第16話 魔法悲喜こもごも

「と、いう有様で、何かあったら本当に取り返しがつかない様な威力でして。可哀想な気がしましたが、泣いてしまうほど厳しく話はしてみました。しかし、何しろ俺も心配でなりません。あんな威力の力を放出して、手を怪我するようなことはないんですか?なんかこう、いい方法はないですかね?」


俺は心配で心配で、矢も楯もたまらず朝イチでムア先生の元に押しかけて相談してみた。


「そうねぇ。私も凄い子よーとは思ったけれど、正直計測不能なレベルだったのよねー。まさかそんな威力を初心者のうちから出せるとは、末恐ろしい子だわ。まず魔法力を蓄える器が桁違いよね。最弱レベルがコップぐらいだとするわよね。私が噴水池ぐらいだとするとタミュ先生がプールぐらいよね。リミュは正直はっきりはしないけど、湖とか下手したら海レベルよ。ちょっと想像もつかないわよね。魔法力の強さはね蓄える量だけではなくて、それを一度にどれくらい打ち出せるか。この二つの要素で決まるのよ。リミュの打ち出す量もとてつもないものよね。一般人が水鉄砲だったらリミュは大砲みたいな感じかしら。蓄える量については、先天的なものが大きいので訓練してもあんまり変わらないの。でもね、打ち出す量は魔具で抑制する事が可能だわ。その魔具をつけていれば、一度に打ち出せる量は減らせるのよ。彼女がある程度判断力がつくまでは、魔具を身につけさせるしかないわね。おそらくその威力を抑制する。となると、通常必要なニーズを遙かに超えるからとても高いものになると思うわ。魔具の方は私の方で探しておくわよ。見つかったら金額の事とか相談しましょう。なにしろ、当分はリミュちゃんから目を離さずに、事故だけは起こさない様に気をつけてね」


判りましたと答え、俺は先生宅を後にしてゴードの事務所に向かった。魔法塾に昂ぶった俺はヨーグルト製造についての話し合いをゴードと詰めてなかったのだ。事務所でゴードと向き合い俺は話し始めた。


「ヨーグルトは乳酸菌を牛乳の中で増やしたら簡単にできる。ハチミツや砂糖を掛けて食べてもおいしいし、牛乳で割って砂糖を混ぜて飲んでもおいしい。主力的にはこの二つの商品が好まれて浸透しやすいと思う。また、牛乳を飲むとお腹を壊す様な人手もヨーグルトは食べられる。他に、お菓子の材料に使ったり、肉を漬け込むと肉自体が柔らかくなっておいしくなる。ヨーグルトを少量熱殺菌した牛乳に混ぜて適温を保てば十時間ほどで作れてしまう。頭領には細かく伝えておいたので、生産はすぐに出来ると思う。俺が出す条件は「ショウジキヤ」のブランドで売ってくれれば、利益などは要らない。今後とも協力をして欲しいのが願いだ。最初にゴードが協力を申し出てくれて以来、余り利益がそちらに出ていないので、気になっていたんだ」


ゴードは大きく笑い出し、ひとしきり大笑いした後、話し始めた。


「いや、あんたは全く面白い男だ。何故そんなバカ正直に振る舞うんだ。俺から文句が出てからでも、そんな気遣い充分間に合うだろうに。最初の見立て通り、あんたは良いヤツだな。俺は人を見る目には自信があるんだ」

「正直、自分でもよく判らないが、俺はこの国に来てから出来た人との関係が全て大事に思ってるんだ。リミュ、キト、亡くなったお祖母さん、ノーズ、頭領、ムア先生、そしてあんた。俺は元いた国では、これほど人と関わりを持てずに生きてきたんだ。だからなるべく先回りして動こうと思ってしまうんだ。あと、自分の国の生き方が基盤にあるのかも知れないな。武士道というんだが。俺の国の人々は、みなその生き方や考え方に誇りを持って生きていると思う」

「ほう。そうか。こちらの国で言う騎士道に近いのかな?」

「あぁ、そうだね、近いと思う。我々の国は、大災害の後でも奪い合いが起きる事もなく、皆助け合ったり順番を守って生活したりするんだ。そういう所を誇りに感じてるんだよ。財布を落としても結構中身を抜かれずに、手元に戻ってきたりするしね。」

「そりゃぁすごいな。俺たちの感覚だと、お人好しの間抜けな奴らが作った国。ってイメージだ」


ゴードの返答に、まぁそうだろうなと心の中で苦笑する俺だった。その後、魔法塾の話題になり、当然リミュの事に話が及んだ。ゴードも流石に驚いたようだ。しかし流石に商会を率いる会長をしているだけある。少し声を落として、それだけの力なら悪い事にその力を使おうとする輩がでないとも限らない。だから、この話題はなるべく早く知ってる人間に口止めをしておくべきだ。と話してくれた。経験豊富なゴードが味方についてくれてるようで、俺は頼もしく感じた。

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