第4話 おばけなんてないさ
肝試しに行くことになった。聞けば、その場所は有名な心霊スポットらしい。
建設中の事故で死んだ労働者を壁に埋め込んだトンネルを抜けると、昔殺人事件があったホテルの廃墟があるそうだ。
そこでは、風もないのに冷気に吹かれたり、女の霊が出てきて、呪いの力で心臓が止められるとの話だ。
なんとも馬鹿馬鹿しいと内心あざ笑いながらも、皆に合わせて興味深い振りをした。
男二人、女二人で車に乗り込み、夜になってから出発した。
運転は他の人に任せ、後部座席で様子を見ていた。
しばらく走ると、車は山道のトンネルに差しかかった。
トンネルは建設されてからかなりの年月が経っているようで、老朽化が目立っている。オレンジ色のライトが内部を陰うつに照らし出し、天井と壁からは圧迫感を受けた。
隣に座る女が声を上げた。
「窓に手形がついている!」
それは先程自分がつけたものが、トンネルの照明で浮かび上がったものだ。
ついでに助手席の女も取り乱し始めた。
「なに、やだ! 何かいるの?」
そう言ってフロントガラスから外をのぞき込み、叫び声を上げる。
「人の顔が天井から降りてきた!」
それは君の顔がガラスにうつったのだ。
運転席の男性は動揺しつつもハンドル操作を誤らなかったので、車は無事トンネルと通過した。
「本当に出るんだ。トンネル怖い~」
大騒ぎする同乗者を、微笑ましい気持ちで眺めていた。
しばらく走ると、車は件のホテルに着いた。
窓ガラスは割れ、壁は塗装が剥げ落ち蔦が絡みついていた。確かにそれなりの雰囲気はある。
ドアは壊れて開きっ放しになっていた。壊れた懐中電灯を手にして、建物の中に進んだ。
女性二人は尻込みしていたが、車で待つのも怖いということで、一緒についてきた。
内部に入って、ロビー、浴場、食堂を探索してみる。
「なんか今、首筋がヒヤッとした! 風吹いてないよね! やばい! なんかいる!」
テーブルや椅子が散乱した食堂で、女の一人が騒ぎ出した。
確かに風は吹きこんできていない。しかし、人間は恐怖を感じると体温が下がるように出来ているのだ。温度で獲物を察知する爬虫類から逃れる機能の名残だと言われている。幽霊なんていない。
帰りたがる女子二人を引き連れて、階段を上る。
我々は、最上階の客室にたどり着いた。噂では、ここに髪の長い白い服を着た女の幽霊が出現するという。
部屋の奥から何かが動く気配がして、髪が顔にかかる程長い、白い服を着た女が出てきた。
女二人だけでなく、運転役の男も悲鳴を上げて逃げ出した。
何を慌てているのだ。このステレオタイプの造形。誰でも思いつくような姿だ。輪郭もはっきりしている。幽霊なんかではない。呪いで心臓を止めるなんて出来やしない。
包丁を振り上げて向かってきた。
ほら、物理的攻撃に頼っている。
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