リズ・トラン①

 少年は、カインと同じ歳くらいに見えた。栗色の髪に翡翠色の瞳。顔立ちは整っており、中性的だ。瞼が垂れ気味だが、それが月のように淡く、穏やかで優しげな印象を与える。栗色の髪は後ろは短いが、右側の前髪は長い。左耳には淡いピンク色のイヤリングをしていた。制服から垣間見えるシャツは黒く、水色のリボンタイを巻いている。ズボンは白く、少年によく似合っていた。

腰にはサーベルが掛けられている。左手は黒い手袋をしているようだった。


 少年はゆっくりとカイン達に近寄った。



「お前がリズか?」



 カインが訊くと、少年はきょとんと首を傾げる。



「そうですけど……貴方たちは?」


「おれたちは、ノエルっていう人に頼まれて、あんたの手伝いをしに来たんです」


「ノエルが? そうか……なんだかんだで心配かけちゃったのか」



 リズが神妙な面持ちで、俯く。顔を上げて、リズは一行を見渡して、笑んだ。



「あの、旅の方ですよね? わざわざありがとうございます。僕はリズ・トランといいます」


「オレ、カイン! こっちがテト、ヴェイツ、ドロシー、リコリスさん!」


「手伝ってほしいって言われたのはいいが、具体的には何をすればいいんだ?」



 ヴェイツが訊くと、ドロシーが訝しがる。



「討伐じゃないの?」


「様子に見に行ったって言っただけで、討伐とは言ってなかっただろーが!」


「だから、着いてすぐ攻撃してしまったんですね~」


「……討伐じゃなかったのか?」


「やっぱりテメェもか! ちゃんと人の話聞きやがれ!!」



 テトがカインの頭にチョップを入れる。ごふっと吹いて、カインはチョップされた頭を押さえた。

 リズがくすくすと笑う。



「賑やかですね」


「そうでしょ~」


「で、何を手伝えばいい?」


「そうですね……あぁ!」



 何かを思い出したのか、リズが急に声を張り上げた。



「そうだ! 火!」


「火?」


「火、熾したままなんです! 早く戻らないと」



 踵を返して、リズは走り去ってしまった。瓦礫の上を慣れた足取りで駆けていき、あっという間に遠くにいったリズの後ろ姿を見送り、カインはテトを見た。



「行っちゃったな……」


「とりあえず……追いかけるぞ」



 リズのおかげでフライボンの群れは何処かへ行き、この一帯の安全はとりあえず確保されている。急いでリズを追いかける必要はないだろう。



「それにしても、ここは何の遺跡だ?」


「岬の遺跡でしょ?」


「そうじゃねーよ。元は何の建物だったかってことだ」



 カインはぐるりと遺跡を見渡す。建物の残骸ということは分かるが、ほとんどが崩れており、建物だけでは憶測は出来なかった。瓦礫は苔が生えていて、大分風化しているように見える。相当の年月は経っていることだろう。



「元は街だったとか?」


「かもしれませんね~」


「専門的な知識はないから、さっぱりだな」


「あ、あっちにはドームが残っているわよ!」



 ドロシーが声を上げて、指を差す。その先を見ると、石で積み上げられたドームが残っていた。それは、天辺が崩れ落ちているようだったが、他の遺跡よりも形が残っている。



「フライボンっていうのは、毎年この時期、ここに来るって言っていたな」


「そう言っていたな」



 テトの言葉を、ヴェイツが肯定する。



「何しにここに集まってくるんだ? こんな人もいない、遺跡しかない場所に」


「フライボンは、あまり人を襲わないって言うしなぁ。人は関係ないかもな」


「え、襲わないの!? あたし、魔物が人を食べたって聞いたことがあるんだけど!」


「人を食べるのは、キバヨロイっていう魔物だな。他にも人を食べる魔物はいるが、これが一番有名だ。大抵の魔物は人を殺すが、食べはしない。中にはあまり襲わない魔物もいる」


「ますます分からなねーな」


「言ったろ? 魔物はまだ分からないところが多すぎるってな」



 ヴェイツが肩をすくめる。そして、カイン達を見やった。



「それはそうと、さっきのフライボンがまた来る可能性もあるから、さっさとリズの後を追ったほうがいいかもな」


「そうですね~」


「おう!」

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