第7話 ギルとラーマ


「雪山での発見が遅れてしまい誠に申し訳ございませんでした!」

 銀甲冑の男は部屋に入って来て早々、鈴菜に深々と頭を下げる。

「い、いえ、こちらこそありがとうございました」


「スズ、この人切れたら怖いから気をつけろよ」

「えぇ……」

「ギル殿、やめてください」

「ふはは、冗談だ。ラーマ、とりあえず自己紹介してやれ」


 ラーマは頷くとスズのほうを見て再び頭を下げた。

「スズ殿、お初にお目にかかります。王の右腕アガートラム

 青龍隊隊長、シャルル=ド=ラーマと申します。ラーマとお呼びください」


「は、初めましてラーマさん。頭を上げてください」

「ラーマで結構でございます」

「あ、はい」

「かたいなぁラーマ」

 ギルの声でラーマはやっと顔を上げる。


「誠に勝手ではございますが、これより以後は我々と行動を共にしていただきたいと思っております」

「あの、王の右腕アガートラムというのは?」

「簡単に申しますと、亡きアーサー王の遺志を継ぐ者たちの集まりでございます」


 鈴菜は首を傾げる。

「ラーマ、それだと言葉足らずすぎるだろ」

「し、しかし……」

「もういい、俺が話す。そこで立っておけ」


 ラーマはしぶしぶ一歩後ろへ下がり、ギルに頭を下げた。


「スズ、まずこの国、アレフルーム王国というんだが、ここには普通の人間と、そうではない人間がいる」

「そうではない人間?」

「彼らは魔法使いとか魔術師と呼ばれている」

「……魔法?」



「まぁ最初は軽く流しながら聞いてくれ。で、その魔法使いと人間は昔は協力し合っていたんだが、少し前の時代、ある事件がきっかけでとても険悪な関係になってしまった」

「……何があったんですか?」

 鈴菜がゴクリと唾をのむ。


「魔法使いが人間を片っ端から虐殺していったんだ」

「な……」

「しかし悲劇はまだ終わらなかった。それから二十年が経って、今度は人間が魔法使いを虐殺していった。人間には魔法は使えないが、圧倒的に数が多かったからな。その報復の戦争が終わり、生き残った魔法使いは百人程度にまで減ってしまった。この国の人口がおよそ十万人だから、魔法使いは相当生きづらくなっただろう」


「その戦争の後から人間と魔法使いは互いに干渉せず、住む場所もきっちり分けるようになった。要するに冷戦状態だ。現在魔法使いたちはレフルーム王国の首都、キャメロットという城塞都市のみに暮らしている」


 魔法使いのほうが少ないのに首都に住んでるんだ……

 鈴菜は少し疑問に思ったが、ギルの話はまだ続く。


「で、その時この国の救世主として異世界から現れたのが、この俺だ。ちょうど二年前になるな」

 ギルはそう言いながら立ち上がりラーマの横まで歩いていく。


「その時の俺はこの国の問題を根本から解決してやろうと必死に奔走した。こいつもそうだが、俺の意思を理解してくれて魔法使いと人間の共存を認める奴らもかなり増えた。だがしかし、それでも結局俺にはこの国を変えることはできなかった。俺は失敗したんだ」

 そのギルの言葉に横のラーマが大きく驚く。

「失敗などではありません!我々はギル殿のおかげでこの二年間……」

「うるせえ、前にも言っただろうが。いつまでも過去の人間に頼ってんじぇねぇ。新しい伝導者がやってきたんだ。その意味をよく考えろ」

「も、申し訳ございません……」


 うなだれるラーマを見て鈴菜は不思議に思った。これだけカリスマ性のありそうなギルさんならまだこれからでも国を変えることだってできそうなのに……


「スズ、ここに来る前に理想郷を作れとか言われただろ?」

「あ、言われました。マリっていうちっちゃい男の子に」

「男の子?まぁおそらくそいつはマーリンで間違いない。二年前、俺も同じことを言われたからな」

「……そうだったんですか」


 ギルはラーマのそばを離れ、鈴菜のベッドに向かってきた。

「二週間前、マーリンがここにやってきた。そこで俺は自分が使命を達成できなかったと告げられた。そして近いうちにスズが現れることも聞いた。だからあの夜、雪山で青龍隊のメンバーがスズを助けたことは偶然でも何でもない。俺たちに恩を感じる必要もない。スズが自分の目でこの世界を見て回り、自分なりの答えを見つけるんだ。それはきっとこの国のためになる」

「わ、私なんかが……、でも……」


 ぽんっ。

 うろたえるスズの頭にギルは右手を優しくのせて告げた。

「大丈夫。せばたいてい何とかなる。ありのままのスズでいれば大丈夫だ」


 ギルはそう言って微笑みながら鈴菜の髪の毛をくしゃっとした。

「あ、ありがとうございます」

 鈴菜は少しきゅんとして顔を赤らめたが、ギルの心の内側から聞こえる声を聞き逃さなかった。



 スズ……、俺の死に場所はお前に捧げる。お前は精一杯生きるんだ。


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