第4話The End To the Beginning Ⅳ

「―――――――!?」


 目が覚めるとそこは保健室のベットの上だった。

 だが俺が驚いたのはそこではない。体が痒く寝返りを打ったんだが……。隣にひよりがいたのだ。

 相変わらず明媚な寝顔だな……。


 「こらこら少年。変な行為はしないでくれよ」


 思わずひよりの寝顔に見惚れていると、背後から声がかかる。

 そこにいたのは男の人だった。黒髪で長めのもみあげにホワイトのメッシュがはいっている、貴族風の男性。

俺はその男におずおずとしながらも答える。


「変な行為って、しませんよそんな事。というかあなたは……?」


「これは失礼。僕の名前はコリシュ・クーベルダン。僕は君たちの担任となる男だよ」


コリシュ・クーベルダンと名乗る男は陽気に俺に話しかけてくる。


「担任…?」


ベッドの上で首を傾げている俺にコリシュ先生は笑いかけてくる。


「ああ。君たちは見事に魔法学校の入学を許可された訳さ。いやーでも、先の戦いを見ていたがすごかったね君たち」


「すごかった…とは?」


はたまた首を傾げる俺にコリシュ先生は保健室のイスに座りながら説明を始める。


「鳴海のスケルトンとの戦いもすごかったが一番はオーガ戦だったかな。観戦していた学校関係者は皆驚いていたさ。君たちに渡した指輪は深炎しんえん結晶けっしょう深翠しんすい結晶けっしょう別名、妖精の微笑みと呼ばれる物を加工して作ったんだ」


俺は自分の左中指にはめている深翠ようせい結晶ほほえみを凝視する。


「それらはそうそう壊れる代物じゃないんだよ。しかも効力は精々骨折を治せる程度や相手をすこし燃やす程度なんだ。だから仲間の力を底上げしたりオーガを吹き飛ばすなんてことはあり得ないのさ」


コリシュ先生はケラケラと実に楽しそうに説明をする。


「つまり君たちは魔力が高い。現時点では、鳴海はえん魔法。ひよりくんは回復魔法が得意みたいなんだ」


話が終わると同時に俺の後ろの毛布がごそごそと動く。


「起きたみたいだねひよりくん」


にこやかにコリシュ先生が話しかけると、目を擦りながらひよりが。


「あなたはどなたですか?」


と当然の疑問を呈する。


「僕はコリシュ・クーベルダン。君たちの入学が許された学校、魔法学校の先生で君の担任となる者だよ。ちょうど君が目覚めたから本題に入ろう。君たちは学校に入学することを望むかい……?」


先刻までの陽気さはなくなり、真面目な面持ちでコリシュ先生は訊いてくる。


「望む……?なんでそんなのことを…」


「ちょっとした規則でね。双方合意の上でないと入学できないんだよね」


「俺は別に構わないですが…ひよりは…」


俺はベッドの上で少し眠たそうな顔をするひよりのことを見据える。

ひよりを自分の目的、日々の退屈を打開するという私欲のために巻き込んでしまった。

ひよりはこのことをどう思っているのだろうか……?

場合によっては俺一人だけを入学出来るように……。


「鳴海くんは優しいですね。私も構いませんよ……」


しかし俺の考えはすべて見透かされていたようだ。

ひよりの話は続く。


「…私は自分の日常にいつしか飽きをおぼえていました。これは自惚れかもしれませんが転校してきての一ヶ月は告られることが多くあったので少し非日常な感じがしてどこか浮かれていました。それでも時間が経つとやはりどこかで刺激を求めている自分がいました……」


ひよりは俺のことをまじまじと見つめ、優しく微笑む。


「…だからあの時…鳴海くんにゲームの参加を誘われたときは、とても嬉しかったんです。だから自分のことを責めないでください」


俺は思わず両眼を見開いてしまった。ひよりの考えが俺と似ていたことに。


「ではこれで決まりかな。詳しい話は後日連絡するから、ゆっくりと休んでくれたまえ」


それじゃとコリシュ先生は席を立つ。扉のむこうに消えようとするところを俺は止める。

まだ疑問が残っていたからだ。


「俺ら以外に合格者は……?」


「いないよ。君たちの後に挑戦しようと考えた子はいなくてね。でもちょうどよかったよ、募集定員が二名だけだったから。魔法学校の規則の一つに一学年を三百人とする、っていうものがあってね」


