第3話The End To the Beginning Ⅲ
四階廊下は閑散としていた。
「まずこの階と三階はきっと同じ奴が出てくるから銃での応戦。二階と一階はまだ未知数だから慎重にいこう」
「わかりました」
共に頷き合い、三階への階段を目指す。
階段に近づくにつれ無数の足音が俺たちの耳に届く。
「来ました!」
ひよりが銃を構え発砲する。すかさず俺もそれに倣い発砲。弾ははずすことなくゴブリンに着弾する。
ゴブリンは奇声をあげながらノイズを走らせ消え去っていく。
三階に辿り着くとすぐに壁に寄りかかるようにして廊下を偵察すると。
「…増えてるし…」
一体だったはずのスケルトンが八体までに増えていた。
「ひより行けるか?」
「もちろんです」
ひよりと共に足音を消しながら廊下に出ると、気づかれる前に発砲する。
「あっ…まずい…隠れろ!」
四体は殺ったものの、残りの四体は弓矢で応戦してくる。
弓矢は銃と違い連続して射つことは難しい。なので一度放ったらもう一度弓に矢を継がえないといけない。
だからその間を狙えば。
「やった…な。時間も少ないし急ごう」
二階へ降りたら先程と同じく壁に寄りかかり廊下を偵察する。
「長剣を握るゴブリンが一体に短剣を握るスケルトンが一体…やけに少ないな」
「何かありそうですね。慎重に行きましょう」
「ああ。ひより、残りの弾数いくつだ?」
「一発だけです。鳴海くんは?」
「残念ながらゼロだ。だからひよりは奥のゴブリンを狙ってくれ、手前のスケルトンは俺がなんとかするから」
「わかりました。でも本当に大丈夫ですか?無理をなさらなくとも…」
銃を構えながら心配そうにこちらをひよりは見上げてくる。
「安心してくれ大丈夫だ。……じゃあ合図したら撃ってくれ」
ひよりはこくりと頷く。
ゴブリンとスケルトンがこちらから視線を逸らしたところを見計らって…
「今だ……!」
ひよりが一発放つ。
「ギィヤヤヤヤ」
「ナイス…!」
弾丸は寸分たがわずゴブリンに命中する。
ひよりの命中率の高さに思わず感心してしまった。
ここからは流れ作業だ。
スケルトンがこちらに気づき短剣を振り下ろしてくる。
相手の懐に入り込み短剣を持つ右手の手首を左手でおさえ、右手で反対側からおさえ込む。
これで力の比が2:1となり動かせないはず。
次に右足でスケルトンの膝裏を破壊し体勢を後ろに崩し、勢いよく前傾する。
―――――よし!ぶっ倒れた。
「骸骨のくせに重いぞお前」
腰に携えていた剣を抜き、スケルトンの頭に突き刺す。
スケルトンはジリジリとノイズを走らせ消え去っていく…。
「ほぉぇ…お見事です。でもここからが本番です」
ユナが素っ頓狂な声をあげる…。
ここからが本番…?
