誕生日プレゼント②
バリラの森で手合わせをした後、宿屋に戻ろうとしたが、ナヤ達の怒鳴り声が宿屋のほうから聞こえ、二人は引き返した。
しばらくしてから宿屋に戻ったほうがいいと、満場一致で決まり、適当にブラブラして時間を潰そう、という話になった。
「そういえば、テトは今何しているんだ?」
「おばちゃんから薬草と医学を教わっているって。アリシアが言っていた」
「アリシアって、前言っていた妹か?」
「そう」
先日、テトの家に行った時のことを思い出す。アリシアが留守番していて、クーリィとテトが薬草を摘みに行っていて、テトには会えなかった。アリシアに訊くと、前にも増して医学と薬草の勉強をするようになったと言っていた。
目つきが悪く誤解されがちだが、さすが医者の息子というべきか。テトはとても勤勉で、頭が良い。それでいて家族思いなので、母の助けになろうと、母の手伝いの傍らで医学を学んでいた。薬草のこともそうだ。それにも増して医学と薬草を学んでいる。これは自分も頑張ればならないと思った。
「しかし、テトは結構しっかりしているな」
「お兄ちゃんだからな」
「いや、元々の気質だろ。世の中、兄よりも弟のほうがしっかりしている例もあるからな」
「あー、たしかにあるな。ブナンの弟もそんな感じ」
「ブナンって、ナヤの取り巻きの一人だったか。弟がいたのか」
「いるぞー。ブナンの奴、けっこうその弟もイジメているんだけどさ、弟のほうはブナン達がなにかすると、いつもうちの馬鹿兄貴がすいませんって謝ってくれるぞ」
「すごく出来た弟だな」
「なんか弟が可哀想で、大人たちの怒りも治まるんだよな」
密かに、あの歳で胃に穴空かないか心配している。
ブナンの弟は、兄やナヤ達にパシられようが、ぶたれようが、しょうがないな、と笑って許している。あの笑顔を見て、いつも思う。弟のほうが兄らしい、とか、なんで逆に生まれなかったのだろう、と。
「あ、カインお兄ちゃん、見つけた!」
アリシアの声だ。振り向くと、アリシアがエレンの手を引っ張り、一緒に駆け寄ってくる姿が見えた。
「誰?」
ヴェイツが小さな声で訊ねてくる。
「テトの妹」
「へぇ、あの子がそうなのか」
アリシアとエレンがカイン達の許に着いた。アリシアはカインを見上げて、頬を膨らませる。
「もう! どこにいたの? ずっと村中探していたんだからね!」
「ちょっと森にいたんだ。ごめんな」
プンプンと怒っているアリシアを宥める。エレンはおどおどとしていたが、ヴェイツを見て軽く目を見開いた。
「あ……あの時の、おにい、さん?」
「あの時? ああ、ナヤ達にイジメられていた子か」
ヴェイツは屈んで、エレンの頭をくしゃりと撫でた。
「どうだ? あれからあの三人はイジメられていないか?」
「う、うん」
「ソイツは良かった」
エレンは照れ臭そうにモジモジしていたが、ヴェイツの返事にはにかんだ。
「そういえば、オレに何か用か?」
アリシアとエレンが顔を見合わせ小さく笑い合った後、再びカインを見上げた。
「カインお兄ちゃん!」
「お、お誕生日おめで、とう」
「おめでとう! これ、お誕生日プレゼント!」
アリシアがポケットから橙色の小さな巾着を取り出して、カインに差し出す。カインはそれを受け取って、掌に乗せた。
巾着は、少し歪な形をしていた。握り締めたら覆い隠せるほど小さい。中には小さな石が沢山入っているのか、ジャラジャラと音がした。巾着の入り口は紐で括られているが、中の物が出ないようにか、糸で頑丈に縫いつけられている。
「これは?」
「旅の安全きがんのお守りー! エレンと二人で作ったんだ!」
「き、巾着はアリシアちゃんが、中の石はぼくが集めたの」
「ただの石じゃないよ! エレンがげんせんした、すごーくキレイな石だよ! あ、一応お兄ちゃんの分も作ったよ」
「テトにも? アイツ、喜ぶだろうなー」
形が歪だのなんだのと、からかうが、なんだかんだで落とさぬよう大事に扱うテトの姿が容易に浮かぶ。
「どうだろう? まだ渡してないから」
「テトお兄ちゃんもよろこぶ、と思うよ?」
「表には出さないけどな! 二人とも、ありがとな」
二人の頭を撫でると、二人とも破顔した。
「明日、ぜったいに見送りにいくね」
「けっこう早いけど起きられるか?」
エレンは頷く。
「だいじょうぶだよ。いつもおじいちゃんと一緒におきているから」
「アリシアもだいじょーぶ! お兄ちゃんに起こしてもらうから!」
「起こしてもらえないかもしれないぞ?」
「準備する音でおきるから、だいじょーぶだもん」
胸を張るアリシアが可笑しくて、カインは笑った。
「アリシアちゃん、そろそろ」
「あ、そうだね。それじゃ、アリシアたち、行くね!」
「カインお兄ちゃん、お兄さん。またね」
アリシアとエレンが手を振り、仲良く手を繋いで去って行く。それを見送った後、カインとヴェイツは目を見合わせた。ヴェイツがふっと笑う。
「これは持っていかないとなぁ」
「持っていくなって言われても、持っていくからな!」
「言わないって」
改めて、お守りを見る。
記憶が正しければ、アリシアにとって初めての裁縫だったはずだ。
「なぁ、ちょっとおかしいこと言っていい?」
「なんだ?」
「今日さ、今までの誕生日の中で一番たくさんプレゼント貰ったんだ。なんか貴重な鞄も貰った。でもさ、これが一番嬉しいって思った」
「そうか」
ぐしゃぐしゃと頭を撫で回される。いてぇよ、と笑いながらその手を受け入れた。
物を貰ったことよりも、無事でいて、という思いを貰ったことが、とても嬉しかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます