第3話

中々帰ってこない八城に半ばキレながらも、所員寮についた一樹と紫苑

夜になり、八城がいないまま一階のリビングで食事を取った

シェアハウスのような作りのため、部屋は個別で鍵がかかるものの、キッチンは共用となっている



「なぁ、紫苑。二つ聞きたいことがある」

「何よ。私を辱めた死神さん?」

「一つは、進展したか?」

「し、したわよ」

「嘘か」

「……っ!……嘘よ」



一樹はため息をつきながら紫苑を撫でる



「お前は俺の同僚だ。自信を持てよ?俺までヘタレだと思われちまう」

「わ、わかってるわ。撫でないでよ」



きらわれたもんだな、と笑いながら一樹は乗り出した体を席に戻す

紫苑は撫でられたところを自分の手で擦りながら、もう一つの方を促した



「ああ、もう一個はよ。なんで八城が帰ってこないんだと思う?」

「…さぁ?仕事に時間がかかってるんじゃないの?」



紫苑も思っていた案件ではあるものの、自身が考えている可能性を打ち消したくて、思っていることとは違うことを言った



「そうは思えない。あの人は世界最強の神格適合者だ。負けるはずがない」



一樹の口から飛び出た「神格適合者」という言葉に眉をひそめる紫苑は、目線で一樹に続きを促す



「神格適合者は、神を身に宿せる適性がある人間のことだ。俺たち死神と渡り合える唯一の方法でもある。そんな人が、たかがポルターガイストに負けるわけがない」

「つまり、あの事件はただのポルターガイストでは無いってこと?」

「恐らくな」



ひとしきり語った一樹は、自分でいれたインスタントコーヒーを口に運んで苦い顔をする



「やっぱまだブラックは飲めねぇや」

「子供ね。でも、そうだとしたら何故……」

「だからそれを話し合ってるんだろうが」



時刻は夜九時。月宮探偵事務所の最年少所員である雨宮那奈が帰ってくる頃合だ

那奈は高校一年生で、一樹と紫苑の後輩である。紫苑への対応が強いのは何故だろうか



「一樹先輩、起きていらしたんですね」

「那奈、学校以外では先輩を付けるなって言っただろ」

「そうでしたね。あら、五葉先輩もいたんですね。見えませんでした」

「一樹の隣に座ってるんだから見えるに決まってるでしょ…!」



怒りを抑えながら言う紫苑の額には青筋が浮かんでいるが、それを気にもとめずに那奈は話を進める



「所長は?」

「まだ帰ってこない。朝出たっきりな」

「なるほど。明日になればひょっこり帰ってきますよ。そんなことより、今日部活で──」



那奈は一樹に嬉しそうに今日あったことを話していく。蚊帳の外にとりのこされた紫苑は、八城のことを考え始める



(所長より強いとしたら、私じゃ勝てないわ。一樹も無理ね)



一樹は那奈を褒めつつ、撫でてやる。すると那奈はとてつもなく嬉しそうに目を細めるのだ



(でも、二人で向かっていけば勝てるかしら…。私と一樹の二人がかりで所長と互角だから、かなり厳しいわね。催眠かなにかで所長まで敵に回ったら尚更だわ)

「─ん…─し…ん──紫苑!」

「っ!な、何よ」

「いや、完全に考え込んでたからよ。明日は休みだぜ?少しは気を緩めろよ。なんなら買い物に付き合ってやる」

「あ、ありがとう」

「五葉先輩、やっぱりヘタレですね」



堪忍袋の緒が切れた紫苑の怒りの叫びが、夜の所員寮に響いた









演技モードを解除した紫苑は、ベッドに飛び込んだ。一樹からの誘いが嬉しくて



(なんで気づかないのかしら。玲於がただの幼馴染だってことに)



紫苑は闇桜玲於を好きだと言ったことは一度も無い。そういう素振りを見せることで、ナンパの対策をしているだけだ

そんな中、普通に好きな人が出来た。しかし、演技する癖が抜けずにそのままになっている



(明日、早起きしようかしら。ふふっ)



部屋についているユニットバスで入浴を済ませ、布団に潜り込む



(玲於、もう演技の必要は無くなりそうよ。ありがとう)



ずっと想い人扱いしていた玲於に心の中で礼を述べた

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死神探偵社にご依頼を 天津風煉河 @1381

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