第5話

 ある日――

 クラスメイトに「あんたのこと許さないから」と言われたらどうするか?


 多くの人は、その理由を尋ねるだろう。

 だが、返ってきた答えが「同じクラスの工藤君と仲良く会話してたでしょ? 一人だけ抜け駆けしないでよ!」であったら?


 みぅのケースでは「はぁ?」と首を傾げて「バっカじゃないの?」と言い放った。

 女同士のイジメは、そんな些細なコトから始まる。





 みぅが教室に入ると、空気が凍るのを感じた。

 クラスの視線がみぅに集まり、皆の会話がピタッと止まる。

 静まり返った教室内には、女子生徒たちのクスクスと押し殺した嘲笑だけが響く。

 グループごとに集まる女子たちに、みぅはキリッと威嚇のひと睨み。

 教室を見回すと、みぅの机に男子生徒らが集まっていた。


「なにかあったの?」

「鳴瀬の机に初音ミクを詰め込んだバカがいてな……」

「はぁ?」


 みぅは、首を傾げた。

 初音ミクとは、アレだな。

 日本で一番人気がある、女性ボーカリストのことだ。


「で、その初音ミクがどうしたのよ?」

「まあ見てみろ」


 クラスの男子が、親指を机の引き出しに向ける。

 みぅが、机の中を覗き込むと。


 初音ミクの生首が、呑気な顔で「オハヨー」してた。


「なによ、コレ?」

「きれいな顔してるだろ? 喰えるんだぜ、それ」


 この生首は、きっとアレだ。

 最近コンビニで発売された「初音ミクまん」の残骸に違いない。

 ミクの生首を食べてよ――と、頭部を模した食べづらい肉まんである。

 見るがよい。ネギと肉汁たっぷりな具材が溢れているぞ。

 ベトベトな机は、すごぉ~くネギ臭いな。


「サイアクね……」


 みぅが呟くと、教室の各所から風船が弾けたような笑いが聞こえてきた。

 背中で感じるのは、女子たちの爆笑とねちっこい視線。


 みぅは、それに無反応。

 軽い舌打ちはしたが、ここで怒り狂っても彼女らを楽しませるだけだ。


 かと言って、このまま泣き寝入りするのも癪に障る。

 暴れたくなる激情を抑えつつ、今はとにかくネギ臭がヤバい。

 周りの男子も嗅覚をみっくミクにされて、プチ鬱モードでウンザリしている。

 地味に与えるダメージのデカイ嫌がらせだな。


「鳴瀬ミク、コレどうすんだよ?」

「あたしは鳴瀬みぅ。どうするも何も片付けるしかないでしょ?」

「でも、匂いヤバいぜ」

「このイタズラ、実行犯たちも被害受けるだろ……」

「女子ども、いい加減にしろよ……」


 男子生徒たちは、女子連中の蛮行にブツクサと文句を言い続ける。


 それは、珍しくない日常風景だった。

 同じクラスの女子たちから、ぼっち娘のみぅが陰湿なイジメを受けるのは。


 みぅは、クラスの一部女子から嫌われている。

 それゆえに、みぅはイジメのターゲットにされている。


 このイジメには多くの女子生徒が参加しているが、中には乗り気でないモノも多いらしい。

 だが、女という生物は集団行動を好む傾向がある。

 男に比べてグループ意識が強いのだ。


 お揃いの文房具やキャラクターグッズを仲間内で揃えたり、トイレに行く時は常に誰かと一緒などが典型だが、女という生物は常に自分がどこかの集団に所属していることを大事にして、同時にその集団から排斥されることを恐れる。


