リズを追って
岬の遺跡に向かう道中、魔物の死体が沢山転がっていた。剣で切られた後や、焦げた後があり、リズという人物が通った後かもしれないと、その痕跡を辿った。
「けっこうな数の魔物の死体だな……こりゃ、ノルヴェーの言葉は嘘じゃないな」
「すげぇな! オレ、一人でこんなに倒せねぇぞ!」
興奮しながら、カインが言い募る。
「なぁ、リズっていうヤツ、どんなヤツだと思う? こんなに魔物を倒したんだから、ムキムキかな?」
「学院の学生だから、ムキムキじゃないと思うぞ……」
「だが、かなり鍛えられていると見る。少なくても貧弱じゃないな」
「個人的には、一匹とはなにか気になりますね~」
「一匹?」
「ノルヴェーさんが仰っていたじゃないですか~。正確には一人と一匹って」
「ああ、そういえば……」
一匹、ということは人ではなく、動物。虫は除外する。共に行けるとなれば、大型の動物が高い。が、実質一人だと言っていた。戦闘力はないのだろう。だが、それなら、イカネに置いたままのほうが、良さそうな気がする。
「ねぇ! あそこに見えるのが、岬の遺跡じゃない?」
ドロシーが指差した方向を見やる。遺跡らしき残骸が遠くに見えた。上空には、小さな影が多数旋回している。
「どうやら、あそこらしいな」
「あらあら~。たくさん、いらっしゃいますね~」
のほほんと微笑むリコリスを、ドロシーが睨む。
「感心してないで、さっさと行くわよ!」
「は~い」
武器の杖を構え、突進していくドロシーの後を追いかけていくリコリス。それに続いて、カインもショート・ソードを構えて走っていく。
「なんか追いかけるばっかりだよな……いいのか、これで」
「いつか足並み揃える日が来るといいな」
ヴェイツが遠い目をしているテトの肩を、ぽんと叩く。
他人事みたいに、とブツブツと言いながらテトはのろのろと後を追いかける。ヴェイツは苦笑して、テトの速度に合わせて歩き出した。
「そぉれ!」
岬の遺跡に着いた瞬間、ドロシーが上空のフライボンに向けて炎の魔法を放った。火の玉が一匹のフライボンに直撃する。フライボンは燃え上がり、炭になって地に墜ちた。
「まだまだぁ! くるくる回れ!」
杖で円を描くようにくるくると回し、その動きと合わせるように、炎の渦が現れ、フライボンの群れを襲った。数匹が地に墜ち、ぼとっと音を立てて横たわる。
攻撃され、旋回していた他のフライボンたちがドロシーを注視した。ドロシーは睨みつけながら、じりっと後退する。フライボンの群れがじわじわと降りてくる。
数匹のフライボンがドロシーを目掛けて、突進してきた。刹那、ドロシーの頭上に現れた影が、襲いかかってきたフライボンを斬りつけた。
刻み込まれたフライボンが墜ちる。それと同時に、ドロシーの前に着地する影。リコリスは穏やかな笑みを浮かべ、ドロシーに視線を向けた。
「ドロシー様~。御怪我はありませんか~?」
「大丈夫よ。ありがとう」
上空のフライボンが降下していく。そこでカインが追いついた。
「おーい! 大丈夫かー?」
「遅い! って」
カインの顔を見て、ドロシーはぎょっと目を剥いた。
「ちょっと! また顔色が悪くなっているわよ!?」
「ヴァネンにいた時よりか、具合は良いぜ!」
「無理はしないでくださいね~」
「おう!」
ショート・ソードを構え直し、カインはフライボンを仰ぐ。
フライボンは、鷲と同等の大きさで、四つの翼が生えていた。二つは大きく、もう二つは小ぶりで、翼というより羽に近いように見えた。青黒い胴体はツルツルに照っている。ぎょろっとした大きな目は、黒く澄んでいた。
新しい敵に警戒したのか、フライボンの群れは止まり、上空に居続けた。
降りてきてもらわないと、切っ先が届かない。
「ドロシー! また、魔法で攻撃してくれないか?」
「その前に……強くなれ!」
二人に、腕力が上がる補助魔法をかける。
「いくわよ! ぐるぐる回れ!」
炎の蛇がとぐろを巻いて、数匹のフライボンを巻き込む。それが合図となり、一斉に降下し、反撃と言わんばかりに襲いかかってきた。
ショート・ソードを振りかざし、フライボンを斬る。リコリスももう一本の短剣を取り出し、両刀でフライボンを斬りつけていった。
「予想以上に多いな……」
「俺もこんなにフライボンが集まっているの、初めて見たな」
遅れて来たテトとヴェイツが、フライボンの群れを見て呟く。
フライボンは数十匹の群れで行動するが、これはざっと百匹以上はいる。
「大量発生しているな。なにがどうしてこうなるんだか」
「おれたちの目的は、リズっていうヤツを手伝うであって、フライボンの討伐じゃねーよ……とりあえず……参戦するしかねーか……」
群れの中心で応戦している三人を見て、テトが肩を落とす。
「まあ、頑張ろうや」
「………………ああ」
グレイヴを構え、ヴェイツは地上に群がっているフライボンに突進し、グレイヴを振り回す。一気に十数匹を一刀両断にし、さらに振り回した。テトも弓を構え、矢を放つ。一匹ずつ、確実に仕留めていった。
「斬っても斬っても、キリがねぇ!」
「魔法で一掃できねーのか!?」
「そこまでしたら、あたしがぶっ倒れちゃうわ!」
息を切らしながら、ドロシーが吠える。火の魔法を使いすぎて、体力の限界が来ているようだ。
その時、頭上に眩い光を放つ球が横切った。フライボン達が一斉に、その光の玉を注視した。そして球を追うように、フライボンの群れが、カイン達から離れていった。
「なにが起こったのよ……?」
「さぁ……?」
呆然と群れを見送る一行。そんな一行に、声が掛けられた。
「大丈夫でしたか?」
優しげな少年の声だ。
振り向くと、イカネの制服を着た、少年が一人、首を傾げていた。
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