Ep.3 異形

立っていたのは身長150センチメートルほどの華奢な少女。


漆黒の長い髪を背中に垂らし、衣服はこの世界に似つかわないものを着用していた。


「......え」


彼女の視界も戻ったのだろう。目にした光景に対して放心したように硬直し、息を吐くように声を漏らす。インテグラルは満足気な顔で、そんな彼女に歩み寄った。


「素晴らしい。召喚中はとてもじゃないが確信に至れなかったが、こうして実際に目の当たりにしてしまったら信じざるを得まい」


ビクッと震える身体。少女はようやくインテグラルの存在に気付き、同時に大きく目を見開いた。


「あ......あ、あ、悪魔ッッ!?」


「ご挨拶だな。俺の方こそ、貴様のような"異形"に近づくことは中々におぞましい」


インテグラルの言葉は嘘ではない。先ほどの不遜な態度と打って変わって、額に少量の汗を滲ませているのがその証拠だ。


「角も無い。翼も無い。かといって人間以外の生物には該当しない。貴様は何者だ?」


「......。」


「口を開け。俺の問いに答えよ」


インテグラルは更に歩み寄る。


「こ、来ないでぇっ!」


「!」


恐怖に耐えかね、身体を抱えるように後ずさる少女。インテグラルも足を止める。

 

 

だがこの時の少女の表情はどちらかというと驚きに近く......。

 

 


「爺」


インテグラルは爺に問う。


「何も異常はございません」


"今の発声に何らかの魔法の発動は確認できたか?"と。


「そうか......。よし」


安心したインテグラルは一瞬にして最大構築した魔法防御障壁を解除する。それほどまでに、この"未知の生物"への警戒を強めていた。


「聞け、貴様。貴様はこの第三代目インテグラル家当主、ウェントリヒ・インテグラルによって下位世界から召喚された。召喚の儀に従い、貴様に契約を申し込む」


腕を組み、胸を張りながら高らかに召喚の儀式を進めるインテグラル。


「けい、やく......?」


自分の身体をまじまじと眺めていた少女が呟く。


「そうだ。俺は相手が指定する勝負に勝つことで、貴様との召喚契約を結ぶことが出来る。勝負の内容は体力、知力、戦闘力......何でも構わない。ただし制限時間は666時間までだ。」


曇る表情。


「......もしそれに勝てなければ......」


「貴様が勝てば契約は不成立だ。俺の命は絶え、魔方陣の効力により元の世界へ再び召喚されるだろう。しかし、俺が勝てば貴様の魂の行使権が俺の物となる。」


「......!」


彼女はようやく命の危険を理解し始めてきたようだ。しかし、インテグラルは同条件の契約を既に二十四回連続で勝利している。残念ながら彼女が勝って帰ることの出来る可能性は低いと言えよう。


「さぁ、題目を決めよ。存分に挑ませて貰おうではないか」


「勝負のお題......。絶対勝てるもの......あっ!」


何かを思いついたように少女が顔を上げる。その目に光が宿る。


「クイズ、で。」


「問答だな、よかろう。その内容は?」


 


「私の名前を、答えてください。」



 

「......。」


「ご当主様」


静かに目を閉じるインテグラル。この男が絶対に知り得ない情報。それを問題にすれば勝ちは揺るがない。


そう思ってのことだった。




「構わん。それで良い。」

 

 


少女の顔が凍りついた。

 


一拍の間を置いて瞼を開けたインテグラルの瞳には、もはや侮蔑以外の感情は無かった。


フォォオン・・・。


魔方陣が両者の意図を汲み取り題目を承る。勝負内容の確定だ。もう逃れられない。


「題目は汝の名を正解すること。契約者である我が名はウェントリヒ・インテグラル」

 

時が止まったかのような静寂の中。少女の歯がカチカチと鳴り響く。



「貴様の名も、魔方陣に宣言しろ。その刻より勝負開始となる」



少女に絶望が満ちた。

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召喚獣契約?でも私ただの人間ですよ? 逢res @aires

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