第15話 え?俺魔法使えるの?

どうにも窮屈で落ち着かない。そりゃそうだ。周りは5,6歳から10歳そこそこ。並べられている机も椅子も子供用の極小サイズだ。俺は小人の家に迷い込んだ森のクマさんの様に小さな椅子に身をかがめ座っていた。


「さあさあ、あなたたち!授業をはじめるわよぉー。今日からね、新しい友達がふえたのよ。小さい順に、リミュ、キト、ケントよ。ケントはちょっと大きすぎるけど、苛めないで上げて頂戴ね。」


周りの子供達から、見上げられて益々萎縮する俺。どうしていいか判らず、「マッ」とジャイ○○トロボ的なアクションを繰り出してみた。ビクッと反応して、目をそらす子供達。コミュ障強制力はこんな使い方も出来るんだな。自分のコンプレックスに少し向き合えた気がした。


「はい!じゃぁみんなぁー前向いて-。今日はね、新しいお友達が三人いるので恒例のお話をするわよー。何度聞いてもね。理解を深めることが魔法力を高めることにも繋がるので無駄じゃないのよー。魔法はね、一言で言うと世界と自分の向き合い方を整える。って事なの。子供には何言ってるか難しいわよねー。判らないところは聞き流して頂戴ね。はい。あなたたち。この世界があって、今この町のこの場所に貴方たちがいる。このことを不思議に感じたことのあるひとー?はい。新入り三人は何言ってんだこいつ?って顔してるわねー。手を下ろしていいわよー。いい?これは早い子供だと4歳ぐらいから考える様になるらしいんだけど。何故自分がこの家の子供なのか?何故自分の父母はこの人達なのか。何故この場所なのか?何故今なのか?この時代なのか。何故この名前なのか。何故違う場所、違う時代、違う名前、違う親、違う家、違う好き嫌いじゃなかったのか?そういう事をね子供は考える様になるってことよ。で、それらが全て偶然だと思ったら大間違い。全ては決まっているの。司るものが決めているのよ。そのことを心の底から理解する事。私たちのいる世界の他にも別の世界があって人々や動物草花たちが生きていると言う事。そして、その世界では普通に魔法を使っている人々が居るって言う事。そして、その世界が私たちの世界を作ったときに、魔法という仕組みもこの世界に組み入れたと言う事を知る事。この世界には三割位の人が全く魔法が使えないの。それさえも、あちらの世界が納得ずくでそういう設定にしたのよ。その歪みがこの世界の流れにどういう影響を与えるかを試したかったのだと思うわー。この世界には殆どイレギュラーは存在せず、全てが納得ずく設定ありきで存在してる。そういう事を心の底から理解しなさい。それが魔法を使う第一歩なのよ。ケント。貴方はイレギュラーな存在よね。大した影響は無いと思うけどね。ほーっほほほほ」


相変わらず、とことんしゃべり倒す人だなぁ。と感心した。そして魔導教師だけあって、俺と司るものとの関係もある程度知ってるんだな。と少し感心した。


「いいわねー。今先生が言った話を良く考えながら、この世界の成り立ちを想像して理解を深めていくのよ。全員でそれを15分間続けます。はい!いいー?よーく考えるのよ-。想像するのよー。この世界の人々は司るものが作りました。だから、司るものの人々の資質を受け継いでるのよー。この世界には、火、水、雷、植物、土、金属様々なものが存在するわよねー。それらのものを、司るものの人々は心で扱う事が出来るの。そういう回路が備わっているのよ。その資質を受け継いだ私たちにも、そういう回路が心にあるの。それを想像して心の中で形を作ってみて-。簡単だから火を想像してみてね。みぞおちの辺りで火を周りから集めてくる感じをイメージするのよー。出来てる子は、みぞおちの辺りが暖かくなってきてるはずよー。ほわぁっとなってきたのを感じるかしらー?そうそう、上手いわー。みんなのみぞおちの辺りに熱が集まってきてるのが先生にも見えるわー。そうそう上手よー。上手じょうずー。あらぁ。あらあらあら。貴方規格外よ-。とてつもない才能があるわねー。貴方は気をつけないと行けないわー。リミュちゃん、貴方は魔法の安全な扱い方をより厳しく教える必要があるようねー。」


なんとなくそうした方が良いかなと思い、黙祷しながらイメージを深めていた俺は、先生の話を聞いて考え込んでしまった。うーむ。お祖母さんの見立て通り、リミュはちょっと危険な様だ。家に帰ってからもう一度厳しく言って聞かせないと。俺は日本の現代社会で育ってきたので、魔法なんて全く想像上のものとして疑う事もなかった。しかし、司るものとの出会いから、転生を経て数々の不思議な体験をしてきた為か、全く抵抗なく先生の話は心に入ってきた。気づくと俺のみぞおち辺りにもポワーッと熱が集まってきてる気がする。ひょっとするとこれが魔法なのかな?これに磨きを掛けて発酵研究を深めたいな。まさか異世界で魔法使いデビューできるなんて。なんか良い事ばかり起こるなぁ。この世界。ワクワクする気持ちを噛みしめながら俺は瞑想を続けた。



幸い、俺にもキトにも微力ながら魔法が使える様だ。日々の精進である程度魔法力も精度も上げられるそうで、訓練方法を先生に教わる。最初こそ理屈っぽい授業内容だったが、その後はコップの水を冷やしたり温めたり、水晶を光らせたりといった練習になった。お昼にその日の授業は終わりだった。女磨きに忙しいので、授業は短時間しか行わないらしい。帰り際に先生を呼び止めて少し話した。


「ところで先生はお名前をなんていうのですか?」

「あらぁ。あらあらあらあら。もう私に興味持っちゃったのー?もー。け・だ・も・の。でも私嫌いじゃないわぁそういうの。貴方私のどこに惹かれちゃったのかしらぁ?」

「あいや、いやいやいや、そうじゃないです。先生の事はとても尊敬していますが、恋心は無いって言うかー。」

「あらー残念ねー。でも自分の気持ちに気がついたら、いつでもいらっしゃい。私の心のドアは開きっぱなしで待ってるわよ。うふ。私の事はね、ムアって呼んでちょうだいな。よろしくね」

「判りましたムア先生。それで、さっきの話で気になったんですが、リミュの魔力が桁違いで危険だと?」

「そうよ!そうなのよー。うっかりしてたわ!ごめんなさいねー。いやーねー私ったら。リミュちゃんは、あのタミュエラ導師のお孫さんなのよね?あのお方のお孫さんならうなずける話なんだけれども、それでも想像を絶するレベルだわ。多分。貴方一度、広い場所でリミュの魔法を確かめてみて。必要に応じて厳しく指導しないと人が危険というより、集落が危険。と言うレベルだと思うわ。なるべく早く確認して上げてね。必ずよ」


先生の表情から、かなーりヤバそうな気配を感じ取った俺は、急いで家路についた。リミュに尋ねると、我が家の裏の森を抜けたところに、広場があって山がある。というので、そこまで行き俺はリミュに言った。


「リミュ。お前の魔法はとても力が強いらしい。危ないから確認してくれとムア先生に言われたんだ。このバケツの水をリミュの魔法でお湯にしてみてくれ。できる限り強い力を出してみてくれ」


危ないので50メートルほど先にバケツを置いてみた。魔法はバケツの方に向けて撃つ事、他の方向には危ないから撃ってはダメだと強く注意した。リミュは自分なりの構えを模索していたが、急に振り向いて俺に尋ねてきた。


「あのな。思いっきりやって良いのか?」

「あぁ、いいぞ。思いっきりやれ」

「ほんとにいいのか?本気でやって良いのか?」

「もちろんだ。本気でやってみろ」

「うん。わかった。よーし、行くぞー。リミュの超本気なー! ぬぉーーーーーーーーふんす!」


直後にバンッという乾いた破裂音と青白い閃光。続いて焦げた様な匂い。リミュの前には幅2メートルぐらいで一直線、山に向かって煙が立ち上っている。バケツも中の水も跡形もなく消し飛び、山肌に小型トラックを格納出来るほどの大きな穴が穿たれていた。ムア先生の想像を絶するレベルというのがやっと理解出来た。とてつもない威力だ。お祖母さんの『世界が大変な事になる』というのもうなずけた。これはマジでヤバイやつだ。キトも尻餅をついたまま固まっている。


「わはははははは。わはははははははは」


片足を小岩に乗せて、腕組みをしてどや顔で高らかに笑うリミュ。自分が世界征服も可能な兵器だと理解したかのような笑いだ。


「リミュ!笑ってる場合か!お前の魔法はとてつもない威力だ!考えてみろ、この魔法が俺やキトに当たってたらどうなってた?」


いきなりの俺の怒声にビクッとしたリミュはこちらを振り向いて答えた。


「死んでた?」

「そうだ。確実に死んだだろう。リミュは自分の身の回りの人がいなくなっても良いのか?」

「いや。いやだ。いやなのな。わぁーーーーーーーー!、ば、ばあちゃんがいなくなったのもいやだったのなー!わーんあーーーーあーーーー」


お祖母さんが消えてしまった事を思い出したのか、火がついた様に泣き出した。


「そうだろ?一つ間違えたら大変な事になるんだ。魔法が強いのはリミュのせいじゃない。リミュは全然悪くないんだ。これからは、周りを傷つけない魔法の使い方の練習をしような。俺ももう、周りの人間を失いたくは無いんだ。頑張って練習をしよう。な?」


俺はリミュを優しく抱き寄せて、背中をポンポンと叩いて慰めてやった。

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