 ゆえに群れる傾向のある女子は、仲間内で共通の敵を作り出し、その敵を共有することで友情を確認しあう行動に走ることがある。

 ここでターゲットにされるのは、グループ外部の人物であったり、グループ内部で立場の弱い人物であったりと、ケースにより様々だが、


「ったく、ネギくさっ」


 どこのグループにも属しない一匹狼は、まさに恰好な獲物であろう。


 みぅは、うんざりモードでため息をひとつ。

 ほかほかと湯気を立てる生首の始末を思案して、ウザさと怒りのゲージは上昇。

 さらに、みぅを苛立たせるのは、


「ひそひそ――鳴瀬がまた男に媚売ってるよ」

「ひそひそ――悲劇のヒロイン気取りで、男子からお姫様扱いとか羨ましー」

「ひそひそ――あいつ、自殺すればいいのに」


 教室の各所から聞こえる、言われもない誹謗中傷。


 ――いい気味

 ――バカみたい

 ――もしかして怒ってる

 ――あはは

 ――なにあれ、おもしろーい。


「鳴瀬、相手しなくていいぞ」

「分かってるわよ」


 男子の忠告に、みぅはムスッと拗ねた表情を浮かべた。


 イジメの発端は、くだらないことだった。

 クラスで一番のイケメン男子「工藤くどう純一じゅんいち」が、みぅに声をかけたのだ。


 ぼっちで暇を持て余していたみぅは、休み時間が終わるまで無駄話に付き合った。

 女子たちはそれが気に食わなかったらしく、みぅを放課後に呼び出した。


 聞いた話によれば、工藤は女子の間で『だれも私達の王子様に手を出さない条約』みたいな紳士協定で保護されていたらしい。

 もちろん、王子様の意思はアウトオブ眼中。

 女子だけで、勝手に決めたそうだ。

 

 そんなルールを知ったみぅの反応「バっカじゃないの?」はマズかった。

 みぅはクソみたいに捻くれモノで、深刻なコミュ障で、協調性がダークサイドに堕ちきった一匹狼という名のぼっちオブぼっちで、友達付き合いとか集団行動を意識しろとかは無理ゲーだが。

 無論、女子たちに「あいつ、ナマじゃない?」と嫌われて当然である。


 こうして、起きるべくして、みぅイジメは始まった。


 だが、みぅはアレな性格だ。

 シカトされる程度ではダメージゼロ。

 むしろウザい会話が減らせて喜んだほどだ。

 陰口や誹謗中傷はウザったいが、こっちはまだ許容範囲。

 廊下ですれ違いざまに「生理くせぇよ」と呟かれるのはイラつくが、まあ我慢できない程でもない。

 なお、その日の風呂はいつもより長かった。


 孤独耐性ありまくりなみぅの「だから? レベル低いんじゃないの?」な態度がしゃくに障ったのか、女子たちの嫌がらせは日々エスカレートしていった。


 その到達点が――


「ネギ臭がヤバいわね……」


 初音ミクの生首放置事件である。

 今までは精神的な嫌がらせがメインだったが、物理的な実害が伴うと堪える。

 そんなイジメが始まる原因となった、クラスで一番のイケメンは言った。


「鳴瀬も苦労してるな」

「本人不在でファンクラブ作られて、御神体に祭り上げられるよかマシよ」

「まったく涙が出てくるぜ。ハンカチ貸してくれ」

「持ってないわ」

「なら、パンツで構わない」

「それは履いてるけど、断固拒否する」

「だったら交換しよう。俺のトランクスと鳴瀬のパンツをトレードだ。鳴瀬は俺のトランクスで初音ミクの肉汁を掃除する。俺は鳴瀬のパンツで涙を拭う。これで全てが解決するハズだ。肉汁はトランクスで拭き取って、悲しみは鳴瀬のパンツに染み込ませる」

「そして工藤君は肉汁まみれのトランクスで一日を過ごすのね」

「俺の肉棒が肉汁まみれになってしまうな」

「そのアホみたいなシモネタを控えてくれたら、あたしは嬉しいかも?」

「俺がシモネタを控えたら、鳴瀬はパンツを貸してくれるか?」

「あんたの更生を少しでも期待した、あたしが愚かだったみたいね……」


 クラッと頭痛に、フラッとめまい。

 怒涛のシモネタ百烈拳に、みぅのハートはユアーショック。

 コイツは手遅れ打つ手なしと、手術中に万策が尽きた医者みたいに首を横に振る。

 呆れ顔のみぅは、工藤に問いかけるのだ。


「あんた、なんでモテるのよ?」

「さあな? 顔のせいじゃないか?」

「他の非モテな男子に刺されても知らないわよ……」


 嫌味のない口調でたわけた正論を言う工藤は、爽やかな笑顔を浮かべた。

 まったく、工藤という男は恵まれている。

 顔はイケメン、声もイケメン、背も高くて、頭脳明晰かつ運動万能で、実家はお金持ち。気になる性格も発言から分かる通り、男らしい嫌味のなさに好感が持てる。

 ここまでハイスペックだと女子どもが放っておかないのも分からなくないが、この世界は嫉妬と独占欲が渦巻く女どもを統率してハーレムラブコメできるほど甘くないらしい。


 結果としてモテることがトラブルを引き起こして、本人不在のまま騒動の発端になってしまったことを気にしている。

 それゆえ工藤は、女子生徒にほとんど絡まない生活を送るよう心がけているが、その硬派な考えと性格の良さがさらにモテる要因となっているのだから始末におけない。まさにイケメン正義である。


