chapter1.春馬編

第3話 春馬の物語



「……ん、頭いってぇ」

 春馬は目を覚まし起き上がる。


 え、どこだここは……


 見渡すとそこには見たこともない街の風景が広がっていた。地面はコンクリートで補整されているが、周りの建物はすべて煉瓦れんがで作られている。屋根の上には煙突もある家もあり、ここが春馬の知る現実世界ではないことは明らかだった。

 すでに日は沈んでおり、家々の中から光がこぼれる。そこまで大きな町ではなさそうだが、外を歩いている人影は見当たらない。


「お、俺、ほんとに異世界来たのか……?」


 春馬は今までの出来事を思い出す。

 あのマリっていうやつの話聞いてて、いきなり目の前真っ白になって、気が付いたらここに横になってて……、あ……、



 同じ目にあった二人のことを思い出し周りを見渡す。

「瑛太!鈴菜!どこだ!」



 いないのか……。うそだろ……、この後どこ行けばいいんだ?


 仲の良かった幼馴染の姿は見当たらず、春馬はとりあえず当てもなく街の中を歩き始めた。



 なんか誰かに見られてる気がする。怖いんですけど……。



 誰かの視線を感じつつも、歩いても歩いても誰にも会わず、途方に暮れかけていたその時、



「やめてくださいっ!お願いしますっ!」

 誰か男の叫び声が数軒先の明かりのついた建物の中から聞こえた。



 誰かいる!

 春馬は駆け足で声のするほうへ向かった。



「酒がねぇ訳ねぇだろ!じゃああの客どもが飲んでるのは何だおら!」

「ですから、先ほど店の在庫が切れたと言ってるじゃありませんか!」


 おいおいおい、おっさん同士の喧嘩かよ……。

 春馬は店の扉の前で、中から聞こえてくる声に戸惑っていると、


「でけぇ態度だなマスターよ!ちょっと来やがれ!」

「や、やめてください!」


 ギィィ。

 目の前の扉が開き、中から二人の男がでてきた。



 やばっ。

 春馬はとっさに巻き込まれないよう二人に背中を向けた。



「なぁマスター、この前も俺が来たとき酒がねえって追い返したよな?さすがにもう限界だわ。すまんなぁ」


 今にも何かが起こりそうな嫌な予感がして春馬は振り向く。


「ちょっと熱いけど我慢してなぁ」



 その時、殴りかかろうとした男の右手が赤い炎に包まれた。



「……え?」

 春馬はつい声が漏れるが、その男の赤く燃える拳はマスターと呼ばれた男の顔を勢いよく振りぬいた。



 殴られた酒場のマスターは少し後ろに吹っ飛びコンクリートの道路に打ち付けられる。

「あっつ……!」



 春馬が目を凝らすと、マスターの顔の左半分が大きなやけどを負っている。



 えぇぇ、なにこれ……。止めなきゃ……。



 炎を右手にまとった男はまだ物足りないのか、横たわるマスターに駆け寄り体の上にまたがった。


「調子に乗んなよ!人間風情が!」

 男は声を荒げながら再び右手を頭上に振りかざす。



 ヤバい。


 とっさに二人の元へ駆け出すが、もう遅い。

 春馬は間に合わないと悟り、大声で叫んだ。


「待て!やめろっ!」



 その時。


 ゴーーン。



 突然町中に低い鐘の音が響き渡った。



 え?


 春馬の目の前の取っ組み合っていた二人の男が動いていない。

 炎の男は口を開いて右手を振り上げたまま、マスターのほうはきつく目を閉じたまま、両者とも固まっている。



「……っは?え?どうした?」


 春馬も何が起こったか理解できず少しあたりを見回してからその場に固まるが、春馬自身は別に動けないわけではない。



「……まさかこれ、俺がやったの?」


 春馬はただただ目の前の固まった二人を見て呆然と立ち尽くした。



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