第17話 水上都市イース
森を出てからおよそ四時間。そろそろ陽が沈み始めている。
朱雀隊一行とハル、そしてロゼを乗せた牛車がついに草原の丘を登り切った。
「着いたぞ、降りろ」
「あれ、街の中までこれに乗っていかないのか?」
ハルはてっきり街の宿屋のような場所までこの牛車で移動するものだと思っていたため、少し驚いた。
「降りたらわかる」
「おん?」
ハルは多少渋るが仕方なく牛車の寝台から降りた。その後ろをロゼがついて降りる。
「よっこらせっと。……お、わぁ……、な、なんだここ……!!」
降りてすぐハルは丘の上から見下ろした風景に言葉をのむ。
丘の下に広がるのは、無数の運河が行き交った水に浮かぶ巨大な街。運河沿いに連なる無数の建物はその地盤こそ水面下で見えないが、色とりどりの壁や屋根でその存在感を大きく示している。奥のほうまで目を凝らすと、家屋以外にも黒い壁に囲われた巨大な宮殿のような建物も見える。
「すっげぇ……。川だ!川が流れてるぞ!街の中に!」
「美しすぎます!あ、ハルさんあそこ、船も見えます!」
「え、どこ?! ほんとだ!船が動いてる!」
「あの奥の黒い建物って何ですかね?」
「ん?宮殿か?めちゃくちゃかっけえな!」
ハルとロゼは初めて見る街の景観に心を奪われ、二人で盛り上がり始めた。
「どうだ、驚いたろう」
エレンは満足げな顔で二人のそばに寄ってきた。
「ここは水上都市イースと呼ばれる我々
「おお、船乗るのか!」
「おしゃれです!」
二人は歓喜の声を上げてエレンと朱雀隊のメンバーの後を追って街の船着き場へと向かった。
______
船着き場にある木製の綺麗な船は思った以上に丈夫で大きく、一隻で十五人も乗ることができた。
「船から落ちたら置いて行くからな」
船の最前方にどかっと座ったエレンがハルとロゼに告げた。
「いや、さすがにそこまで間抜けじゃねぇよ」
ハルは周りの朱雀隊のメンバーがにやにや笑っているのが怪しかったが、別に気にしなかった。
「久々のイースだからって舞い上がって振り落とされるなよ貴様ら!出航だ!」
「「「おおおおおぉぉぉぉ!」」」
がこん、と桟橋に繋ぎ止めていた縄が外れ、船が動き出した。
と同時に、水流に乗った船がかなりの速度で運河を加速し始める。
「この船、運転する人いないの?」
ロゼはふと疑問に思い近くの隊員に尋ねた。
「あー、水の流れの関係で勝手に動くんだ。イースの全ての運河の行先は一つだからな。あと、しっかり捕まっといたほうがいいぞ」
「……え?」
きょとんとするロゼは次の瞬間、突如前に傾いた船によってバランスを崩した。
「きゃああああ!」
「な、なんだこれええ!」
ロゼとハルはとてつもない速さで加速し始めた船に驚き声を上げた。丘の上から見たときは分からなかったが、イースの運河はその急な勾配のせいで異常なほどの水流の速度で有名だった。
「おいおいおい!速すぎだろ!」
「止めてええぇぇ!」
運河初体験の二人は船体に必死にしがみつき目を
「お!朱雀隊だ!」
「朱雀隊が帰ったぞー!」
「おかえりなさいエレン隊長!」
ハルがちらりと目を開けると、運河の頭上を架ける橋や両脇の家々からたくさんの街の人間が出迎えていた。
「みんな、元気そうだな」
エレンは笑顔で街の人々に手を振り返す、が。
「なんかすごい歓迎されてるけど!それどころじゃねえ!」
「止めてええぇぇぇ!」
歓迎ムードの街の人々の間を圧倒的速さで駆け抜ける船のせいで、ハルとロゼの二人だけはそんな余裕はなく必死にしがみついていた。
「はっはっは、こっからもっと速くなるぞー!踏ん張れー!」
二人の様子を見ていた船の後方に座る隊員の一人が、笑いながらエールを送った。
「うおおぉぉぉーーーーー!」
「いやぁぁぁぁぁぁーーー!」
流れに乗ってどんどん加速していく船の上で、到着地点まで二人の叫び声が延々と響き続けた。
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