 余談だが、下ネタ好きなのは不治の病で、本人が曰く死なないと治らないらしい。

 シモネタ王子の工藤は、みぅの耳元で囁いた。


「わるいな。力になれなくて」

「あたしは気にしてないわよ。クソ迷惑でうんざりだけど」


 ただの強がりだった。

 みぅがこの状況に気を病んでるのは、吾輩もよく知っている。


 だが、


「迷惑なのは工藤君も同じ。あたしには構わないで」


 強がりばかりで、本音を言えない。

 ウソつき、ホラ吹き、素直になれない、ひねくれモノな、かわいくない奴。

 それが、鳴瀬美海という女だった。


「あたしは一人でいいの。誰の助けもいらないの。だから私に構わないで――痛っ」


 パチーンっと。

 工藤が、みぅの頬に張り手を放った。

 ほっぺにヒリヒリとした痛み、思わず手のひらで触れた熱さに驚く。


「バーロ。いきがってんじゃねぇよ」


 みぅを平手で殴った工藤は、静かな怒りを込めた口調で言った。

 教室がざわめいて、視線が一点に集中する。


 表情を引き締めた工藤は、淡々とみぅに話しかける。


「俺も含めて、鳴瀬の態度にはみんなが迷惑してるんだよ」

「……別に構わないでしょ」

「まだつっぱるのかよ。人の好意は素直に受け取るもんだぜ。タダだしな」

「……うん」

「そして、体育の授業ではブルマを履いて欲しい」

「断固拒否するわ」


 熱を帯びた頬をさすりながら、みぅは反射的に答えた。


 先ほどの平手は、いわゆるショック療法であるな。

 意地を張るみぅに一撃かまして、ハッと目を覚まさせるというアレだ。


 うむ、やはり工藤はいい男だ。

 イケメンで、性格も良くて、男らしさがある。

 すべての女子が抱かれたくなる要素でたっぷりだ。

 でも、処女膜の吾輩は破かせないからな。


 覚悟を決めた男子たちが、みぅの机で作業を始めた。


「特殊清掃班、準備はいいか?」

「酷い現場だ……」

「ご遺体の搬出、完了しました」


 わいわい、ガヤガヤ。

 クラスの男子が、楽しげに初音ミクの後始末を始める。

 無理やり楽しんでいる感もしなくはないが、いわゆるヤケクソなのだろう。


「……助かるかも」


 遠慮がちに感謝を述べながら、みぅは鼻をヒクヒク。

 ネギの匂いがヤバかった。


「鳴瀬、制汗スプレーで匂い消えると思う?」

「さぁ? 試してみたら?」


 男子の問いかけに、みぅはそっけない返事。

 まったく可愛くない奴め。笑顔でありがとうぐらい言え。


「うぉっ!? 鳴瀬の机、油ギッシュでトイレットペーパーじゃ落ちねぇッ!?」

「今日は机を諦めるから、匂いだけどうにかしましょう」

「制汗スプレー使いすぎて、鳴瀬の机が便所の芳香剤状態になった件だが……」

「ネギ臭いよりマシだし、たぶん慣れるから大丈夫よ……たぶん」

「今回の清掃で! 我々は! なんの成果も得られませんでしたッッ!」

「みんなはよくやってくれくれたわ……」


 面倒そうに答えるみぅだが、それを遠くから見つめる女子たちの視線が痛い。

 どうやら女社会は、イケメン男子に助けて貰うだけで嫉妬の対象になるらしい。

 吾輩の声に反応したのか、みぅが心の底からウンザリと言った。


「ほんと、女ってメンドくさいわね……」

「鳴瀬、もう先生にチクろうぜ。俺らの手には負えねぇよ」

「どうせ前みたいに証拠不十分で、臨時の学年集会であたしが晒し者にされるだけでしょ?」

「鳴瀬も苦労してるな。一応、担任には知らせておく」

「ありがと」


 おぉ! みぅがお礼を言うなんて珍しいではないか!

