第五話 マリアのちから<後編>
「いい加減にしろ!!」
源内は大声を張り上げ、ちからいっぱいマリアの左手を振り払った。
「・・・あ・・・」
マリアが小さな声を発して宙を見上げた。
「左手ー!!!」
追って走リ出す。
「馬鹿!マリアっ!!!!!」
橋の
しかも
「うわわわわわーーーー!」
マリアのからだは
「マリア!!!」
駆けてきた源内は
* * *
しかも両国橋は94
葛飾北斎 「冨嶽三十六景色 御厩川岸 両國橋夕陽見」をググってみると・・・そんなかんじで超広い。
しかもマリアは
と、いうか。
マリアって泳げたんだっけ?
と、
あの高さから落ちたのだ。
気を失っていることも考えられる。
沈んでしまったらお
源内は
高松藩に伝わる
が、夕暮れが迫った川の中は暗く、何しろ広い。
マリアが見つからない。
と、頭上から一馬たちの声がした。
「先生っ!身投げなんて!!!???」
「そうだ源内さん!
死ぬなんぞお前さんらしくもない!!
見世物小屋を失ったって、まだ世の中捨てたものではないぞ!これまでだっていくらでもやり直してきたではないか!!」
源内は橋を見上げて
「馬鹿!!!!!マリアが落ちたのだ!!!
「ええええええ?!」
すると源内より下流の少し先に
マリアが『浮き』のようにヒョコンと顔を出した。
「ぷっはーーー。゜(゜ ゜∀゜)゜。」
頭の上には左手が髪飾りを
「マリア!!大丈夫か?」
「ヘーきヘーき・・・なんだけどー、手がないのと頭が重いし着物が水を吸ってブクブク・・・」
「い、今行く!!!!!」
* * *
源内は
「センセー!ありがと」
マリアはギュッと源内に抱きついた(手はないけれど)。
源内は巻き足(平泳ぎの足の動き)で方向転換。
流れに乗りながら
目の前にちょうど
そこは、橋の上からマリアが土左衛門を見つけた場所だった。
源内は心のなかで舌打ちした。
* * *
なんとか
中洲にごろりと寝かせると、土左衛門の背中は大きく
「マリア、こいつは殺しだ」
「コロシ?」
「この
しかも
この女、殺し屋に
土左衛門の女を
「そうなんだ・・・」
マリアは源内の
「センセ、アタシの左手、くっつけて」
「おいおい、こいつはもう・・・」
「ハヤクシテ!!」
源内はマリアの頭に引っかかっている左手をはずし、手首に差し込んでやった。
すると、差し込まれた手首の
マリアは土左衛門の脇に座った。
乱れた
マリアは左手をそっとその傷跡に当て目を閉じた。
源内は腰の
* * *
川舟に乗って一馬達がようやく駆けつけてきた。
「先生!大丈夫ですか!?」
「しっ!」
「あ・・・」
「しばし
「は、はい」
一馬が舟を中洲へつけると、うしろから玄白が身を乗り出してきた。
『これがお
玄白のつぶやきに源内は無言で
玄白は、かねてより源内から聞き及んでいたマリアの不思議なちからを、いつかこの目でみてみたいと思っていたのだ。
一同、しんと静まり返りマリアの様子を
マリアの手が優しい動きで土左衛門の胸のあたりを
何度かマリアの手が往復していくうちに、刀に突かれた傷がみるみる消滅していった。
「おお・・・!」
玄白は
「信じられん・・・」
真っ青だった土左衛門の肌にほんのり血の気が戻ってきた。
マリアはほっとひと息つくと、急に気が抜けたように脱力、土左衛門の女の上にぐにゃりと
「マリア!大丈夫か?」
すると、左手を宙に差し出してわけのわからないことを話し始めた。
「・・・この砂丘の先がオアシスだよ、あともう少し・・・でも砂嵐は・・・」
「はあ?何言ってんだマリア??しっかりしろ」
源内の声に、マリアの大きな瞳がパチリと開いた。
しかし、
「・・・シモン・・・」
「シ???なんだって??
おいマリア!!マリアっ!!」
源内が肩を揺すっているとやっと正気を取り戻したようで、
「あれ?センセ?? ココドコ?」
と言って今度は完全に眠り込んでしまった。
源内は覚悟を決めた顔つきに変わり、マリアを抱きかかえ立ち上がった。
「長屋へ帰るぞ。一馬、この女は連れて行く!」
「・・・!!はい!先生!!」
「源内さん、いいのかい?」
「
…この女、かなりのワケアリだ」
「なんと!?」
「引き上げた時にざっと
わかりやすいぜこりゃ、
ただの身投げじゃねえ」
「ふうむ・・・」
玄白は、さっきまでとあきらかに違う顔つきの源内をまじまじと見つめながら、満足そうに深く
<つづく>
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