chapter2.鈴菜編
第6話 鈴菜の物語
寒い……、誰か……、春馬、瑛太……。
手足の感覚がない。おそらく時間帯は夜だろう。どちらを向いても果てしなく降り積もった雪しかない。そのうえ風が強く吹き荒れ、吹雪が舞う。
もう歩く体力も残っておらず、足を取られながら何時間も暗い雪山をさまよい続けた挙句、鈴菜はその場にどさりと倒れこむ。雪に触れた左頬が寒さに痛むが体が思うように動かない。鈴菜は吹き荒れる雪の中で自分の命の最期を悟った。
春馬、瑛太、ごめんね。元気でね……。
鈴菜はそう願いながら、そっと目を閉じた刹那、
「……いたぞ!こっちだ!倒れている!急げ!」
どこからか声が聞こえた。助けが来たんだ、と本能で悟った。が、しかし鈴菜はそこで意識を失った。
________
「……ろ。起きろ、女」
近くからささやく声に気づき、鈴菜は目を開けた。
「ん、んん……、わっ!」
あまりの顔の近さに無意識に飛びのく。
高級そうなふかふかのベッドの上で仰向けに横たわる自分のすぐ真上に、見ず知らずの男が顔を近づけて覗き込んでいたのだ。
「だ、だれ?!」
目元まで伸ばした金髪に高い鼻筋。端正な体格ではあるが、上半身が裸のためにその筋肉が際立って目立つ。左耳には大きな水色のピアスがぶら下がっている。
「やっと起きたか。命の恩人に向かって誰とは不敬だな」
上裸男は低めの声でそう告げてベッドの脇の椅子に腰かけた。
そうだった、私あそこで……
「あぁ、気にしなくていいぞ。あの日は特に吹雪がひどかった。本当ならもう少し早く見つけてやれたはずだ。すまなかったな」
「い、いえ、ありがとうございます」
ん、あの日?いったい私はどのくらいここで寝ていたんだろう……。
ふと部屋を見渡すと、このベッド以外にも壺や
ここはいったいどこなんだろう……。
鈴菜は目の前に広がる光景に眉を寄せるが全く理解が追い付かない。
「ほう、パニックにならないのか。さては頭の回転が速いタイプの女か、嫌いではない。まぁ今はもう少しゆっくりしておけ。後で話を聞く」
……本当は今すぐにでも聞き出したいことがたくさんあるがな。
男はその言葉は心の内にとどめて椅子から立ち上がった。
「あ、あの、話くらいなら今でも大丈夫ですよ……?」
「??」
「ご、ごめんなさい、今すぐのほうがいいのかと……」
「?? いや、すまん。今俺余計なことしゃべったか?」
「え、今すぐ聞き出したいことがある、って」
「……ちょっと待て、今それしゃべってないぞ」
「えっ」
「えっ」
つかの間の沈黙。
「……お前まさか、俺の考えてること読めるのか?」
「いやそんなわけは……」
「……」
またしても沈黙。
「あの……、餃子食べたいんですか?」
「やっぱり!」
男はまるで名探偵になったかのように堂々と鈴菜を指さすが、当の本人はこの状況に一番ついていけていない。
「頭の中に今食べたいものを思い浮かべただけで言い当てるとは驚いた」
「そ、その、自分でもよくわからないんですけど、何か声のようなものが聞こえてきて……」
「なるほど。ふははは、マーリンめ、面白い女を運んできやがったな。その変わった力についてはあとで教えてやる。実はその前にもっと話しておきたいことが色々あるんだが、もう体は平気か?」
「あ、はい、大丈夫です」
「さすがだ」
男はそう言って立ち上がり、鈴菜の寝ているベッドの足元に腰を下ろした。
「名前は?」
「白戸鈴菜です」
「じゃあスズ、だな。俺はギル」
ギルと名乗った上裸の金髪男は笑顔で右手を差し出す。
鈴菜は慌てて体を起こし、命の恩人と右手を合わせる。
「軽く自己紹介しておくと俺もお前と同じで、異世界から来た。長い付き合いになるだろうがよろしくな」
「こちらこそよろ……、え、えぇぇっ!」
驚く鈴菜の右手を握りしめながら、ギルはまた微笑むと、部屋のドアに向かって
声を上げた。
「ラーマ!もういいぞ、入れ!」
その声に呼応して大きな扉が開かれ、外の廊下から頭部以外の全身を銀色の
「失礼します。ギル殿、やはりその娘こそ我々の待ち望んだ伝導者でしたか」
ラーマと呼ばれた甲冑男は、そう言ってギルと鈴菜のほうに向かって一礼した。
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