召喚獣契約?でも私ただの人間ですよ?

逢res

Ep.1 オープニング


見上げる空は一面の紅。


大きく開けた大地には、荒々しくささくれ立った岩柱が点在する。


いたる場所が滑らかなクレーターのように消失し、凸凹の形状を晒していた。


その空間に佇むのは二つの人影。

 

否、それらは人の姿をしてはいるが人ならざる者であるため、多少語弊があるかも知れない。


 

 

さて、それでは少し覗いてみよう。

 

 


「流石はインテグラルの血筋。その無限とも思われる魔力の迸りは、この目で見るまで到底信じられるものでは無かったよ」

 

不敵に嗤うのは小柄の少年。

 

その身体は薄く透き通っており、良く凝らして見れば彼の後ろ側までも覗いて見える。まるで幽霊のような姿だ。


「思われる、のではない。俺の魔力は決して尽きぬ。この力こそが我が一族に受け継がれし魂の楔。貴様のような"出来損ないの永遠"を模した紛い物ではないのだ」

 

少年に相対するのは身の丈2メートルはあろう男。その風貌は蒼白の肌色に漆黒の髪。服装からは貴族の様な気品を漂わせる。その尋常ならざる雰囲気からは、姿形から想像出来ない威圧感が放たれていた。

 

「恥を知れ若造」

 

突如、その威圧感が質量をもって少年に飛来する。インテグラルと呼ばれた男が放った殺傷能力を有した殺気である。


少年はすぐさまその攻撃に気付いたようだったが、笑みを崩すことも防御を取ることも無く、ただただそこに直立した。


最初に分離したのは頭部。しかしそれを視認する間もなく粉々に砕け散る。


次に手足が一斉に四散した。飛び散った夕焼けより濃い赤も、高密度の魔力によってたちまち蒸発する。


最後に胴体・・・。


「君の言う紛い物だろうと永遠は永遠。僕は君と違い、絶対に死なないんだ」


だが、その状態で少年は言葉を発した。


あろうことか彼の頭部は消滅しきった瞬間から再生を始め、手足を爆砕された直後には完治していたのだ。

 

刹那の完全回復。

 

「不死の傀儡め・・・」

 

一瞬で元通りになった少年の身体は、蜃気楼のような半透明から徐々に実体を取り戻していく。そしてその背後からは首の長い紅蓮の鳥が姿を現した。この世界で「フェニックス」と呼ばれる存在だ。


少年はこのフェニックスと契約を結び、"同化"することによって擬似的な不死を得ているようだ。ただし擬似的と言えどフェニックスの不死は絶対的な不死であり、その無効化はあらゆる議論の余地もなく不可能。

 

少年は幾度も蘇る。

  

「とは言え、コチラの攻撃も一切効かないとなると......もう最悪の相性だと言わざるを得ないよ。かれこれ220時間だ、そろそろヤメにしないかインテグラル?」

 

再生した身体で耳をほじる少年。驚くべきことにこの状況は丸9日以上続いていたらしい。一向に死ぬことのない少年と一向に魔力の枯渇しないインテグラル。少年の言う通り、埒の明かない最悪の相性とも言えた。


対するインテグラルはしばし沈黙したのち、眉をピクッと動かす。

  

「どうしたの?」

  

「そう言えば、1つ忘れていたことがあった」

 

何かを思い出したように顎に手を当て、インテグラルは再び魔力を吹き出した。

 

「爺ッ!召喚の準備だ!」


「仰せのままに」

 

爺と呼ばれた骨と皮だけの弱々しい老人が、せっせと魔方陣の練成を始める。


驚いたのは少年である。この場に第三者が登場したことが余程予想外だったらしい。


「......ソイツは使い魔か?いつ召喚した?」


「爺か。こいつは俺の執事だ。ずっとここに居たが......それが何だ?」


「ずっと......居た?9日間ずっとか?」


「あぁ。居たぞ」

 

少年は更に大きく目を見開く。それほどまでに生命反応を感じなかったのだろう。不思議な老人だ。

 

「ご当主様、触媒はいかがいたしましょう?」


「うーむ。あいにく何も持ち合わせておらん。だが俺が莫大な魔力を注げば強引に"アイツ"を召喚できるだろう」


「畏まりました。では、こちらに」

 

爺が手早く練成した魔方陣の中央に進むインテグラル。

 

「最高位の陣にございます。発動可能段階で生成致しましたゆえ、あとはご当主様のお召すままに」


「ご苦労」

 

そう短く告げると魔方陣に手をかざし、魔力を注ぎ始める。

 

「・・・今度は何を始めるつもりだい?僕のフェニックスをコケにしておいて、自分も召喚獣頼り?」


「あぁ、まぁな。俺も今の今まで記憶から飛んでいたくらいだが......」


魔方陣が強く発光しだす。召喚ゲート開門の予兆だ。続くのは閃光。少年は堪らず目を細めた。


「くっ、何だ......?何を呼んだ!?」


地響き。凄まじいまでの魔力の奔流。


そして......。



「げほっ!ごほっ!ちょっ!あっ......!んぎゃあああああああああああ!?!?!?!?」



素っ裸の女の子が魔法陣の中央に姿を現した。

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