第12話 ロゼという少女



「匿っているだと?」

「なんのために?」


 レンフレッドは同時に二人から質問が来て少し困った顔を見せるが、それでも落ち着いて続きを話す。

「ロゼという紫髪の十歳くらいの少女です。なぜたった一人で人間たちと暮らしているのか分からない。だが、彼女がこの森でなにかしらの特別な役割を果たしているのは間違いありません」

 そう言いながらレンフレッドは前方を指さして森の出口に向かって再び歩き始めた。


「レンフレッド、その子を直接見たのか?」

「見たもなにも……、その……」

「どうした」


 ハルとエレンはレンフレッドの背中しか見えないが、それでも彼が肩をわなわな震わせているのが分かった。


「僕ら偵察隊がここの人間に移住の話を持ち掛けた時、なぜかそのロゼという女の子のところに連れていかれたんです……。そしたらいきなりその子に攻撃され……」

「おいおい冗談はよせ。まさかそんな小娘一人にやられたとか」

「冗談ではありません。僕ら十名の偵察隊はその子によって壊滅しました……」

 固く握り締められたレンフレッドの両手から、相当な辛さだったと分かる。


「まじか……」

 ハルは何か言葉を探すが見つからない。


「そうか。では、ほかの九人は死んだのか?」

「いえ、その女の子は周りの人間に対し、絶対に殺すなと言っていたので、おそらくそれはないかと……」

レンフレッドは自分に責任を感じているのか、どんどん暗くなっていく。

「ならまだ間に合う。外で待つ本隊の奴らと合流してすぐに奪還しに行くぞ」

 そう言ってからエレンは俯くレンフレッドの背中を強めに蹴っ飛ばした。


「へこたれてんじゃねぇレンフレッド!貴様がそんなんでどうする。男ならドンと胸を張れ!」


 豪快に蹴飛ばされたレンフレッドは喝を入れるエレンを見上げる。きれいな赤い髪が風に揺られ、凛とたたずむその姿に隊長の風格が溢れ出る。横にいるハルもその美しさについ見惚れる。


「立て。貴様にはまだやるべきことがあるだろう」

 エレンのその言葉に奮い立たされたレンフレッドは起き上がり深呼吸する。


「申し訳ありませんでした隊長。では、ここから本隊の待機場所までは猛ダッシュで向かいますので、はぐれないようにお願いします!」


「やっといつものレンフレッドになったか」

「おおぉ、元気出てきてキャラ変わってじゃん」


 三人は互いに微笑みあった後、森の中を風のように駆け抜けた。




「……なぁ出口まだかよ!今日めっちゃ走ってるんだけど!」

「知るか!黙って走れ!」

「お前に聞いてねぇよ!」

「なんだと、焼き殺すぞ!」

「意味わかんねぇよ!」

「……お二人とも、もうすぐ出口です!」

「おぉ!」

「やったぜ!」



 木々の間からこぼれる陽の光が森の終わりを告げる。森の中が暗かったから忘れていたが今はまだ昼過ぎだった。眩い光のほうへ向かって三人はひたすらに駆け抜ける。



 バサッ。

 ついに三人は森を抜けた。すぐそこに並んで止まってある五台の牛車を見て戻ってきた実感が沸く。が、しかし牛車のそばで待っているはずの朱雀隊の隊員が誰一人いない。ハルの心に嫌な予感が走ったその時、




「……あっ来た来た!結構遅かったね!迷ってたの?」



 果てしなく広がる草原を背にし、紫色の髪を肩のあたりで巻いたまるで小動物のように愛くるしい顔立ちの女の子が少し離れた場所に一人で立っていた。


「おいあれって……」

「あれがさっきの……」

 エレンとハルは一歩前に立ち尽くすレンフレッドのほうを見る。


「……あの子です。あの子が、ロゼです」


 そのレンフレッドの声は驚くほどに震えていた。

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