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 あの頃はクリスマスの意味よりも、ただ楽しいイベントを心から楽しんでいた。子供だったから仕方ないのだけれど。

 だからいつもこの時期になると、懐かしくなる。楽しい冬の始まり。大人になった今でもついソワッとしてしまう。

 特に何もないのだけど。恋人もいないし。家族とも離れているし。今年もミサに参加できそうにないし。

「寂しくはないんだけどなぁ」

 どちらかというと虚しい? リア中爆発しろ! とまでは思わないし、むしろ売上上がるし、ありがとうって感じだけど。

「今年はせっかくだし。クリスマスケーキ頼もうかな」

 イブが日曜だから斉藤君もいるし。え、多分いるはず。休みの連絡受けてないし、確か彼女いないはずだし・・・。

「ま、ミケもいるしな」

 いざとなれば裏の店に持って行ったら誰かしら食べてくれるだろう。

 どんなケーキにしようか。俺にはホテルのケーキなんて食べ慣れてなくて、もったいない。商店街のパティスリー森野の素朴で優しいケーキが良い。手作りはしていられないし。

「ブッシュドノエルか、クロカンブッシュか」

 シュークリームが売りのパティスリー森野なら、やっぱりクロカンブッシュだろうか。プチシューを重ねているのなら食べやすいし、今年はそうしよう。

 ふと、そう考えていた自分の顔が穏やかなことに鏡の反射で気づく。

 良い歳したおっさんがクリスマスケーキではしゃいでいるなんて。

「はっ」

 別にいいじゃない。いくつだってクリスマスは楽しみなものなのだ。

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