第8話

「うん。無理」


 その日の夜、自宅で。

 処女膜の吾輩は、ぼっち娘のみぅに提案をしていた。

 ボロクソな学園生活を健全に戻す、ある秘策を提案したのだ。

 しかし、音速でみぅに却下された。

 吾輩は悲しいぞ。


「狙いは分かるけど、非現実的なの」


 提案が厳しいのではなく、美海の努力が足りん。

 学校内のイジメで悪いのは、もちろん加害者である。

 しかし、イジメられる側に問題があるケースも多々あるのではないか?


 こういう話題はタブーらしいが、処女膜の吾輩は遠慮なく言うぞ。

 みぅよ! 貴様は嫌われて当然の人種である!


「でしょうね」


 だったら、改善の意思を見せんか!

 そんな性格だから、一向に女子グループの味方が増えんのだ!

 今はみぅの味方をしている男子も、クラスの空気が最悪なのにウンザリしている。

 そのうち、相手にされなくなるぞ。


「別に構わないけど」


 また捻くれたことを。素直になれない強情娘め。

 迷惑をかけた工藤や、気にかけてくれるムラサキに申し訳ないと思わんのか。


 処女膜の吾輩が、ブツクサお説教をしていると。

 ガチャ――と、ドアが開いて、


「えへへっ。お姉ちゃんLOVE☆えたーなる。夜這いは妹の義務でお馴染み、夜風に紛れてハートをゲッツ、愛する妹の鳴瀬みりあが、おやすみのチューを求めに参上し」

「みりあ。昼間、家に変な人が来なかった?」

「いいえ。今日は一日家にいましたが、誰も来てないのです」

「そう。ならいいんだけど」


 うむ、確かに変なやつだったな。

 しかし、みりあは今日も不登校だったのか。


「今日も学校休んだの?」

「てへへっ。まだすこし行きづらいのです……でも、明日は登校するのです」

「無理しなくていいのよ」


 言いながらみぅは、妹のみりあをぎゅっと抱き寄せた。

 みぅの胸の中で、お姉ちゃんLOVE☆えたーなるのみりあは、


「ヘブン! ヘブンなのですっ!」


 はぁーと、ため息をつく。

 この妹、変態でさえなければ……


「お姉ちゃんも、学校どうなのです?」

「うーん」


 悩むまでもなく、サイアクである。


「はぁー。やっぱりお姉ちゃんはコミュ障なのですね」

「……うるさいわよ」

「お姉ちゃんは、もっと明るく、もっと素直に、なにより愛嬌を見せるのですっ」


 うむ。吾輩もよく言っている。

 まったく言うことを聞く気配はないが……みぅよ。

 こけしから、手を離すのだ。


「そこでっ! 私はお姉ちゃんが高校で孤立しないためのプランを考えたのです!」

「また余計なことを……」

「えへへ。お姉ちゃんは私が守るのです。これぞ名付けて『真冬のイメチェン大作戦3 ~怒りのキャラ設定変更~』なのですっ!」

「わー、ぱちぱち……聞き流していい?」


 ちゃんと、聞いておけ。

 たぶん、みぅに足りないものが分かるであろう。


 それから、数分間に渡って。

 鳴瀬みりあ監修「真冬のイメチェン大作戦3」の作戦要項は説明された。

 だいたい、吾輩の提案した秘策と同じであった。


 もちろん、


「……無理に決まってんでしょ」

「やるのです」


 みぅが拒否するのも同じだが、みりあは吾輩より押しが強い。

 これは、明日が楽しみであるな。

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