第2話The End To the Beginning Ⅱ
俺は日常に変化を求めていた。
日常に刺激を求めていた
日常に退屈していた。
だがこんな形で終わりを告げるなんて思いもよらなかった。
「ゲームをしてもらいます。ゲーム内容は二人一組のチーム戦。制限時間内に私が配置した敵と戦ってもらいます」
ゲーム内容を聞いた生徒間でどよめきが走る。
こんな状態になっても仕方がない、敵と戦うってことは怪我をする可能性をはらんでいるからだ。酷ければ死に至る可能性も…。
「このゲームは強制ではありません。やらなくても構いません。確かにこのゲームはただでは済まない内容です…。しかし、代償にはそれなりの結果が付いてくるもの…このゲームをクリア出来た暁には魔法を得る権利が与えられます。しかもこちらである程度のサポートはします」
再びどよめきが走る。しかし今度のは不満や不安が上がることはなく、喜色が浮かんでいる。
ユナの話し方は巧みだった。最初にデメリットを話すことにより相手の気分を落とす。しかし次にメリットを挙げることで下から一気に上げる。それも魔法使いのサポートがあるとならばゲームの攻略は楽になると思い込んでしまう。
「では、三十分後…十三時に開始します。それまで暫くお待ち下さい」
「待ってください…!ゲームの内容についてもう一つ質問があります。パートナーはどう決めるのですか?」
ユナが説明を終えようとすると、生徒会長がそれを止める。
「目覚めた時に隣に居た人がパートナーです。では」
ユナの説明はこれで一旦終わる。
隣に居た人がパートナーか…。それって!
「―――――?」
自分のパートナーに驚いていると、制服の袖をくいくいと引っ張られる。
振り向くとひよりが立っていた。
「パートナーですね。よろしくお願いします」
と、少し微笑みながらひよりは言ってくる。
その様子に少しばかり自分も微笑んでしまう。
「ああ。よろしく」
緊張感のないやつめ…。
「それでは十三時になりました。用意は宜しいでしょうか?」
「おー!!」
生徒たちからは用意okの合図があがる。
少しばかりお祭り騒ぎとなっていた。
「ではこれを受け取ってください」
目の前の景観が捻れ始めた…。具体的に言うと空間が捻れた。
捻れた空間は真っ暗で、まるで暗黒の世界にでも繋がっているようだった。
そして空間からは赤色のバッグが床へ落ちる。
どうやらバッグは一人一人の目の前に落ちているみたいだ。中身を確認するとそこには、剣や拳銃、赤褐色の指輪とパステルグリーンの指輪が入っていた。
「バッグの中にある剣や拳銃は魔法で強化してあるので、簡単には折れないですし切れ味も抜群です。色違いの指輪ですが、イメージしやすい通り、赤が炎を出すことが出来、翠が回復の指輪です。使用方法は指輪を指にはめ宙にかざすだけ、その人の持つ魔力によって使用回数や効果も変わってしまうのでご注意を…」
「それでは、始めましょうか。初陣を望む方はいらしゃいますか?」
「俺たちにやらしてくれ」
ユナの言葉に二人の男子生徒が名乗りをあげる。
二人ともがたいがよく、長身。髪は整髪料でオールバック状にしている。ぱっと見、不良生徒という印象が強い。
「わかりました。制限時間は十分、一階の昇降口にある黒いキューブに触ればクリアです…ご武運を」
二人の生徒は武器を持ち、出入り口の外へと消えていく。
「二人の様子をこちらでご覧下さい」
体育館の壁にレトロチックな鏡が出現する。
鏡には先程の生徒が映っている。
しかし鏡に映る風景にどこか違和感をおぼえる。体育館を出たら、本校舎へ向かう渡り廊下に出るはずなんだが…。
鏡は映像だけでなく音声も拾うのか、声が聞こえてくる。
「なぁ、俺たち何で四階にいるんだ?」
「わからねぇ…」
「それは私が魔法で入り口の変更をしたせいです。この魔法は結構魔力を消費するので、精霊たちに力を借りました。さぁ急いで!時間は有限ですよ」
ユナは原因の説明をし、ゲームの再開を促す。
鏡に映る男子生徒は銃を構えながら、三階へと続く階段に向かう。
しかしその行く手を阻むように階段から無数の足音が聞こえ始める。
「うわ…!何だあいつら?小鬼か…まるでRPGに出てくるゴブリンみたいだな」
一人の男子生徒が笑いながら話す。
