第11話 閉ざされた森の秘密



 木の上の弓兵たちから逃げ回る最中、突如現れた男によってかなり先まで濃い煙で囲まれたハルとエレン。



「……おや、君は?」

 親しみやすい雰囲気でレンフレッドがハルに尋ねる。

「そいつがニップルで拾った伝導者。名前はハル。てか知ってて聞いてるだろ」

 なぜか本人が答えるより先に横にいたエレンが答えた。


「へぇ。ハル、どうせ隊長から何も聞かされずに連れまわされてここまで来たんでしょ?」

 レンフレッドは少し笑いながらハルのほうをまじまじと見る。


「そうなんだ、さっきからこの人何にも教えてくれないんだ」

「おい貴様、燃やすぞ」

「まぁまぁまぁ。僕でよければ色々教えてあげるよ」

 見た目ではそんなに歳も変わらないのに、口の悪いエレンを軽くたしなめるレンフレッドがとてもかっこよく見えた。


「レンフレッド、そんなのはあとでいい。もともと我々本隊はこのファルツ樹林には入らない予定だったんだ。それがハルを拾って森の外の合流地点に来てみれば隊員一人も姿が見えない。仕方なく入ってみると突然人間から襲われる。この森で一体何があった?」


 あ、この森そんな名前なのな……。確かにレンフレッドが助けてくれたとはいえ、今三人が置かれている状況は決して安心できるものではない。


「申し訳ございませんでした。この煙が晴れるとまずいので、話は森の出口へ向かいながらにしましょう。木の幹に目印を残してありますので」


 目印……。さすがすぎる……。

 ハルはレンフレッドの用意周到さに感銘を受けながら煙の中をその背中についていった。



「では状況を簡単に説明します。ハルもよく聞いてておくれ。僕らは二週間前ランスローズ様の命令で、ここで暮らす人間たちに王の右腕アガートラム管轄地への移住を提案しにやってきた。隊長、なぜだか覚えていますか?」

「あぁ、ここにいる人間たちが外部との接触を避けていたからだ」


 エレンは歩きながら即座に答えるが、ハルはその理由が全く分からない。

「え、なんで?」


 しかしその質問を受けたレンフレッドが目を丸くする。

「あれ、隊長、まさか何も教えてないんですか?」

「バカと話しているとイライラするからな」


 エレンの言葉にレンフレッドは呆れつつも優しく背景から語り始める。

「やれやれ。今この国の魔法使いと人間は少し仲が悪いんだ。多くの魔法使いは別のとある街にまとまって住んでいるんだけど、僕らみたいなはぐれ者も多少いてね。で、ここの人たちもそのはぐれ魔法使いを恐れて引きこもっている、と推測していた」


「なんだよそれ、かわいそうじゃんか」

「そうだね。だから僕ら朱雀隊が派遣されて、話を聞いてもらって助けようと思った。……でも実際はそうじゃなかった。僕らは大きな勘違いをしていた」


「どういうこと?」

「何があった?」

 ハルだけでなくエレンもその言葉の続きをうかがう。


「まず偵察で得た情報から言うと、この森にはおそらく三百人ほどの人間が暮らしています。彼らは完全に森の外との交易路を遮断し、自給自足の生活を送っている。この国において、人間だけの集落としてはかなり大きいほうです。だからこそいくら良心的とはいえ、魔法使いの介入を厄介に扱うだろうということは分かっていました」


「あぁ。だから王の右腕アガートラムで最も頭が切れて交渉が得意なお前がこの役目を言い渡されたんだろ」


 あ、やっぱ頭いいんだこの人……。

「じゃあやっぱりその交渉がうまくいかなかったのは、魔法使いのことを嫌っているから?」

 ハルの質問にレンフレッドの顔が暗く歪むのが見てとれた。


「いや。これは僕も三日前に分かったことなんだが……」

「どうした、歩き続けろ。追いつかれるぞ」

いきなり立ち止まったレンフレッドは深い深呼吸をして話し続ける。


「ここの人間たちは、森の外の魔法使いを避けるために引きこもっていたのではなかったんです」


「ん?じゃあなんで俺たちはこんな目に合ってんだ?」

「私も全く分からん。なぜだ?」

 二人の疑問を晴らすべく、レンフレッドは落ち着いて答えた。




「……彼らはこの森の中で、ある幼い魔法使いをかくまっていました」




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