第四話 マリアのちから<前編>
「ねーセンセ助けてって あれ?…センセ」
マリアが振り返るとそこに源内は居なかった。
源内は
一馬が源内に気づいて「先生っ!」と声を上げると、玄白が肩にポンと手を乗せた。
「さて一馬くん、
「え?」
武士を捨て医者を目指している一馬に、玄白は
「医術は、自ら
「!」
大川には水死体が流れついてくることはまれなことではなく、わりと日常的な風景であった。
この時代、何らかの事情で自ら命を絶つために
玄白は、
と一馬に
一馬は玄白の低く振動した言葉に
が、若者は食い下がる。
「しかし、玄白先生。あの人が身投げや心中したと決まったわけじゃ…」
「それに!」
一馬が最後まで言い終わらぬうちに、それを制して玄白が続けようとした。
「それに?」
「…それに…」
玄白は
『今の源内には、明日をどう生きていくのかが
と、言いかけたがその言葉を飲み込んだ。
* * *
源内と長い付き合いである玄白は、
もともと源内は自分と同じように
長崎留学を機に脱藩
現代でいう個人事業主として独立
これまでの概念にとらわれない源内の天才的思考は花開き、いくつかの成功を手にするが、
時代の先を進みすぎた考え方は
次第に世の理解を得られなくなり
むしろ今では
まるで
結果、今やいよいよ経済的に追い詰められ
理想とはかけ離れた毎日を送るしかできなくなっている源内の姿を、玄白は側で見てきたのだ。
それだけに親友のプライドを傷つけまいと、口をつぐんだのであった。
* * *
「ねー」
源内が振り返ると、いつの間にやってきたのかマリアがぴったりとくっついてきた。
源内はぷいと
「ねーねー」
「 … 」
源内は
マリアは(右手は抜けたままなので)左手を源内の腕に
「ねー?」
「 … 」
源内は無視
右手を
マリアはしつこく
「ねーねー」
と源内の腕をつかんで揺する。
源内、口を少しだけ
「 … 」
「センセー」
「ねー」
「 …(無視) 」
「ねーねー」
「 …(無視) 」
「ねーねーねー」
「 …(無…視)… 」
「ねーねーねーねー」
「助け…」
と、マリアが言いかけた時
カアカアと
「なあマリア
俺は長屋に帰っていろいろ考えねばならんのだ」
「(じー…)」
「 … あ、あのなマリア ぶっ壊されちまった見世物小屋の支払い、どーするかとかな 」
「(じー…)」
立ち止まって顔を見合っている源内とマリアの前方から
「助けてってサ センセ」
「マリア」
源内は、しゃがみこんで目線の高さをマリアと同じにした。
「身投げした女が助けて ってな、思いっきり
俺にゃ
あのあたりの
それに、 うわ!!!!」
マリアは
「ぐるぐるー!」
「ななな、なにすんだマリア!!」
<つづく>
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