そしてもう一人がゴブリンの処遇を尋ねる。
「どうする?」
「殺るに決まってんだろ!」
コブリンに向けて二人の生徒が発砲する。二人の放った銃弾は外すことなくコブリン全員に命中する。
「キェャャャャ!」
ゴブリンは鮮血を迸らせることなく、ジリジリとノイズを出しながら姿を消していく。
「殺った…のか?」
「多分な、時間がない急ぐぞ!」
二人は駆け出す。
三階に着くと二人は困惑の色を浮かべる。
「二階に続く階段がねぇぞ!」
そう、普段はあるはずの階段がないのだ。
その原因もユナが説明する。
「簡単にクリアされてもつまらないうえに素質を見極めることもできないので、階段は一階一階しか使えないようにしました。階段は反対側にあります・・・」
その説明に一人の生徒が激昂する。
「ふざけんなぁ!サポートするんじゃなかったのか!俺らはお前らのためにやってんだぞ!」
その筋違いな態度にユナは先程までとはうって変わって、低く冷たく答える。
「ふざけるな、ですか。私は最初に言いましたよね?強制ではないと・・・。魔法使いに必要なのは体力・精神力・忍耐力が一番必要です。それを見極めたうえで魔力の量も見れたら最高だったのですが、あなた方はその素質をお持ちではないようですね」
ユナはふっ、と挑発的に笑う。
その態度にもう片方の男子生徒も憤りを露にする。
「なめやがって!ぜってぇクリアしてやる」
二人揃ってユナの声のした方に中指を立てる。
二人が反対側に位置する階段に向けて駆け出した時だった。
ひゅんっと風を切る鋭い音とともに何かが廊下を走る。
「―――――!?」
一人の男子生徒の右肩に粗末な矢が突き刺さっていた。
傷口からはとばとばと真っ赤な血が流れ出す。
「…っあ、あ…イタイイタイイタイ…」
あまりの痛みに生徒は顔を歪める。
「落ち着け。傷口を押さえていろ」
無事だったもう片方の相棒は、傷口を押さえ今も尚嗚咽が止まれないパートナーを階段の壁際まで引きずりながらも運び出す。
制服の内ポケットからパステルグリーンの指輪を取り出し右の中指にはめる。
「これから矢を抜いて、傷口を塞ぐから歯を食い縛ってろ」
「…あぁあ…わかった」
粗末な矢に手をかざし、勢いよく抜く。
傷口からは障害物が無くなったことにより、血が先程より勢いを増して流れ出す。
「イテェョォ…!早くしてくれぇ…」
パートナーが痛がるなか、パステルグリーンの指輪を傷口にかざす…
―――――が、何も起きない。
先程目の当たりにしたような淡い光が起きることはなかった。
「あ、あれ…?どうなってんだ」
徐々に焦り出す。
そうこうしているうちに、二人の目の前に矢を放った者…。
布の衣服を纏った骸骨が腰に携えていた短剣を握りながら立っていた。
骸骨。言わばRPGの世界に住んでいるモンスター、スケルトンがカタカタと骨を鳴らしながら無機質に嗤う。
「ヤバイヤバイヤバイ…!」
スケルトンは短剣を二人に向けて振り下ろす。
―――――しかしその刹那。何かが割れる音が校内を木霊する。
気がついたら二人は体育館に居た。
ゲーム中に負ったはずの傷は綺麗に無くなり、体育館の中央に抱き合いながら立っていた。
「あれは精霊が仕掛けておいてくれた、緊急処置です。対象物が死に瀕した時に傷を治し安全な場所にテレポートをしてくれる。ですが一回きりの代物なのでもう発動しません…。それでも挑戦したい方はいますか?」
ユナは困惑を隠せない生徒たちに問いかける。
きっと他の生徒たちはもうあの惨劇を見てもなお挑戦しようと愚かな真似はしないだろう。
それでも俺は…。
今までの平穏な日常にどこか飽きを感じていた。
追い求めていたものがやっと目の前に存在する。
今の俺は狂っているのだろうか…?
それでも俺は…やりたい…。
「なあひより… 挑戦してもいいか?」
俺はひよりを真っ直ぐに見据え話す。
ひよりは俺の言動に目を見張る。
だがそれは最初のことで、あとは優しく微笑みながら頷いてくれる。
「ありがとう」
一言言い残し。俺は他の生徒たちの間を掻き分けて前に一歩出る。
「ユナ。そのゲーム、俺たちにやらせてくれ!」
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