第12話 土方歳三と沖田総司
4人が話し合いを続けている頃、咲は新選組の屯所で、土方歳三による尋問を受けていた。
連れてこられるとき目隠しをされていたから定かではないが、ここはおそらく蔵の中だろう。壁は
咲は後ろ手に拘束され、その柱に縛りつけられていた。捕縛されるときに乱暴な扱いを受けたために、髪は乱れ、白い肌のあちこちに擦り傷ができている。
「おい、女。あの家で何をしていた?」
と土方が聞く。
「何もしていない」
「坂本龍馬と会ったことがあるだろ?」
「…………」
「お前の仲間は何の目的で薩摩藩邸に出入りしている?」
「…………」
土方だけでなく、数人の隊士が咲を取り囲んでいる。
咲は頭がぼんやりしてきた。
自分たちは本当に何もしていない。しかし、聞かれている内容は事実だ。坂本龍馬と会ったことも、仲間が薩摩藩邸に行ったことも。一方で、それをしゃべれば、仲間を危険に晒すことも分かっている。未来から来たこともしゃべれない。
(どうすればいいんだろう)
***
尋問の様子を壁にもたれながら見ていた男が口を開いた。
「土方さんは女に甘いなあ。
「
その男は沖田総司だった。
新選組一番隊隊長にして、斎藤一と並ぶ、隊内最強の剣客だ。しかし、沖田は慶応三年6月頃から
「ちゃんと寝てましたよ。でも、寝過ぎっていうのも体に良くないんです」
「生意気なことを言うな」
ちなみに、沖田のいう古高俊太郎とは、京の
土方は、この古高を尋問する際、天井から逆さ吊りにし、両足のかかとに五寸釘を打ち込み、そこに
「土方さんが拷問できないなら、俺がやりましょうか?」
と沖田は歯を見せて笑う。
***
沖田の言っている内容は恐ろしいが、咲は不思議と怖いとは思わなかった。
むしろ、少し癒やされた。はっ、ボクはMだったのか……なんてことも一瞬考えたが、そうではない。どこか少年のようなところがあるこの総司という男が、本気ではなく、年長者の土方をからかっているだけだと分かるからだろう。
そう思うのと同時に、この土方歳三という男についても、
(よく似た男を知っている)
と咲は思った。
キレ者で、表向きはどS。それでいて、女や弱者には甘く、後輩にからかわれやすい。……そうだ、この男は涼介に似ている。
ふと、涼介の言葉を思い出した。
「いいか。俺たちは
咲は再び土方から、
「あの家で何をしていた?」
と問われたとき、それを答えとした。
すると、土方の態度が少し変わった。
「武州って言やぁ、俺たちの故郷じゃねぇか」
沖田がそこに乗ってくる。
「たぶん本当ですよ。この女、薩摩や長州や土佐の人間にある
「剣術修行の旅の途中と言ったな。お前も剣術ができるのか?」
「できる」
「やって見せてもらおうか」
それから土方は、咲を囲んでいた隊士の一人に目をやって、
「大石、立ち合ってみろ」
と言った。
「えっ。俺がこの女とですか?」
「二度言わせるな」
「承知」
「それから総司。部屋に戻るついでに、永倉か斎藤に剣道場に来いと伝えてくれ」
「永倉さんは原田さんと出かけちゃったから、斎藤さんに声かけときますよ」
「それでいい」
「他の連中は、この女の縄を一旦ほどいてやれ。剣道場に連れていく」
咲は新選組と剣道の試合をすることになった。
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