一学年を三百人とする……。つまり今回二人を選抜したってことは、その二人分の枠はただ単に余ってしまっただけかそれともトラブルがあったのか。

この考えはひよりも思っていたようで。


「何故二名募集したのですか?」


「あーそれは……だね……ただ余ってしまったからだよ」


目を逸らし微笑を浮かべながら答える。


「確かユナが魔法学校は秘密裏に動いていると言っていたけど、その点はどうしているんだ?」


おもわず素で話しかけてしまった俺に、先程のひよりの質問に目を泳がせていた先生だったが俺の質問に態度を急変させる。


「ふふっ……!それはだね。実は僕、魔薬草学という薬草学が得意で。僕が開発した忘却薬というその名の通り、起きたことを忘れさせる飲み薬を君たち以外の人に飲ませたんだ。だから心配は無用。みんなこの事はキレイさっぱり忘れているさ」


――――何それ怖い!

というか、よく嬉々として話せるな!大丈夫だろうか?この先生ひと…。


「それじゃもういいかな。僕は行くよ」


右手を左右に振りながらコリシュ先生は保健室を後にする。

陽気な先生がいなくなったことにより気まずい空気が教室を満たす。

―――――今はいったい何時だろうか?

保健室や科学実験室などを含めた特別教室数室が現在改修工事が行われているのだ。だからこの教室にはベッドが一つの上に時計がないわけで。

しかし偶然が重なり放課後を告げるチャイムがなる。

この学校は朝の授業の始まりを告げるチャイム、昼休みのチャイム、放課後のチャイムと三つにわかれてあるのだ。この暖かくて夕焼けに染まるカラスを連想させる音楽は、放課後を告げるチャイムだ。

チャイムが鳴り終えるとひよりはコリシュ先生が退室した扉を眺めながら尋ねてくる。


「この後はどうしますか…?」


「一度教室に戻るか」


短く答え、俺たちも部屋を後にする。


* * * * * * *



「後日連絡すると言っていたけど、いつだろうな?」


 夕日に染まる並木道を俺の言葉が木霊する。

 あの後教室に戻った俺たちは、教室に誰もいないことを確認すると職員室に寄り担任の先生を呼び出した。先生はやはり何も憶えていなく、それどころか、保健室にいたことの理由を体調不良だと勝手に勘違いをしていた。俺は改めて魔法学校に畏怖を抱いてしまった。

 そうして今は寮への帰路へとたっているのだが、先程からひよりが隣で黙り込んでいる。

 

「どうしたんだ?さっきから黙りこくって」


「いえ……。ただコリシュ先生の言葉に引っ掛かる所があったので」


 その節には俺も引っかかることがあったので。

 

「募集定員の話か……?」


 少し低く訊いてみる。


「はい。ただ余ってしまったから、というよりは何かを隠しているようにみえたので」


「だな。あのあからさまに目を泳がして言葉を濁らせていたから……」


 少しの沈黙が訪れる。しかしそれを破ったのは俯いたままだった顔を上げたひよりだった。


 「解らないことをいつまで考えても仕方ありませんね」


 そう明るく言葉にする。

このあとは 会話に花が咲き。気がつくと寮の真ん前に着いていた。門をくぐり敷地に入る。ロビーへの道を歩いていると背後から声が涼しげな風に乗りながら届く。


「あ……あの、鳴海くん…。その、ですね……」


――――?

顔を俯け頬を紅潮させている。そしてもじもじと……。

―――――!!!

なるほど。

俺とひより以外にこの寮を利用する生徒は周りにはいない。逢魔が刻に一人の男の子と一人の女の子、一対一で向かい合っている。

この流れは青春を題材とした恋物語やラブコメなどといった王道の前ふり。

窮地に陥った少女を危機一髪で助ける青年。その青年に恋い焦がれてしまう少女。きっとこれはそうあれだ。男なら考えてしまう事象だ。

ドクドクと自分の胸の高鳴りが聴こえてくる。

―――そして……


「明日は休日なので一緒に出掛けませんか?」


………まぁ期待はしてなかったよ?告白とか全然。これっぽっちも!本当だよ―――!?


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