なめに入れておけば、俺の魔法力でもすぐに水蒸気がでてくる。味噌だけではなく、保温庫やシャーレ、鍋など調理器具の殺菌にも重宝した。


さてそうなってくると、味噌の仕込み期間が十ヶ月から1年以上という長期間なのが悩ましい。頭領の言っていた


○葡萄汁の元気をつまんでやれば温度は下がる。

○酒の精霊には低い温度でも堪え忍んでじっくりと仕事をして貰う。

○時の精霊を少しばかりおだてて時間の進みを早くして貰う。


の、元気をつまむ。というのはちょっと何言ってるか判らないんだが、最初に練習したのが過熱冷却系の魔法なので、これは出来る。2番目の細菌への関与と、3番目の時間の進み具合を変える。というのがどうしたら良いのかさっぱり判らない。少しでも早く味噌汁が飲みたい。と身もだえする俺の心は、頭領の元に赴き土下座をして教えを請う動機としては充分だったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る