 この調子でコミュ障も改善されると良いのだが、道のりは遠そうだ。


 ロクでもない状況でも平然とするみぅに、男子の一人が呆れた口調で言った。


「鳴瀬って、ガチでメンタル強いよな」

「ロクでもない人生送ってきたんだから、タフにもなるわよ」

「あ、わりぃ」

「気にしてないからいいわよ。あたし、メンタル強いし」


 また強がりか。意地っぱり娘め、

 なお、みぅに言わせれば、自分は工藤グループに入ってないらしい。

 向こうが一方的に話しかけてくるのを、ぼっちで暇だから相手してるだけだそうだ。

 素直じゃない奴め。本当は嬉しいクセに。


 しかし、これは女子グループがキレるのも分かる。

 鳴瀬美海という女は、捻くれモノだが見た目は良くて、誰にも媚びずマイペース、ルックスだけで男にモテるという、まあ女から嫌われる要素が揃っている。

 というか、少しは他人への配慮を覚えろ。


 吾輩の苦言を聞き流して、みぅがプイッと首を横に振った。

 その時、澄んだロリ声が教室に響いた。


「篠原さん、どうしてこんなことするの?」


 教室の隅っこで、誰かを問い詰める声が聞こえた。

 途端に湧き上がる、ケタケタという嘲笑。


「美海ちゃんの机に初音ミクを入れたの、篠原さんのグループでしょ? どうしてこんな酷いことするの?」


 視線を、そちらにやる。

 五人組の女子に、たった一人で立ち向かう女がいた。

 会話に出てきた篠原とは、みぅイジメの主犯格のことだ。


 名前は、篠原しのはら麗子れいこ

 寡黙で口数が少ない女だが、妙なカリスマ性があるらしく、常に取り巻きに囲まれている。

 その容姿を一言で述べるなら、黒魔術にハマった女子高生だ。ウェーブのかかった髪には痛みが目立ち、常に血色が悪い顔には不健康な印象がある。


 篠原は、良くいえば大人びていて、悪くいえば若々しさがない。

 だが、時折ゾッとする美しさを魅せることがある

 負のオーラが強い独特の雰囲気がなければ、かなりの美少女に分類される。


 問い詰められる篠原は、感情が希薄な声音で言った。


「私は知らない」

「しらばっくれるのは良くないよ。美海ちゃんの机に生首入れたの、篠原さん達でしょ?」

「猟奇的な事件ね。悪魔に貢物を捧げて、現世に召喚する儀式かしら?」

「茶化さないで! どうして、こんな酷いことをするの!」

「悪魔の証明をさせるつもり?」

「……なにそれ?」

「証明することが非常に困難な命題を証明すること。鳴瀬さんの机に生首を放り込んだことを犯人が証明することは簡単。だけど、私が鳴瀬さんの机に生首を放り込んでいないことを証明することは非常に困難。よってこの場合に証拠を提出する義務があるのは、私を犯人と疑っている中村さんにあるわ」

