第14話 初めての家族会議

「はい。あつまってー!これより、家族会議を始めます」


俺の呼びかけになんだなんだと、隣の部屋からリミュとキトが出てきて、キョロキョロ辺りを見渡してからテーブルに着いた。


「なんなー?カイギってなんだ?」

「会議というのは、家族で話し合って大事なことを決める。と言うことです」

「おぉー。そうなのなー。リミュはな。カイギは初めてなので旨く出来ないかも知れないけど、がんばるのなっ」


両手でテーブルをバァーンと叩くリミュ。キトも昂ぶっているらしく、鼻の穴が少し開き気味だ。


「俺たち三人は、もしかしたら魔法が使えるかも知れません。なので!今日から町の魔法塾へ行ったらどうかと俺は思いました!」

「ふぉぉぉぉぉ。まじかー。まじなのか?」

「わははっははははは!ばあちゃんがな!あんたに魔法を教えたら世界が大変なことになる。って言ってた!リミュはやるぞー。がんばるぞぉっ!」


興奮のるつぼに落ちる子供達。リミュの言葉を聞いて、ヤバイ早まったなぁ!と思ったがもう遅い。ここは厳重注意をしないとなるまい。家長として。


「いいかお前達。お前達はまだ子供だ。だから色んな事が判断出来ない。何をどうしたらどうなる。と言うことがよく判らない。それは判るな?」


それぞれの瞳をのぞき込む様に諭す俺。


「わかる!わかるのなぁ、それ。リミュもな!知らない犬が吠えてたから、教えてやろうと思って頭を叩いてやったのな。そしたら、その犬はリミュを噛んだのな-。仲良くなった犬じゃないと、怒ると噛むこともあるってばあちゃん言ってたのな。そういう困った問題に子供はよくあうってことな。こまった問題だよなー」


やれやれとドヤ顔で語るリミュをみて、心底やっちまったと思う俺。しかし後に引けない。


「リミュ。その犬の件な、たまたま痛いだけで済んだかも知れない。でもな、その犬が大きくて強い犬だったら、沢山血が出て傷痕がずっと残ったかも知れないんだぞ?万が一、神経を傷つけてたら噛まれたところが動かなくなったりすることもあるんだ。だから、そう言うことが身につくまでは、なるべく危ないことはしてはいけないんだ。それでな。才能によると言うんだが、魔法が使えた場合、大きな力を身につけるかも知れないんだ。だから一層危ないことは起こってしまうかも知れない。例えばリミュが魔法を間違えて使って、キトが死んじゃったらどうだ?」

「キトが死ぬ?キトはそんな弱いのか?すぐ死ぬのか?」


少し深刻そうな顔をするリミュ。ここは一気にたたみかけるぞ。


「いや、例えばの話だ。例えばお前達が魔法を使えたとして、火を出す魔法はみんな使うだろ?でも上手く慎重に使わないと、間違えてベッドに火がついたらどうなる?あっという間に火は大きくなってこの家は燃えてしまう。そしたら、俺たちは明日からどこに住む?誰でも使える小さい魔法でも、使い方を間違えるととても危険だと言うことが判るか?」


二人とも少し理解が深まった様で、じっとこちらを見ながら話に集中している。


「だから、どんなに小さな魔法でも、俺の見ていないところで使うのは禁止だ。13歳までは一人で魔法を使わない。約束出来るか?キトは今日からあと三年。リミュは今日からあと八年。俺が良いと言うまで、一人で魔法を使わない。もし約束を破ったら、一生魔法を使ってはダメだ。そう言う厳しい約束だ。守れるか?守れなかったら塾は無しだ。」


真剣な瞳でコクコクとうなずく子供達。取りあえずは大丈夫そうだ。折を見ながら指導していこう。


「よし。それじゃ三人で朝ご飯を食べたら町まで出掛けるぞ」


俺は朝飯の準備に取りかかった。



昨日頭領に教えて貰った家の前に三人で到着した。分厚い板を四枚並べて作った無骨なドアに取り付けられた、ネコの尻尾を象った洒落たドアノックハンドルを使って三回ノックした。


「はぁーい。どなたぁー?」


と言う少しかすれ気味の甲高い声がしたのだが、なぜかみぞおちにズンと響く声だった。ギィーと音を立てて分厚いドアが開かれると、え?もう一枚ドア?と勘違いするほどの、堂々とした量感を伴った巨体が立ちはだかっていた。俺も、キトもリミュも口を半開きにして見上げる格好だ。


「あらぁ?あらあらあらあら。貴方あれよねぇ?ゴード工房の頭領の紹介で来た方よね?見た目はパッとしないけど、あなた心に影を飼ってるのねぇ。可愛いじゃないのぉ。嫌いじゃないわよぉ、貴方みたいな、お・と・こ。仲良くしてね。」


この人のコートがあったら、俺が楽勝で二人は隠れられそうだ。いや、ひょっとすると三人行けるかも知れない。身長も2メートルぐらいありそうだ。しかし、この世界にもオネエさんがいるんだなぁ。感心しながらも、俺は尋ねた。


「魔法塾の先生をなさっているのは、貴方ですか?」

「そうよぉ。私以外に誰が居るって言うのよぉ。やーねー。私みたいな繊細でセンシティブな女じゃないと導けないのよぉ。魔法の世界にはね。私に任せなさいな。でもね、あたし今から爪のお手入れをしないといけないのよぉ。休みの日は忙しいの。お・ん・な・み・が・きに。貴方たち、三人が私の塾に入りたいのよね?明日いらしてくださらない?朝の九時からよ。遅刻しちゃダメよ。早すぎてもダメよ。わかった?じゃぁ、またね。気をつけて帰るのよ。んば!」


破壊力のある投げキッスを残してドアは閉められた。殆ど一方的にしゃべってたなぁ。子供達を見ると、キトは半開きの口が締まらないまま硬直してるし、リミュは少し顔が青ざめている。リミュにしたら衝撃的な体験だっただろう。リミュを抱き上げると、背中をポンポンと優しく叩きながら、大丈夫だぞ、怖い人じゃないんだぞ。と俺は言ってみた。

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