〈渡り〉の城柵――望春に駆けよ――
鹿紙 路
序
「見よ、
白い息を吐きながら、父は熱い手で春野のちいさな手を引いた。
「ぼう、しゅん?」
灰色の厚い雲を、一筋、明るい光が割り、雪と黒々とした裸の木々を照らす。父の指先が示すのは、その木々のうちのひとつ――……しかし、その
長細い花弁の紫の花――
「
「きれい」
「うむ。春野と、同じ字を持つ花である」
父は、目尻の皺に目をうずめるように微笑み、寒さで赤くなった春野の頬をさすった。
「父上、」
父が急に自分に触れたので、春野は驚いた。身をこわばらせる間もなく、父は軽々と自分を抱き上げた。
「届くか?」
ひとつだけひらいた花に、春野は手を伸ばす。
「いいえ、父上」
木蘭の枝は遠く、春野は手を空ぶらせた。
「だろうな」
からからと、父は笑った。そして、髭に覆われた頬を春野に寄せる。
「父上、痛いです」
両手で父を押しやろうとしても、彼は一向に意に介さない。
「いまに、届くようになる」
彼は久しぶりの日差しに目を細める。
都と異なり、雲が丸ごと落ちてきたように降り落ちる雪も、きびしい吹雪も、少女にとってはこころ躍ることだった。同じ年頃の子どもたちの輪に飛び込み、彼らのする雪遊びをして、雪まみれになって風邪を引いたこともある。
川が凍り付き、歩いて対岸に渡れることも、つららが軒に連なることも、春野は全身で楽しんだ。どこまで駆けても、そこには雪があった。白と黒の世界で、彼女は頬を赤くして転げまわった。
都で一緒に暮らした母は死んでしまった。
だから、彼女は父のもとに来て、父のようになる術を学ぼうと思った。
春野は
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