第7話 塩胡椒で焼いた肉なんて美味いに決まってる

家に着いて大急ぎで湯を沸かす。(この世界の住人は全ての人間が魔力を持っているわけでは無いらしい。リナも持っていないと言っていた。お祖母さんは魔力で着火出来たので、この家には用意されていなかっただけだった。市場でマッチは普通に売っていた。)垢まみれのキトは石けんの泡もなかなか立たないぐらいだった。2度も洗ってやっと綺麗になったキトを浴槽に放り込む。ついでだとリミュも一緒に放り込んだ。


「いいか、キト。お前は兄貴なんだからちゃんとリミュの面倒を見るんだ。それがお前の一番大事な仕事だ。わかったな?」


キトに言い含めてすぐに俺は仕事部屋に入った。薬研を使って胡椒を砕く。道具はどこの世界でも形は似るな。細かくなるにつれて、胡椒の香りが立ち食欲を刺激された。これまた子供の頃、理科の実験で使ったようなのとそっくりな天秤ばかりを使って2%、3%、7%の割合で塩と混ぜたものを作った。ネット情報だと塩100グラムに対して胡椒が10グラムぐらいの比率で作るようだったが、この世界の人々は香辛料になれてない。胡椒少なめで試食をすることにした。かまど掛けた金網で牛の薄切り肉を焼く。炭火に炙られた赤身肉からじわりと脂が滲み香ばしい煙を立てる。軽く火を通して塩胡椒を振る。脂に塩が馴染んだ頃合いで皿に取る。三種類の配合で三皿に分けて焼いた肉を並べていたら、


「なんなのだー!いい匂いがするのな!何の匂いなのな-?」


リミュの叫び声に続いて、


「りみゅ、りみゅ!びしょびしょだから!床が濡れちゃうから!」


と兄貴面が板についてきてタオルを持って追いかけるキトの声だ。リミュは脇目も振らず俺の所まで走ってくると、俺の両脇腹をガッシと掴んでキラキラした目で見上げながら聞いてきた。


「なんな?なんな!この匂い!リミュは食べたいのな!」

「風邪を引くから、キトに身体をちゃんと拭いて貰え。服を着たら食べさせてやる。」


少し考えこむ表情をしたリミュだが、大人しく従った方がいいと判断したのか、


「わかった。すぐに服着るからな!キト急いで拭けな!」


どちらかというと、リミュにとってキトは兄貴じゃなくて下僕なんだろう。

とととととと、寝室から服を着たリミュが掛けだしてくる。子供はいつでも走ってるもんだな。歩いているリミュは余り見た記憶が無い。服を着たから早く早くとせがむリミュの口に一枚牛肉を放り込んでやる。


「ほわわわぁ。」


少し咀嚼してもう一度、


「ほわわわわわぁ。」


瞳を潤ませながら、咀嚼して呑み込むリミュ。


「なんなのだー!なんなのかこれは?肉か?肉なのか?」


興奮で紅潮した顔で尋ねるリミュ。遅れてきたキトも肉を食べて悶絶している。


「これはただの肉だ。ただの肉に、塩と胡椒というものを掛けただけのものだ。どうだ旨いか?」

「うまいぃぃぃぃ」


泣いてる?泣いてるのか?リミュもキトもうっすら涙ぐみながら、声を合わせて答えた。


「そうか。じゃ、この7%の方も食べてみてくれ。」


7%のを食べさせると、口の中が痛いという答え。やっぱ子供には強すぎたか。よし決めた。5%ので発売しよう。3%の方が無難なのは重々承知だが、インパクトが強く印象に残った方が得策と考えた。あのコーラだって日本上陸してしばらくの間は、薬臭いと最初は見向きもされなかったそうだ。心理学でも第一印象が悪かった相手ほど、受け入れると深い親しみを感じると言うしな。いずれにしても、ここにはない日本の食文化関連だけでも大量にネタがある。一度や二度、大外れしても弾は無尽蔵だ。派手に撃ちまくってやろうじゃないか。司ってるお姉さんも楽しんでくれと言ってたしな。こんなワクワクする楽しい気持ちを感じるのは久しぶりだと俺は思った。

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