第9話
「お、おは、おはよ……」
キョドってないで、ちゃんと言うのだ。
同じクラスなのに交流ゼロだった、隣の席の女子に朝の挨拶を。
「お……おは、おひゃやう!」
「ひぃ!?」
おぃ、ビビられてるぞ。
どうにかリカバーして切り抜けろ。もちろん笑顔でな。
「そのぉ……ドゥへへ、あたしね、笑顔で朝の挨拶をね、ニタァァ~」
「ひぅぅっっ!?」
「もういい! 鳴瀬は頑張った! だから無理すんな――ってか、怯えさせるな!」
「鳴瀬美海は! 真冬のイメチェン作戦! 実行中です!」
「クラスメイトの皆様には、大変なご迷惑と恐怖をおかけしておりまーす!」
見かねた男子が、助け舟に来てくれたな。
というか、放っておけなかったようだが……まあ、お礼ぐらいしておけ。
「うにゅぅぅ……あ、ありがが……」
「どーして鳴瀬は、ありがとうの一言がスムーズに言えないんだよ……」
「あ、ありが……」
「オマエは聖書を読めと言われた吸血鬼か」
「もしくは卒業式で君が代を歌えと言われた社会科の教師」
「鳴瀬のコミュ障がここまで重症とは……」
男子たちが、みぅの末期的な惨状に呆れている。
「前途多難だぜ……」
「うぐぐっ、苦労かけるわね……」
「美海ちゃん! 自分を変えようとする姿勢が大事なんだよ! だから頑張れ頑張れ! できるできる! だっから! もっと! やれるって!」
「その声援、なんか洗脳されそう……」
なんだかんだで、順調な滑り出しではなかろうか?
深刻なコミュ障のみぅを真人間に厚生させるプロジェクトの出だしとしては?
プロジェクトの要項を説明しよう。
様々な角度から、現状を分析した結果、みぅがクラスで浮いているのは自身に原因があることが判明した。
なにを今さら分かりきっていたことだが、これを放置すると教室の空気がヤバい。
ゆえに、各方面からの要請で、この作戦は行われる。
本作戦は3段階に分けて行われる。
第1段階は「スマイル・ストライカー作戦」である。
この作戦は、みぅの深刻なコミュ障を部分的に克服するため行われる。
作戦の成功条件は『毎日必ずクラスメイトの全員に笑顔で挨拶する』という簡単なものだ。
挨拶は社会生活において全ての基本であり、笑顔は人間関係の潤滑剤である。
これを無理なく行えるようにならない限り、コミュ障の克服は困難と予想される。
第1段階作戦を終えたら、作戦の第2段階に移行する。
これを「オペレーション・マザーグース」と命名する。
みぅが女子から嫌われる原因の1つが、他の女子とあまりつるまず男子と行動を共にすることが多いことだ。
これは同年代の女子から見て、面白いものではない。
本作戦はみぅを『女子グループのメンバーに加入させる』ことを最終目標とする。
女子は男子よりも仲間意識が強く、グループ同士で牽制をしあう性質がある。
女子高生は、たかがトイレに行くだけでも集団行動の必要がある生物だ。
単独行動は群れからの離脱を意味し、群れの庇護が消滅することを意味する。
群れの庇護下にない個体は、どうしても迫害の対象になりやすい。
これは本能的なモノなので、いくらみぅが馴れ合いを嫌っても対策は難しい。
そこで社会勉強も兼ねて、みぅには女集団に所属する経験を積ませることにした。
どこかの群れに所属すれば、それは所属する群れに保護されることを意味する。
そうなれば他グループとの関係悪化を恐れて、篠原グループも迂闊な行動に出れなくなると推測されるのだ。
第2段階作戦を終了すれば、念願の第3段階作戦に移行できる。
これを『シノハラ・ハラハラ作戦』と命名する。
第3段階作戦はすなわち、みぅイジメの中心である篠原グループとの和解である。
現状、みぅイジメに加担するのはクラスの女子の半数ほど。
積極的なのは篠原グループのみで、他の群れは篠原を恐れているに過ぎない。
ゆえに、現状の「 みぅの味方 < みぅの敵 」の状況が逆転すれば、みぅイジメに乗り気でない集団が、篠原グループに反旗を翻す公算が高い。
数的に有利な状況で篠原グループに和解を申し入れてイジメの最終解決を図る。
以上で『真冬のイメチェン大作戦3 ~怒りのキャラ設定変更~』の要項説明を終了する。
これは、かつてない困難な作戦になるであろう。
だが、みぅがプライドを捨てて自分を変えることが出来れば、本作戦は必ず成功する。
「無理よ……」
勝利の栄光をこの手に! 鳴瀬みぅの武運長久を祈る!
なお、処女膜の吾輩のドコに勝利をつかむ手があるかは秘密である!
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