「うぐっ……でも」

「証拠はないんでしょ。なら私は無関係ね」

「そ、そんなぁ……」


 たじろぐ少女は、中村なかむらさきという女子生徒だ。

 アダ名は「ムラサキ」。

 底抜けに明るい性格の持ち主で、男子からも女子からも人気がある。

 清楚なショートヘアーは、華奢な体がよく似合っている。

 小柄で弱々しい見た目のムラサキだが、ひとりで果敢に篠原グループに文句を言う度胸は褒めたものだろう。

 しかし、正義感が強すぎるのが、彼女の欠点でもある。


「けど! こんなことするのは篠原さんのグループぐらいしか」

「なら、証拠を出して」

「うっ」


 生首事件の犯人が篠原グループなことぐらい、教室の誰もが感づいている。

 だが、それは憶測で決定的な証拠はない。


 情勢の有利を察したのか、篠原の取り巻き連中が喚き始めた。


「うわー。言いがかり乙」

「むしろ冤罪、こっちが被害者じゃない?」

「ねぇねぇ、ムラサキに謝罪要求しちゃっていいかな?」

「それ名案だよ。土下座、土下座」

「――やめなさい」


 リーダーの篠原は、盛り上がるメンバーを手のひらで制した。

 そして、ダルそうな口調で言うのだ。


「暴走」

「えっ?」

「全部こいつらの暴走。押さえきれなかったの。話はそれだけ」


 興味なさそうに、言い終わると。

 篠原は化粧道具を取り出して、血色の悪い唇にルージュを塗り始めた。

 視線を鏡に固定した態度は「会話はここまで」という無言の意思表示である。


 ムラサキは何か言いたそうだったが、やがて諦めたのか。

 小走りで、こちらに走ってきて、


「美海ちゃんも怒ろうよっ!」

「いや、怒ってるし」

「だからぁーッ! 美海ちゃんがそんな態度だから、篠原さんたちも増長するの!」

「じゃあ、どうすればいいと思う?」

「怒ろうよ! どうしてガンジースタイルで不殺傷プレイを貫いてるのっ!」

「リアル世界がクソゲーだから」

「だれがうまいry そうじゃなくて戦わなきゃ! 勇者みたいに!」

「勇者ならやってたわよ。前世で」

「魔王、倒せた?」

「うーん、引き分けエンドかも?」

「なら、現世ではイジメと戦って倒そうよ!」


 そう言いながら、膨らみのない胸を叩くムラサキ。


「わたしは美海ちゃんの味方だから、思う存分頼ってもいいよ!」

「あ、そう」


 みぅは、ムラサキの親切にそっけない返事。


 ほんと可愛くない奴だ。

 周囲の男子たちは、小柄なクラスメイトに賞賛を浴びせる。


「いよ、頼りになるな」

「ありがとぉ!」

「でも、声ウルセーぞ」

「咲ちゃんを嫌いになっても、美海ちゃんは嫌いにならないで下さぁーい!」

「ボリューム下げろぉー」

「っ…、……」

「あはは、下げすぎだって」


 男子に肩を叩かれて、あざとく「えへへっ」と笑うムラサキ。

 ムラサキの周りには、いつも人がいる。

 女子では珍しく特定のグループに所属せず、社交的なので交友関係が広い。

 地味な男子にも積極的に話しかけるので、よく変な勘違いをされて困るらしい。


「美海ちゃんも、楽しく笑おうよぉ!」

「うーん」


 ムラサキにぎゅっと抱きつかれながら言われて、みぅは反応に困っている。

 男子たちは、なぜか頬を赤く染めて目を逸らした。

 女の子が女の子に抱きついただけだ。

 これのどこに、男子が赤面する要素があるのか不明である。


「どーして、あんたらが赤面してんのよ?」


 声を出せない処女膜な吾輩の疑問にナイスフォロー。

 みぅ、貴様もやればできるじゃないか。


 真っ先に答えるのは、イケメン男子。

 工藤は親指をビシッと立てて、爽やかなスマイルで言うのだ。


「もちろん、鳴瀬とムラサキで変な想像したのさ!」

「工藤君。イエローカード1枚ね」

「ムラサキ! 鳴瀬の胸を揉むんだ! オマエならできる!」

「これで二枚目。次はレッドカードよ」

「フッ。退場はお断りだが、女の子の張り手なら大歓迎だ」

「性癖、だいぶ歪んでるようね」

「かわいい女の子の暴力は、我々の業界ではご褒美なんだぜ?」

「安定の気持ち悪さね」

「ねぇねぇ、美海ちゃん」

「おさわり禁止、NOタッチで」

「えーっ!」

「追加料金を払うから、プレイ続行をお願いできないか?」

「工藤くん、真っ赤なカードが欲しい?」

「追加料金っ!? ねぇねぇ、いくらまで払えるっ!?」

「ポッキー1箱を出そう」

「交渉成立だねっ! 美海ちゃんとわたしでジャッジメントですの!」

「ったく。手元がアウトですの」


 Dカップを後ろからモミモミされて、美海はため息。

 そんな光景を、篠原グループのメンバーは苛立ちながら見ていた。


「はぁー、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだわ」

「トッキーがキレるのも分かるよ。鳴瀬、ほんと自殺してくれないかしら?」

「コッチーって沸点低いよね。みかんはどう思う?」

「カガミンと同じ。鳴瀬まじでウザい」

「…………」


 低レベルの悪口を言い続ける、篠原グループ。

 余談だが、篠原の取り巻きは「四国軍団」と呼ばれている。

 それぞれの苗字が「徳島すだち」「高知かつお」「香川うどん」「愛媛みかん」なのだ


 そんな、覚えやすい軍団の中で。

 リーダーの篠原麗子だけは、無関心にマニュキュアを塗っていた。


「ねぇ、シノ」

「なに?」

「アイツどうする? ちょっと図に乗りすぎだよ?」

「……そうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る