「滑らかな動きでした。護身術でもやっていたのですか?」
ひよりが先程の動きを見て尋ねてくる。
「特に何も…たまたまだ!」
俺はひよりに微笑みながら答える。
「そうですか…。では行きましょう」
ひよりは訝しげに見てくるが、追求はせず先を急ぐ。
「な…何あれ…」
現在俺たちは昇降口下駄箱前に居る。
一階に降り立った俺たちは定石通り、壁に隠れながら偵察したのだが、そこには静けさしかなかった。
勘ぐりながらも昇降口に向かうと、黒いキューブはあったのだ。浮遊していて一発でわかったのだが―――。
「キューブの前に立つ、あのガチムキの鬼みたいなのは何ですか…」
―――キューブの前には身長が2mは超しているだろう人型の筋骨隆々の鬼が立っていた。
無理ゲーだろこれ……。
「オーガでしょうか…北ヨーロッパでは凶暴で残忍な性格と云われてい…」
俺がひよりの説明に一人空笑いをしているとひよりは慌てながら、
「だ…大丈夫ですよ。このゲームはキューブさせ触ればクリアなんですから…ね」
俺はがんばって立ち直る。
「だな…。でも問題はどうあれに触れるかだよな。あんなびっちりくっついていられちゃ…」
俺は作戦を捻り出す。
「やっぱりこのゲームのルールに則るしかないのか…」
ここまで来た以上退くことは出来ない。もう危険云々は言ってられない…
「パートナーがいる以上どちらかが囮役をし、惹き付けている隙にキューブを…。それでは囮役はわた…」
「だめだ…!囮役は俺がやるからひよりはキューブに触れてくれ」
ひよりも同じ事を考えていたからよかったが、ひよりが囮役なのはいただけない。
「私が何を言っても考えは曲げない……ですよね?」
「当然だ…!」
「仕方ないですね」
クスっとひよりが笑う。
「じゃあ行くぞ!……おいそこの阿保面。お前人肉が好きなんだってな、俺は美味いぞ!そうだ、こっちまで来い……ってうぉっ!」
オーガを惹きつけていると鼻息荒く興奮し始めたと思いきや持っていた棍棒で下駄箱ごと俺を薙ぎ払ってきた。
当たっていたらぽっくり逝っていたぞ……!
ある程度キューブから引き離すと、下駄箱の影からひよりが飛び出していく。
「ガァルアアアア」
だが何がいけなかったのかオーガはひよりの存在に気づく。
「ひより下がれ!」
だめだ…間に合わない。
オーガは平手打ちをひよりに繰り出す、直前でひよりは後ろに後退するが微かに制服に掠ってしまう。
少し当たってしまっただけでも威力はあり、ひよりは壁に激突する。
オーガの攻撃は止まらない。さらに棍棒をひよりめがけて振り下ろす。
「させるか!」
直前で抜剣し受け止めるが、オーガと人間の力の差は歴然。いつまで凌げるか時間の問題だ。
「ひ…ひより大丈夫か!お前、頭から血が…!」
「落ち着いてください、鳴海くん。これくらい平気ですよ……っ!」
「無理するな…!早く治療しろ…」
巻き返すことが出来ない。それどころか徐々におされ始めて…。
このままじゃ……。
――――その時だった。
背後で翡翠色の光が濃くそして強く光り始め、俺を包み込む。
きっとその影響だろう。
地の底から力が湧いてくる。
「はぁああああ……!」
オーガの腕を棍棒ごと吹き飛ばす。
「さぁ燃え上がれ!」
オーガが地に膝を着いたところを狙い、赤褐色の指輪をはめている右手で顔を掴む。
指輪はドス黒く光始め、ついには弾け飛んだ。
「ヴォオオオオオオ!」
「――――バンっ!」
オーガは顔をから全身が燃え盛り、体が吹き飛ぶ。血こそは出なかったもののノイズを走らせることなく一瞬にして消える。
「お見事。まさかオーガを倒してしまうなんて思いもよらなかった」
ユナが称賛の声をあげる。
俺はその言葉を聞きながらキューブに触れようと 動きはじめるがユナがそれを制する。
「触れなくて結構です。あなた方はクリア致しました。文句のつけようのない成績です」
「クリアか…。………ひよりは!?」
ひよりの安否を確認するべく、ひよりのもとへ急ぐ。
「ひより、無事か……!?」
「―――――――」
呼びかけるが返事がない。顔を近づけ呼吸を確認すると息はしている。
そこで俺はあることに気づく、ひよりの頭部から血が出ていない。
「安心してください。魔力の使いすぎで気絶しているだけです」
心配する俺を見てユナが状況の説明をし俺の今の気持ちを払拭する。
「よかった……」
俺は一人安堵する。
が、気がつけば視界が朦朧とし始める。
徐々にそれは意識を削り―――――俺は今日で二度目の気絶をしてしまった……。
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