Ep.2 召喚

......時は1ヶ月ほど前に遡る。




二十四体目の召喚。


「付き合いきれないな」


葉巻を吸う。薄暗闇の中に一筋の白い煙が流れる。インテグラル家の地下にある召喚魔術の契約部屋。現在、その辺り一面にはおびただしい肉片と血痕が散乱していた。


「思っていたよりも当たりが引けん。日頃から神に感謝しておくべきだったか?」


「お戯れを」


インテグラルの呼び出した二十四体目の召喚獣。巨大な狼の姿をした獣も、一撃のもと即座に肉塊と化す。もはやインテグラルは目線を向けることもない。


所詮、このような魔術で呼び出せる召喚獣は俗物であると分かっている。だが今はどうしても従えておく必要があった。


この世界に存在しない能力を所持する特殊な生物であれば良い。簡単に言えども、そんな途方もない確率を引き当てるために儀式を繰り返す。


それは無限の魔力を有するインテグラルだからこそ実行に移そうという思いつき。付き人の爺も、このような力技は今更だとでも言うように静かなものだ。


二十五体目の召喚。延々と魔力を魔方陣に注ぎ続けるインテグラルの前方から新たな召喚獣が姿を現しだす。


「......チッ。人型か」


顔をしかめるインテグラル。

またしても、ハズレ。


人型を成している生物は、どの世界から召喚しようとも強い力を持っている可能性はない。なぜならば、彼らは己の肉体の強化よりも技術と知恵の進化に重きを置く生物であるためだ。


ゆえに人型を召喚するメリットは知識を借りることただ一点にのみ存在する。まして戦闘に使おうものなら何か特別な道具を手にしたまま召喚されて来ない限り、到底役に立つ代物ではない。


だが、インテグラルのその常識は崩れ去る。


「ん......?」


召喚が進行するに従って実態を強める召喚獣の姿。その姿にある異変を確認する。主の怪訝な顔を察し、目線を重ねる爺。


「角が......無い?」


「翼も存在いたしません。」


そう。この宇宙にとって人型に分類される生物の条件は三点。


『一対の手足を持つ二足歩行種であり、ひと繋ぎの胴と頭で身体が構成されていること』『頭部に一本ないし複数本の角が生えていること』そして『有翼であること』。


人型は他の生物よりも遥かに多くの情報を自身に記憶させられる存在。そのため、それらの情報は到底脳だけでは処理しきれるものではないとされている。


だからこそ人型は記憶と演算の拡張器官として角、及び一対の翼を所持していなければならない。


にもかかわらず。


目の前の召喚獣は人型に非常に酷似していながらも、角も翼も無い。極めて異質。


「ぐっ......!?」


異変はそれだけに留まらない。召喚を行うために消費する魔力が、桁外れに必要量を増加させ続けているのだ。


まるで、無限を喰らうかのごとく。


「爺ッ!陣にエンチャントを施せ!バケモノを捕まえたぞ」


「直ちに......!」


「これほどまでの異常、それでこそ俺に相応しい。さぁ、最高の状態で顕現せよ」


手早く魔方陣に幾何学模様を書き足す爺を横目に、インテグラルは興奮したように一層の魔力を放つ。


閃光。そして耳障りに響く静電気の音。この数時間で体験し慣れた余韻と感覚。


すなわち、召喚成功。


視界は未だ回復しない。だが、そこに居るであろう魔物にインテグラルは邪悪な笑みを向け続けた。

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